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「「 はぁぁああぁああ~~~♡ 」」


 二人の声がぴったりと重なった。


 温かい湯に足を沈めるだけで、言葉も抜けていく。湯けむりの中、遠くに見えるのはあのアイドルたちのステージ。アイドルたちが舞い、空に歌声を響かせる幻想的な光景。展望足湯に身を預けながら、その様子をぼんやりと眺める。周囲も同じく、癒しを味わう客たちで賑わっていた。


「いい感じにほぐれたし……ここで岩盤浴でもするか」


 シンヤが立ち上がりながら、隣に視線を送る。

 そこには、異種族娘専門施設《温熱癒しの館》――サラマンダー娘たちによる高温療法の総本山がある。


 入口には目を惹く看板が掲げられていた。


《極上・炭酸地獄湯/岩盤浴/火山ミストサウナ》

《熱の精霊の導きによる、内なる浄化体験を――》


「名前が物騒だけど、効くんだよなこういうのって」


 二人は貸出用の専用着に着替え、案内された岩盤浴室へ。

 中は石造りの床に整然と敷かれたマット、優しい照明に包まれ、静かで品のある空間だった。個室のサウナまで完備されており、広さも申し分ない。


 シンヤとユラは並んで寝転がる。うつ伏せになり、温かな石の熱をじんわりと肌に感じる。 


「はぁ~、程よく体の芯に届くようで……気持ちいい~♡」


 ユラが身をくねらせながら、幸せそうに吐息を漏らす。


「……あ~、いいな。ゆっくり汗が出るこの感覚がさ、穢れを洗い流してくれるって感じでさ」


 しみじみと語るシンヤ。だがその言葉の裏に、ふとした思いがよぎる。


「あの、緋音と氷花のところも良かったんだよなぁ……」


「どういったところなの?」


 隣で寝返りを打ちながら、ユラがちらりと覗く。


「炎と氷のサラマンダー娘でさ。姉妹だったかな、名前は緋音と氷花。

 あの二人が同時に密着してきてさ、交互に温めて冷やしてって……それが最高でさ。整い方がもう、次元が違うんだよな」


 思い出すだけで、シンヤの口元が緩む。


「しかも二人とも巨乳でな。こう、ぐいっとくっつかれてだな……」


 にやけ顔のシンヤに、ユラはふいっと視線を逸らす。


「ふ~~ん……」


 頬をぷくっと膨らませ、ジト目を向ける。ちょっとむくれたその表情もまた、どこか愛らしい。


「やっぱりそういう目的のお店ばっかり巡ってるんだね!」


「まぁ、そういうのも楽しみのひとつだろ? ただ、ここはそういうのとは違ってさ……

 娘との接客はほぼ無いけど、その分くつろぎの癒しに特化してる。施設としては、文句なしの完成度だよ」


 ふと、視線を横にやると、一人のサラマンダー娘がタオルを手に、黙々と作業をしていた。

 決して手を止めず、一定のリズムで、無駄のない動き。


「タオルのお取り替えになります。お疲れが残らぬよう、ごゆっくりお過ごしください」


 その声も、表情も、完璧に整っている。だが、どこか冷たい。

 常連店のような娘たちの柔らかい笑顔や、気まぐれな会話の温度とは、違う。


「ここも……そうなのかな」


 ユラがぽつりとつぶやいた。

 熱でほんのり赤く染まった頬。だがその表情は、どこか寂しげだった。




「はぁ~、気持ちよかったね♡ 次はどこに行くの?」


 満足そうに伸びをしながらユラが振り返る。

 《温熱癒しの館》を後にし、二人は次の目的地へと足を運ぶ。




《蒼波ステージ・イルカ娘の海音サロン》

 潮の香りと涼風が心地よく吹き抜けるホール。

 イルカ娘たちが水上を軽やかに舞い、パフォーマンス後には海水ミストで客を包み込む“海気浴”を提供していた。


 柔らかな歌声に身をゆだね、ユラは目を閉じて微笑む。


(確かに見事な連携と演出。見栄えも映えも完璧……だが、こう、客の顔をじっと見たり、名前を覚えたり、そういうのは無いんだな……)


 ステージが終わると、イルカ娘たちは一礼し、すぐに次の組へ。

 丁寧ではあるが、個を超えていくような切り替えの速さがあった。




《癒滴館・スライム娘のとろける手技》

 半透明のスライム娘たちが提供する新感覚のマッサージ。

 その身体の一部を柔らかく変形させ、コリをとろけるようにほぐしてくれる。

 足裏、背中、首筋――どこに当てても、ぬるりと熱が伝わるような心地よさがあった。


 ユラ「ふわぁ……これはクセになるかも……♡」


(技術はある。むしろ上手すぎるほどだ……でも、言葉がほとんどないんだよな。

 ミィナのところみたいに“あれ、最近疲れてる?”とか、そういう小さな気遣いが無いと……気持ちもほぐれきらない)


 まるで機能美。感情の揺らぎが感じられなかった。




《猫夢亭・ケットシー娘の眠り小屋》

 柔らかな座布団、香の匂い、まどろみを誘う音楽。

 ケットシー娘たちは人懐っこく、優しく布団に誘導し、客の耳元で子守唄をささやく。

 身体の上にちょこんと乗ってくる娘もいて、まるで猫と眠るような感覚を演出してくれた。


 ユラは早々に眠りに落ちていたが――


(惜しいな。雰囲気は最高だ。娘たちも可愛いし、接客も柔らかい……でも、“いつもの常連さんだ!”っていう親しさがない。どの客にも同じ表情、同じ甘え方)


 どこか、脚本のある舞台の上にいるような感覚。

 役目として“甘える”ことを演じているような。




 こうして数時間――

 ルクシア・モールの人気施設を巡り尽くした二人は、中央の噴水広場に戻ってきていた。


 日が傾き始め、光の粒が噴水に差し込む。風が心地よい。


「楽しかったね!」


「ユラといて楽しさ倍増だったな!」


「んふ♡」


 満足そうに、とろけた表情。


「うん……どこもすごかった。すごくて、癒されたのに……」


 言葉が止まる。理由のわからない“足りなさ”が残っていた。


 シンヤも静かに頷く。

 どの施設も文句のつけようがない。

 技術、空間、価格、スタッフの質――すべて高水準。けれど。


 そこには、顔を覚えてくれる誰かも、ふとした一言で気持ちを読んでくれる娘もいなかった。


 効率的で、心地よくて、完璧な“癒しの箱”。

 でも――


 (……俺が惚れ込んだのは、もっとこう……気持ちが交わる、あの距離感だったんだ)


 シンヤの中に、微かに冷たい風が吹き抜ける。


「わたしのお店より素っ気なかったかも、シンヤがよく巡るお店はどんな感じだった?」


「ミィナのところは、"また絶対きてよね~!"って抱きついてきて、あの言葉は本心だったもんな」


「……また来たいってなるよね」


 あのイルカ娘の顔、すがるような声が浮かぶ。


「俺にできること……そんなもの、あるのか……?」


 シンヤは少しだけ、空を見上げた。赤く染まる夕陽が、いつもの常連店では見られない高さから射し込んでいる。

 

 二人は肩を並べて歩き出した。その背中を、誰も追いかけてくる者はいなかった。

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