胸の価値
夜風が、ほのかに甘い香りを運んでいた。
シンヤとモグは肩を並べて歩きながら、それぞれの手に下げた小瓶を見やる。
中には、とろりとした淡い乳白色の液体が揺れていた。
「……まさか、持ち帰りがあるとはな」
シンヤが苦笑交じりに言う。
「裏オプションってのは、あなどれねぇな。グリムのサービス精神、見上げたもんだぜ」
モグは鼻を鳴らし、上機嫌な様子で瓶を掲げる。
振り返れば、店の入口にフェルとグリムの姿がまだあった。
フェルは、初めてとは思えないほどしっかりとした笑顔で、手を振っている。
「また来てくださいね……シンヤさんっ!」
その声には、もうかつてのような不安げな影はなかった。
「……ああ。また行くさ」
そう応えるシンヤの笑みもまた、どこか柔らかい。
そして、ギルド。
いつものテーブルには、ティルが本を片手に、リアは帳簿をめくりながら座っていた。
「……え、ちょっと待って」
リアが眉をひそめ、シンヤとモグが持ってきた瓶に目をやる。
「それって、本当に……人型の、異種族の……ミルク、なのよね?」
「うむ」
モグは堂々とうなずき、シンヤも困ったように笑う。
「たしかに……越えちゃいけないラインを越えた気もするけどさ」
「でも、彼女たちの気持ち、無下にはできなかった。……だから、ちゃんと味わうよ」
二人は同時に瓶のふたを開け、それぞれ一口。
「……うまい」
「これは……やばいな……」
なんとも言えぬ沈黙のあと、リアが目を細めて呆れたように言った。
「……信じられない……」
しかし、その頬はほんのりと赤い。
「でも……ふふ、胸の良さを再確認できたってのは、確かにあるな」
シンヤがふと口にした。
「リアも、なかなかいいもの持ってるよな」
そう言って、悪戯っぽく笑う。
「なっ……! な、なに言ってるのよ、あんたは……っ」
リアは頬を染めて、視線を逸らす。帳簿のページをやたらと忙しくめくり始めた。
「良かったね、リアさん」
ティルが涼しげに言う。
「がはははっ! シンヤもやっと見る目が育ってきたな!」
モグは豪快に笑いながら、残りの乳をぐいっと飲み干した。
杯と笑い声が交錯するギルドの夜。
――こうして、ある夜の冒険は、ふんわりと温かい余韻の中で幕を閉じた。




