朝のふくらみ
朝――淡い朝日が差し込む部屋。
俺、シンヤは目覚めの淵で微かな違和感に眉をひそめていた。
いや、違和感というには……妙に生々しい感触というべきか。
下半身。股間あたりが……ムズムズと、くすぐったい。
――もぞもぞとした熱気がまとわりつくような
(……ふっ、俺もまだ若いな)
年齢を理由に女好きが鳴りを潜めてきたのかと密かに思っていたが、
どうやらそんな心配は無用だったらしい。
何なら少し感動さえ覚え――
(まぁ、落ち着けよ兄弟……いや、待て待て……ムズムズが……妙に激しいぞ)
感覚に集中する。
これは、体内から湧き上がる熱や疼きじゃない。
外からの――明らかに何かの刺激。
(……冷静になれ。落ち着いて、まず確認だ)
俺は静かに目を開けた。
盛り上がっていた。股間が、異常に。
毛布越しに、明らかに“そこ”が、いつもよりひとまわり――いや、ふたまわりほど膨らんでいた。
しかも、じんわりと熱を帯びたように温かい。
「……俺、こんなデカくねぇっ!?」
反射的に毛布をはね除ける。
そこで目にしたのは――
淡いピンクの毛並みに包まれた、華奢な身体。
ふわりとした耳と尻尾がぴこぴこと動き、柔らかな吐息が俺の腹、いや"そこ"をくすぐる。
「シンヤぁ♡ おはよう♡」
……キツネ娘。
どう見ても、あの時の――
「……ユラ……? ちょ、お前……なんで、俺のベッドにインしてんだよ……?」
現実感が追いつかない。
寝起きのせいか、夢か現かも定かじゃない。
ユラは無邪気に笑いながら、俺の下半身に頬を擦り付けたまま。
「だって言ったでしょ? 今度、会いにいくって♡」
「……いや、でも……なんで俺の居場所が……」
思わず問い返すと、ユラはしっぽを一振りし、どこか誇らしげに言った。
「もう、シンヤの匂いは完っ璧に覚えちゃったもん。この国のどこにいたって、すぐ分かるよ?」
「いやいやいや……鍵、閉めてたぞ? 俺、生活力ない系男子じゃないぞ?」
「妖力で、ちょいって開けた♡」
「いやいやいやいや、普通に言うなや……!」
完全に、部屋が“自分の居場所”になっているテンションで話すユラに、
俺は口をパクパクさせるしかなかった。
ユラは相変わらず、俺の下半身に頬を下ろしたまま、満面の笑みを浮かべていた。
「ふふっ……♡ やっぱり……やっぱりシンヤの匂い……だいっすき……♡」
耳まで蕩けそうな声色。
体をすり寄せながら、うっとりと俺の下半身に顔をうずめている。
柔らかい毛並みが肌を撫でる感触に、思わず息が詰まり――
「うっ……お、おぅ……」
俺は、声にならない声を漏らした。
たぶん、今の俺、耳まで真っ赤だ。
「ねぇ、ここ……♡」
ふいにユラが、俺の下半身の、股間の――"そこ"へ視線を向ける。その目はとろんと潤んでいて、甘えるような光が浮かんでいた。
「ここの匂いは……また、違って……好き♡」
とろけたような声とともに、その頬が――
そっと、俺の股間の"そこ"を頬ずりした。
「っ……!?」
思考が真っ白になる。
ぞくり、と背筋を快感に似た何かが走る。
やばい、これは……やばい。
「――こらッ!!」
反射的に体を起こし、ユラの肩を掴んで引き剥がす。
実際に何かしたわけじゃない。頬ずりだけだ(今のところ)
「勝手に忍び込むとか、普通にダメに決まってんだろ!? どうしてここに来たんだよ……仕事はどうしたんだ、お前……!」
息を整えながら、詰め寄るように問いかける。
だがユラはまったく悪びれる様子もなく、
耳をぴこぴこ動かしながら、ケロッとした顔で言った。
「んー、今日はお休みもらったの。だから、一日中……シンヤと一緒にいようと思って」
「…………」
「……でも、イヤだったら言ってね? シンヤがイヤなこと、わたし、絶対したくないから……
帰れって言われたら、イヤだけど……我慢する。……でも、そばにいさせてくれたら……ちょっとだけ、嬉しいな」
第一印象では、どこか頼りなくて遠慮がちだったはずのユラ。
その姿はもう、どこにもなかった。
積極的というか、むしろ……攻めすぎだろ、お前。
「……お前、ほんとにあのときの子狐かよ……」
「そばにいられるだけで、わたし……充分だからね?」
あまりの豹変ぶりに、俺は唖然とするしかなかった。
思い出すのは、震える手で俺の指を掴んでいた、あの子狐だ。
今はこんなに、堂々と俺の隣にいる。




