夢の欠片
グラスを片手に、二人はふたたび背後の鏡を覗き込む。
だが、今度は違った。鏡の奥に、まるで別の世界が開いていた。
「……ん? この鏡、奥に部屋がある?」
「マジックミラーってやつか?」
モグが小声でつぶやくと、傍にいたミルネア娘が柔らかく微笑んだ。
「はい。お客様側からは映りますが……中の娘たちには、見られているとは伝えておりません。
自然体の彼女たちを、“夢の欠片”としてご覧いただける仕組みです」
鏡の奥、淡いピンクの光が包む空間には、数人のミルネア娘がいた。
角を揺らしながらキャッキャと談笑する娘、肩をまわして身体を伸ばす娘、奥では衣装のリボンを外して着替える姿まである。
その中でも、ひときわ目を引く肉感の持ち主がいた。
豊満な胸に、腰から太ももへかけてのラインが圧倒的だった。
なめらかな肌が布の隙間から覗き、ふとももは自然な動きのたびに柔らかく波打つ。まるで、官能のために存在しているかのような存在感。
「……あれだろ。ふともも……あの、右の、やたらと張りが……」
「はい。あちらは“グリム”と申します。人気のある娘ですが、いまは控室でくつろぎ中でして……気になりますか?」
モグはグラスを置き、口元を緩めた。
「指名、グリムで。間違いないわ」
「かしこまりました♡」
娘が一礼し、今度はシンヤの方へと視線を向けた。
「お連れ様は……いかがなさいますか?」
シンヤは答えず、少しだけカウンターを見渡す。
すると、端の方に――ぽつんと、気配を隠すように立つ娘がいた。
白金の髪をゆるく三つ編みにし、ふわふわとしたオーラをまとったその娘は、トレーを持ったまま、あたふたと動いていた。
グラスを置く手はぎこちなく、注文を聞いてはメモを忘れ、他の娘に小声で助けを求める。
何度も深呼吸しながら、でも笑顔だけは崩さない。その姿に、シンヤはふっと笑った。
「あの子……まだ慣れてない感じだな」
「はい。新人の“フェル”と申します。まだ入店して日が浅く、どなたにもご指名は……」
ミルネア娘が少し申し訳なさそうに続けるが、シンヤは手を上げて言葉を遮った。
「……いいじゃん。ああいう子が、これから多くの男に夢を見せてくれるならさ」
そして、少し照れくさそうにグラスを口に運びながら、こう続けた。
「だったら俺が……その最初の一歩になれたらって思うよ」
娘は目を丸くした後、ふわりと笑った。
「……ありがとうございます。フェルも、きっと喜びます♡」
やがて、ミルネア娘に案内され、シンヤとモグは個室へと歩き出す。
鏡の奥に映っていた夢が、少しずつ現実の輪郭を帯びてゆく。
その背後、鏡にはまだ――
自然体で笑うフェルと、グリムのなめらかな太ももが、淡く、艶やかに揺れていた。




