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奇矯

 部屋に入ると、そこはまるで海中の子ども部屋のような空間だった。

 淡い青と桃の光が揺れ、貝殻やヒトデの飾りが壁を彩る。小さなベッドの上で、フグ娘は膝を抱えて座った。


 ティルの姿を認めた瞬間、その頬がぷくりと膨らんだ。


「……今日は一緒って、言ってたのに」


 声は震えていた。


「ずっと待ってたの……っ。……バカ。うそつき……!」


 ぷいと顔を背ける仕草にも、揺れる肩にも、あからさまな怒りと、それ以上の寂しさが滲んでいた。


「ごめん、妹よ~。ほんっとにごめん……」


 ティルはすぐにしゃがみ込み、頭を撫でながら苦笑を浮かべる。


「魔法の師匠に呼ばれてさ、弟子の癖に時間の感覚が薄いんだ、あの人……でも僕も約束してたのに。ほんと、ごめんな」


 その手を撫でられながら、フグ娘の頬はさらにふくらみ、小さくぷくーと鳴ったようにも見えた。

 しっとりとした水膜のようなツヤ。ふっくらと弾けるような柔らかさ。

 人間の女ではありえない、その“膨らみ”が、ただの怒りや演技の嫉妬ではなく――感情そのものの反応であることを、ティルは直感する。


 (……ああ、なんだろうな)


 どくん、と胸の奥が音を立てる。

 この存在を、守ってやりたい――そう思ったのだ。


 ティルは、手を止め、真っすぐにフグ娘の目を見つめる。

 演技でもサービスでもない、本気の兄の声で語りかけた。


「……ごめん。僕が悪かった。次は絶対に、約束守るから。……おまえが寂しがる顔なんて、もう見たくない」


 ぐっと拳を握る。


「僕は、おまえの兄なんだ。おまえを泣かせる奴がいたら、魔法で星ひとつ吹き飛ばしてでも守ってやる」


「……っ、おにい……ちゃん……っ」


 フグ娘の目に、涙が滲む。

 そして、ふわりと身を寄せてくると、額と額をそっと重ね合わせた。


「……ずっと一緒に、いてくれる……?」


「もちろんだよ、妹よ。どこにも行かない」


 静かに交わされる、兄妹の誓い。

 そのひととき、潮騒が優しく部屋を包んでいた。


 ティルの胸の奥に、魔力にも似たぬくもりが灯る。

 それは炎でも風でもない――誰かを想い、寄り添う心そのものだった。


(……これは、もう演技じゃないな)


 ティルは目を閉じる。

 心地よい浮遊感に身を任せながら、この時間が“本物”だと、確かに感じていた。





 扉を開けると、そこはまるで長年連れ添った夫婦の、静かな夜を過ごすリビングのようだった。

 やわらかな照明、木目の家具、二人用のソファ。

 夕食の余韻が漂う香りと、ほんのり漂う潮の気配――

 

 扉が開いた瞬間、フグ娘の頬がぷくりと膨らんだ。


「……遅かった。ずっと待ってたのよ」


 声こそ柔らかいが、膨らんだ頬はまるで“怒ってませんよ”とでも言いたげな照れ隠しのようだった。

 その想像を超えたふくらみに、思わず笑ってしまいそうになるほど、子供じみたイジけ方だった


「まったく、あなたってば……っ。ほんとに、浮気してないでしょうね?」


 ツンと顔をそらしながらも、ちらりとモグを見上げるその目には、ほんのり甘えた光が宿っていた。


「おかえりなさい、あなた♡」


 フグ娘はにこりと微笑み、そっとモグの手を取った。


「お疲れでしょう? こっち、来て……」


 引かれるままに、モグはソファへと歩み寄る。

 途中、彼女がそっと背後に回り、軽やかに彼の上着を脱がせた。


「ギルドのお仕事、大変だったんでしょう?」


 肩に触れる指が、やさしく滑る。

 首筋から背へ、そしてゆっくりと腰へと下りていき――


「ここ……ずっとカチカチに溜まってたでしょう?」


 その手が、まるで水のように自然に、下半身――太ももと股間のあいだ、敏感な筋の沿いをなぞった。

 囁かれる吐息に、ぞくりと身体が反応する。熱が、腹の底から込み上げてくる。


 しかし――


「……ふっ」


 モグはにやりと笑い、逆にフグ娘の手を掴んだ。


「ダメだな、妻よ。そこじゃねぇ……ワシの本命は――こっちだッ!」


 軽やかに、しかし重みのある動きで、彼女をふわりとソファへと押し倒す。

 フグ娘は「えっ……!?」と目を見開くが、その声はすぐに喉で止まる。


 モグの顔が、彼女のふとももへと深く沈んだからだ。


「はあぁ……この厚み……温もり……しあわせだ……」


 うっとりと頬をすりつけ、指でなぞり、時折ぺちりと軽く叩く。

 種族特有の柔らかく弾力のある肌に、彼は無心に甘えていた。


「まったく……そんな……いきなり……あなたったら……♡」


 フグ娘は顔を真っ赤に染めながら、呆れたように笑った。

 けれどその手は、彼の頭を優しく撫でる。


「ほんとに……変な人。でも、がんばってきたもんね……甘えても、いいよ♡」


 ふとももを小さく開き、モグの頬がさらに沈み込むのを受け入れる。

 フグ娘の声は、まるで波のように優しかった。


「おつかれさま、あなた♡ ……よしよし。いっぱい、がんばったね……♡」


 モグは短く「うむ」とだけ答え、目を閉じた。

 ふとももに包まれる安心感。

 誰にも邪魔されない、静かで甘いひととき。


 彼の欲望は奇矯かもしれない。

 だが、このふとももだけは――誰にも譲れなかった。

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