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異種族エンカウント ~異種族娘が可愛くて文化になった~  作者: ある
キツネ娘 君にふれる日、桃影は咲く
36/53

お酒の味

 カフェのように設えられた空間に、柔らかな光が降り注ぐ。

 ソファとテーブルが並び、お客たちは思い思いの姿勢でくつろぎ、笑い合っていた。


 奥には小さなステージがあり、軽やかな音楽が響いている。

 その中央で、数人のキツネ娘たちが歌い、舞っていた。しなやかな動きに、お客の歓声が飛ぶ。

 手拍子が湧き、声援が重なり、空間は華やかな熱気に包まれていた。


 その喧騒のなか――


 わたしたちは、半個室のようなソファ席に案内された。

 シンヤとそのお友達、そしてわたし。三人分の座席に、三人のキツネ娘がそれぞれ寄り添うように座る。


 わたしは、シンヤの隣。

 柔らかなクッションに身を沈めながらも、背筋は自然と伸びていた。緊張していた。

 視線が、こちらに集まっているのを感じる。


 誰かがひそひそと、「ミヨンちゃんが……!」と囁いた。

 けれど、その反応は一瞬だけ。

 他のキツネ娘たちは、すぐに笑顔を取り戻し、目の前のお客の接待に戻っていった。


 わたしも、気にしないふりをして、目の前のグラスに酒を注ぐ。

 それだけで精一杯だった。何かを話そうと口を開きかけて、またすぐ閉じた。


 シンヤのお友達――あのごつい腕のドワーフと、耳の長いエルフの人は、それぞれのキツネ娘とすっかり打ち解けていた。

 お酒を酌み交わし、笑い、肩を揺らし、楽しそうに盛り上がっている。


 わたしだけが、取り残されたような感覚だった。

 けれど、それでもいいと思った。

 こうして、彼の隣に座っていられるだけで、今は。


 シンヤは、グラスを手に取り、口に運んだ。

 それから、周囲の様子を見渡して――微笑む。まるで、心からこの空間を楽しんでいるように。

 その横顔に、ほんの少しだけ、安堵した。


 ……と。


 ゆっくりと、彼の視線が、こちらに向けられた。


 わたしの仮面に。

 それから、揃えた耳の先、膝の上にたたんだ尻尾。

 毛並みを、じっと見るその目が――とても、懐かしかった。


 わたしは、また声を失っていた。

 でも、もうすぐ。

 きっと、このときがくるのを、待っていたんだ。


 やがて、シンヤの口元が、やわらかく動いた。


「……ミヨンちゃん、だっけ?」


 その声音は、どこか探るようでいて、柔らかかった。


「ここ……なんていうか、他の店とちょっと違うなって思ってさ」


 彼はそう言いながら、空間全体に目をやる。

 ステージの歌声、くつろぐ客たちの笑い声、寄り添うキツネ娘たち――それらをまとめて包むように。


「癒しっていうのかな。普通の店は、女の子が可愛いとか、接客が上手いとか、そういうのが売りで……。でも、ここは違う気がするな」


 言葉を選ぶように、少し間を置いてから続ける。


「なんていうか、自然に笑えるんだ。お店全体が一体になってるっていうか……。それが、心地よくてさ」


 わたし――ミヨンは、シンヤの言葉を聞きながら、こくりと小さく頷く。

 噂で知っている。彼がどんな店に通っているのか、どんな話をしているのか。


 でも、嫌じゃなかった。

 むしろ、その“好きなもの”に、わたし自身が少しでも重なれているのなら、と思っていた。


「シンヤさんの噂……知れ渡っていますよ」


 わたしは、少しだけ声音を落としながら言う。


「女好きの、権化だって」


 彼は目を細め、肩をすくめるようにして苦笑した。


「マジかぁ、はは……まぁ、否定はしないけどさ。ミヨンちゃんには、まだ早いかもな」


 そう言って、茶化すように笑う。けれど、声にはとげがなかった。


「今日はさ、ただ“見る癒し”を味わいたくて来たんだよ」


 グラスの縁を指でなぞりながら、彼は視線を戻してくる。

 わたしは、そっと問いかけた。


「わたし……うまく、お喋り……できていますか?」


 仮面越しでもわかる。わたしの声が震えていた。


 シンヤは、少しだけ驚いたように目を見開いてから――笑った。


「ちっちっ」


 指を振る仕草。おどけているようで、どこか優しい。


「会話ってさ、内容がすべてじゃないんだ。俺は、話し方、目線、しぐさ、間――全部ひっくるめて“女の子と話す”のが好きなんだよ。

なんていうか、女にしか出せないモノってあるだろ? 見逃すのって勿体ないと思うね」


 わたしが、口を閉じて黙ると、彼はさらに言葉を重ねた。


「だから、俺は……ミヨンちゃんと話すのが楽しい。今、すごく。お酒の味がさ、どんどん変わっていくみたいなんだ。

最初はほろ苦いんだけど、ミヨンちゃんと話したらほんのり甘くなって、今はとろける? ……て感じだ」


 わたしの胸の奥で、何かが小さく鳴った。


 ――くす。


 声にならない、けれど確かに微笑んだ。

 つられ尻尾が揺れる。仮面の奥、わたしの唇が、ふわりと綻ぶ。

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