新たな風
数週間が経ち、ギルドの掲示板には新たな記事が貼り出されていた。
『ルクシア・モールは初心者向け。もっと濃い癒しや異種族との関係を求める方は、街の常連店へ――』
シンヤの手によるものだった。
無理に対立させるでも、競わせるでもなく、求める者に道を示す。そんな穏やかな導き。
今日もギルドの片隅では、いつもの三人がテーブルを囲んでいた。
「僕たちが留守にしてる間に、そんなことが起きてたとはね」
ティルが感心したように笑う。
「ワシらを置いて抜け駆けかよ、おい」
モグは肘でシンヤの脇腹をつつく。
「うるさいな。たまたま、流れで、だよ」
シンヤは照れたように笑いながら、二人のじゃれ合いに心がほどけていくのを感じていた。
くだらないけど、どこか懐かしくて、落ち着く日常。
「常連店のほうも、また客足が戻ってきてるみたいね」
カウンターからリアが声をかける。
「だったらいいな」
シンヤは素直にうなずいた。心からの、満足げな笑みを浮かべながら。
「はい、これ。あんた宛ての手紙。あの子とミィナからよ」
リアが封筒を2通、放り投げる。
シンヤはまず、ミィナのほうを開けた。
『シンヤのおかげでお客さんが増えたよぉ~、本当にありがとう~♡
次遊びに来てくれたら、サービスするからね。誰にも口外しない、
最高のサービス、期待しててよ~♡』
「……だってさ。たぎるな、これは」
ニヤける顔を隠しもせず、手紙を置いた。
「よかったなシンヤ、羨ましいぞ」
モグが言い、ティルも「詳細は後で」と悪戯っぽく囁いた。
「で、あの子のほうは?」
リアがわざとらしくため息をつきながら、目線をよこす。
シンヤは2通目の手紙を開けた。イルカ娘からだった。
『シンヤさんの提案を受け、私なりに考えた結果、上に直談判をしました。
ルクシアを変えたいと、正直な想いを伝えました。
結果から言えば、少しずつですが、良い方向へ変わりつつあります。
「メリア」と名乗る人物が改革を主導し、現場での指導にも乗り出しています。
以前のように、皆に笑顔が戻りはじめました。
シンヤさんには心から感謝しています。いつか必ず、お礼に伺います』
「……メリア?」
ティルが首をかしげる。
「聞いたことないな」モグがつぶやく。「女っぽい名前じゃない」リアがぽつり。
シンヤは返事をせず、しばらく遠くを見つめていた。
ルクシアの喧騒。笑顔の娘たち。
その中で、たしかに何かが動きはじめている気がした。
――知らない誰かが、また一歩、風を起こしている。
「……まぁ、よかったんじゃない」
リアが肩をすくめた。
「うん、そうだな」
シンヤはゆっくりとうなずいた。
笑い声の響くギルドで、静かに目を細める。
この街はまだまだ、面白くなりそうだ。




