グラス・ヴェルベット
宵の街に浮かぶ、白と紫の縞模様。その建物は、まるでミルクを垂らしたベルベット生地のように、柔らかく艶やかで、人目を引く幻想的な色彩を放っていた。
「……ここが、“Glass Velvet”(グラス・ヴェルベット)か」
シンヤが立ち止まり、仰ぎ見る。
ガラス張りの外壁は、内側の灯りと街のネオンを映して、まるで夢と現実が交錯する一枚の絵画のようだった。
「……ヤバイな。すでにムチムチな予感がする」
モグがニヤリと笑い、二人は胸の高鳴りを押さえつつ、扉をくぐる。
中に足を踏み入れると、そこはまさに“大人の社交場”だった。
重厚な木目と深い紫を基調としたインテリアに、緩やかな照明。空間全体が柔らかく揺らいでいるような錯覚を覚える。
甘く、ほのかにミルクのような香りが漂い、心を緩ませた。
「ようこそ、“Glass Velvet”へ──」
低く、耳元でとろけるような声が落ちる。
現れたのは、ミルネア族の娘だった。白銀の髪に、牛のような角としっぽ。そして、圧倒的なまでのボディライン。
胸元をなだらかに包み込む黒と乳白のレース地の衣装が、まるで“隠す”ことを諦めたかのように身体のすべてを受け入れていた。
「お二人とも、お疲れのようですね。こちらのカウンター席へどうぞ……映りが、一番綺麗な場所ですから」
柔らかな手に導かれ、二人はカウンター席に腰を下ろす。
店内には他の客も散見され、視線は自然とミルネア娘たちへ向けられていた。
中にはグラスの奥から覗くように、鏡越しにその肉体美を味わう者もいる。
「……すげぇ……」
モグの喉が鳴る。
角度によって姿が変わる魔法鏡が壁一面に設置され、娘たちの動きと共に、幻想のように映し出される。
ミルネア娘がカウンター越しにグラスを差し出す。濃厚な乳白色のカクテルが、とろりと揺れた。
「“ミルク・フィグ・ファンタジー”です。うちの名物──味も、香りも、余韻も……とろけますよ♡」
乳白色の液体が、鏡の向こうの姿とどこか重なった気がした。
グラスを受け取る二人に、娘は微笑みながら言う。
「ここは、“見る”楽しみの場ではありません。“映る夢”を味わう場所です。……さあ、ご自由にご覧になってください♡」
二人が振り返ると、背後の鏡に自分たちが映っていた。
だが、そこには“ただの自分”ではなかった。
ちょうどミルネア娘がグラスを並べる仕草と重なり、その動きに合わせて、鏡には彼女の背中――
いや、背中を包む、薄布の下着のような衣装が、腰の肉を持ち上げるように食い込み、豊満なヒップが艶やかに映し出されていた。
しかも、角度が絶妙だった。現実では直接見えないアングルが、鏡の中でだけ許される。
シンヤとモグは、無言のまま恍惚の表情を浮かべる。
──そうか、“見る”んじゃない。“映る”んだ。
視線を向けるのではなく、映り込んだ像を味わう。
直接的な官能ではない、幻想と欲望の交差点。
「ふふ……楽しんでいただけているようで、何よりです♡」
娘はそのまま、ふたりのグラスにトクトクとカクテルを追加する。
背中の鏡には、再び映る彼女の肉体と──満たされた男たちの表情が、淡く揺れていた。
しばし、言葉のない時間が流れた後、娘が控えめに問いかけた。
「本日は、お好みの娘を……ご指名されますか?」
シンヤとモグは、グラスを置き、顔を見合わせてから、ゆっくりと頷く。
「指名は──映った夢から引き出そうかな」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。……映る夢の、続きをどうぞ♡」




