3つの名
もう、願いはかなった。
仮面をつける理由も、名前を隠す理由も――もう、ない。
シンヤが、受け取ってくれたから。
だから私は、仲間たちに本当の名前を告げた。
ユラと呼ぶ子もいれば、相変わらずミヨンと呼ぶ子もいるし、モフ子なんてあだ名のままの子もいる。
でも、どれも私の一部で、どれでも構わない。もう、自分を否定する必要はないのだから。
素顔を見せてから、少しだけ周りの態度が変わった気がする。
誰かがさりげなく服を整えてくれたり、突然ぎゅっと抱きしめてくれたり。「やっぱり可愛いね」って囁く声もあれば、「いや、もっと綺麗になってる」と真面目に言ってくれる子もいる。
私は、ちゃんと異種族娘としてここにいて、認められているんだなって思える。
……シンヤの好みだったらいいな。そう思って鏡の前でしっぽを撫でる。いつか、なってみせる。いや、もう少しだけ、自信を持って近づいてみたい。
それから私は、少しずつ「裏方」だけじゃなくなった。
注文の品をお客さんの席に運ぶくらい。でも、それだけで十分に心臓が跳ねる。接客はしない。シンヤ以外に触れられたくない。そう決めている。
キツネ娘は言った。
「もったいないよ、ミヨンちゃんならすぐに人気が出るのに。お客さん、もっと来るのに」
――そうかもしれない。でも、それでもいいの。
そうして、いつのまにか店には噂が流れ始めた。
「淡いピンクの、かわいいキツネ娘がいるらしいぞ」
一目見ようと訪れる客が増えた。対応してもらったとか、膝に乗ってきたとか、ありもしない自慢話をする人もいた。まことしやかに囁かれる。
「何度か通うと、隣に座ってくれるらしい」
「目が合うと幸運が訪れる」
「一言交わせたら、願いが叶うんだってさ」
――全部、嘘。
でも、その嘘のおかげで店は賑わって、キツネ娘たちも笑っている。それなら、ちょっとくらい伝説のままでいてもいいかなって、そんな気もする。
今日も、あの人の匂いがふわりと店の空気に混じる。
以前よりも、ずっと近い。もう、すぐそこにいる。
昔の私だったら、きっとただ遠くから見つめていただけ。
でも今の私は、少しだけ――ほんの少しだけ、前に進めるようになった。
もう、我慢しなくていいよね。
次は、私から――
会いにいくから。




