癒しの夜
個室の扉が静かに閉じられ、ふわりと甘い香りが満ちる。
天井からは柔らかな照明が揺れ、中央には深紅のソファ。
革張りに見えるが、実際は魔獣の皮を加工したもので、ほどよく沈み込むその座面は、座る者の形に沿って吸い付くように馴染む。
「ほお……これ、いいソファだな」
モグが身を沈めて唸った。ふとももがしっかりと沈み、包まれるような感覚。
シンヤもその隣に腰を落とし、軽く深呼吸をする。
やがて、カーテンがふわりと開き、ミルネア娘たちが姿を現した。
ひとりはふわふわとおどおどした雰囲気をまとった小柄な娘――フェル。
もうひとりは、堂々たるボディラインで視線を釘付けにするグリム。
「こ、こんばんは……あのっ、よ、よろしく……おねが、しまひゅ……っ」
フェルがぺこりと頭を下げながら、言葉を噛んでしまう。
対照的に、グリムは艶やかな笑みを浮かべ、脚線を強調するようにすっと一歩前へ出た。
「本日はご指名、ありがとうございます♡ グリムです。お二人に癒やしの夜をお届けしますね♡」
そう言うと、娘たちはそれぞれの客の隣に自然に座った。
モグの隣には、肉感を惜しげもなく披露するグリム。
肩が触れ合う距離で、その胸元の膨らみがさりげなく腕へ押し当てられる。
――柔らかい。
そんなことを言葉にするまでもなく、グリムはわかっているらしい。
「んふふ♡……私、こう見えて自信あるんです。胸、大きいって褒められること、多くて」
グリムはゆるく腕を絡ませ、ぐっと寄せた。
「どうですか? 感触……♡」
モグは軽く目を細めながら、頷く……かに見えたが、
その視線は、胸ではなく、グリムの太ももに落ちていた。
深いスリットから覗く脚。丸みのある膝上。
ソファに沈んだことで、ムチムチと張りを増したそれが、蠱惑的に揺れている。
「……そこ、気になります?」
グリムは視線の先に気づくと、片足をすっと組み替えた。
すると肉が寄り、ふとももがわずかに弾む。
「よかったら……触って、みます?」
言葉のあいまに、さりげなく手を取る仕草。
モグは小さく唾をのんだ。手のひらをそっとふとももへ――。
「おお……」
思わず声が漏れる。柔らかい、だがしっかりと芯がある。
まるで魔力を秘めたクッションのように、沈んだかと思えば、優しく弾き返す反発力。
「どうでしょう……? ふとももって、侮れないですよね」
グリムが目を細める。
そのまま、ふっと耳元に囁くような声で続けた。
「……埋まってみたい、って思ったこと……ありませんか?」
その視線は挑発的で、艶を帯びていた。
モグは無言のまま、ただ大きく息を吸い込む。
期待と、甘美な想像が、喉の奥で重くなる――。
片側でグリムとモグの空気が熱を帯びていく中――。
シンヤの隣に座ったフェルは、小さく縮こまるようにして、膝の上で手を握りしめていた。
指先は緊張で震えており、胸元がかすかに上下している。
その様子を横目に見ながら、シンヤは声をかける。
「緊張してる?」
フェルはびくりと肩を震わせ、瞬時に首を振った。
が、その動きすらぎこちなく、嘘がすぐに見破れる。
「……触れても、いいかな?」
シンヤの問いかけに、フェルは一瞬驚いた顔をし、そして小さく頷いた。
こくん――と、ほんのわずかな動き。
シンヤは、そっと肩に手を回す。
驚かせないように、ふわりとした毛布をかけるように。
そのまま優しく引き寄せ、フェルの小さな身体を胸に抱いた。
「まずは、俺に触れ合うことに慣れてくれればいい。
焦らなくていい。どれだけ時間がかかってもいいからさ」
その声は、暖かい湯気のように耳元に触れた。
フェルはぴくりと肩を動かし、そっと目を閉じる。
「ゆっくりでいい。な?」
シンヤの笑みは、決して強く迫るものではなく、ただ包み込むような優しさだった。
しばらくそうしていると、フェルの体の強張りが、少しずつ解けていく。
緊張に尖っていた耳も、ふにゃりと力を抜き、シンヤの胸に小さく沈んだ。
フェルは、そっと呟く。
「……あの、頭……撫でてくれますか……?」
シンヤは苦笑した。
「頭もいいけど……角、撫でても、いい?」
角――ミルネア族にとっては繊細な部位。触れるには信頼が必要だ。
フェルは一瞬、戸惑いの表情を見せるが……こくりと、小さく頷いた。
シンヤは慎重に、指を伸ばす。
透き通るような淡い角に、そっと手を添える。
冷たいようでいて、熱を持っている――そんな不思議な感触。
指の腹で撫でると、フェルは小さく身を震わせたが、拒む気配はない。
むしろ、安心したように目を細めていた。
「……すごく、優しいですね」
「そりゃ、君ががちがちに緊張してたからさ。ほぐしてあげたくなっただけ」
フェルは、くすっと小さく笑った。
その笑顔には、最初のぎこちなさが影を潜めていた。
「なぁ、フェル。……心臓のバクバク、止まったか?」
問いかけに、フェルは一度目を伏せ、それからシンヤの胸元にそっと額をあずけるようにして――囁く。
「……シンヤさんに対しては……たぶん、治まることはないです……♡」
頬が熱くなったように染まり、声は震えつつも、どこかうれしそうで。
「でも……それって……ちょっと、心地いいんです♡」
その言葉に、シンヤはゆっくりと微笑んだ。
「それなら、よかった」
静かな、けれど確かな触れ合いの時間が、個室の片隅に流れていた。




