スライムの弾力
部屋に入ると、まず香りが変わった。涼やかで、どこか甘くとろけるような匂い。壁は半透明のゼリー質でできており、淡く揺れる光を反射して、幻想的な色彩を放っていた。
「ようこそ、シンヤ様。お友達も、ご一緒に……ふふっ、嬉しいです♡」
青いスライム娘――ミィナ。瑞々しい透明感のある身体に、濃い青の髪が揺れる。両目も宝石のように透き通っており、どこか幼さの残る優しい表情で笑いかけてくる。
シンヤは軽く手を挙げ、腰の袋から小さな丸いクッションを取り出した。
「さっきの差し入れ。"Type S"ちゃん、うまく使ってくれな」
「わぁ……♡ ちゃんと防滑加工も追加されてますね……! ありがとうございます!」
ミィナが頬を紅く(ゼリー越しに色が変わった)染めて跳ねた。その様子に、部屋の外で待機していた他のスライム娘たちがざわつく。
「またシンヤさんかぁ……!」
「次は私が担当したいなぁ〜!」
モグが目を丸くし、ティルがわずかに眉を上げた。
「……なんだお前、けっこうモテるじゃねえか」
「これは……観察に値するな」
シンヤは肩をすくめると、ミィナに向き直った。
「今日は俺じゃない。こいつらをもてなしてやってくれ」
「はいっ! ではまず……どちらから?」
「モグだ。こいつ、ふとももには一家言ある。思いきり頼む」
「了解です♪ ふとももモード……展開します♡」
ミィナの身体が、ふわりととろけた。下半身のゼリーが、じわじわと形を変え、やがて2本のなめらかで柔らかな“ふともも”が現れる。丸み、弾力、厚みの全てが計算されたように美しく整っていた。
「……っ」
モグは無言のまま、静かに腰を下ろした。ふとももに包み込まれるように座ると、目を閉じ──
「こ、これは……。沈み込むのに、反発がある……だが、戻りは優しい……っ。これは、ふとももではないのに、ふともも……そのものだ」
感動のあまり、語彙を失っている。
ティルも興味深げにミィナの変化を見つめていた。
「ふむ……この弾力、エルフの森にいる“ソフォラ種”に近い。百年級のふとももだね」
「百年級ってなんだよ…」
「年輪を刻むような肉付きだ、ということさ。いい仕事だよ、これは」
モグはふとももをさすりながら、虚空を見つめてつぶやいた。
「もう……ワシは何もいらないな……」
「まだ死ぬなよ」
「ふふ♡ お二人とも良い夢見心地のようでうれしいです。…モグ様、その、手さわりが…なめまわす…んぅ……ようで、くすぐったいですぅ~」
シンヤは笑いながら、次の段取りへ移る。
「ミィナ、次はティルの番だ。こいつ、意外とぬくもりに弱い」
「はいっ、では……添い寝モード、いきますね♡」
ミィナの上半身がふわりとティルに伸びていく。布のように広がったゼリーが、ティルの背に沿ってぴたりと寄り添い、全身をやさしく包み込んだ。
頭の後ろにはちょうど良い高さの胸元クッション。腕のあたりには微細なぬめりが流れ、呼吸のリズムに合わせてやさしく動く。
「……これは……あたたかい。湿度も一定、呼吸圧も……心地いい。ちょうどエルフの森林陽光下レベル……。なるほど、わかってるじゃないか」
ティルの瞳がゆっくりと閉じていく。
「人肌、いや……木漏れ日の温度だね」
「は? 木漏れ日って温度か?」
「比喩表現だよ、モグ」
シンヤは肩を揺らして笑った。
「ふたりとも……まあまあ満足そうで何よりだ。だがな、まだだぜ。ミィナの本気は、これからだ」
ミィナがにっこりと意味深に微笑んだ。
「ここからが、本番だ。果てるなよお前ら」