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異種族エンカウント ~王女の命令で始めたら、異種族娘が可愛くて文化になった~  作者: ある
第一章 ~この世界、接客の基本は触れ合いから~ スライム娘
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ギルドの朝

 ギルドの朝は、いつになくざわついていた。依頼板の前に人だかりができている。モンスター討伐の依頼かと思いきや、話題はまさかの“癒し系”。


「行ってきたんだよ、あのスライム娘の店!」


「マジでぬめるって、あれは……人間が昇天できる新技術だ」


「しかも、むちゃくちゃ安いんだよなぁ!」


 声を上げる冒険者たちの中心にあったのは、一枚の記事。ギルドの依頼板の一角。いや、今や“情報板”と呼ばれ始めたスペースに貼られた、シンヤによるレビューだった。


 『全身とろける!ぬるぷに快感・極上スライムリラクゼーション体験記』

 副題には、“勇者も勇み足!ギルド冒険者・シンヤ、至高の『ぬるり』を体験!”とある。


「ちょっとぉ、だからこういうの載せないでって言ってるのに……!」


 リアがぷりぷりしながら詰め寄ってくる。その手には新しい依頼書が数枚。


「ギルドは依頼を回してナンボでしょ?マッサージ屋のレビューって、何の役に立つのよ」


「いやいや、おかげでこの活気だ。新規の登録者、昨日だけで五人増えたらしいぞ」


 口を挟むのはモグ。腕を組み、いつも以上に得意げな表情だ。


「まぁ……シンヤの変態ぶりが役立つ日が来るとはね。世界は広い」


 ティルが冷静に皮肉を重ねる。


 リアは「はぁ……」とため息をつきながらも、記事の端を丁寧に貼り直している。目は口ほどにものを言う。あきれてはいるが、どこか嬉しそうにも見える。


「ほら、これも」


 渡されたのは、薄い便箋。中には、スライム娘・ミィナからの手紙が入っていた。

 とろけるような丸文字で、こんな一文が添えられている。


 『レビューのおかげで、たくさんのお客様が来てくれました♡

 また“特別コース”で、シンヤさんだけをサービスしたいです♡ ミィナ』


「……シンヤだけ? 特別? それってどんなコースなの?」


 リアの目が吊り上がる。


「え、いや、ほら……秘密……的な?」


 シンヤが誤魔化すように目をそらすと、モグがぼそりと呟いた。


「ちなみに最近、“ぬめクラ”っていう同好会できたらしいぞ。“ぬめり愛好家クラブ”。あのスライム店の固定客専用」


「うっわ……名前がアウト……」


「でも実は、会員限定の裏メニューがあるらしいぜ」


「……シンヤ、それ、入ってるんでしょ」


「入ってない入ってない(入ってる)」


 そんなやりとりの中、リアがぽつりと呟いた。


「……まぁ、こんな記事でも人が来て、ギルドが潤ってるなら、ちょっとは……感謝、しとくけど」


 小さく聞こえたその言葉に、シンヤは少しだけ頬を緩めた。


「おう、ありがとな」


「でも、次はもう少し健全なタイトルにしてよね!」


 ぷいっと顔をそらすリア。その横で、シンヤは依頼板を見上げる。


 貼られた数々のレビュー。ハーピーの空中お散歩デート、ドライアドの包み込む安眠ヒーリング、オーク娘の豪快飯テロ屋台……どれもこれも甘い誘惑ばかりだ。


「さて……次は、どの娘に癒されようかな」


 誰にともなく呟くその声に、モグとティルが同時に振り向いた。


「おいおい、次は俺も連れてけよ」


「記録係として同行させてもらうよ」


「……はいはい、まずは予約取らせてくれよな」


 シンヤの甘やかな異種族探訪は、まだまだ続く。

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