おっぱい派
ギルドの昼下がり。
依頼掲示板の前には、いつもの三人――シンヤ、モグ、ティル。そして、受付カウンターにはリアがいた。
リアは、湯気を立てるカップを片手に、壁の新聞掲示に目をやる。そこには最新の“異種族店レビュー記事”が掲載されていた。
『パフミルの夜──小さな天使に包まれて』 執筆:シンヤ
「……ほんとに、すごい反響ね。あんたの記事」
リアがぼやくように言うと、モグが誇らしげに腕を組んだ。
「だろう? あの店、癒し的にもパーフェクトだったしな!」
ティルは隣でうんうんと頷いていたが、やや元気がなかった。今日は魔力切れでお休みらしい。
リアは一息ついてから、ふと目線を鋭くする。
「でもねぇ……最近、人間の女の子がやってる店のほう、ちょっと減ってきてるのよ? アンタたち、異種族ばっかり贔屓してさ。人間の味方もしなさいよ。ほら、私とかさ?」
シンヤは口元を少しだけゆがめ、肩をすくめた。
「いや、リア。競争があるからサービスの質も上がる。客が満足すれば、種族は関係ない。それが大人の世界さ」
リアは眉をひそめて小声でぼやいた。
「……そのくせ、無類の女好きのくせに」
モグが笑う。
「ま、シンヤはあれだ。満遍なく愛でたいタイプだからな!」
ティルもどこか納得したように口を挟む。
「でも不思議だよね。君は女の子全体、モグはふともも、僕は文化への好奇心からだけど……」
リアが小首をかしげる。
「胸好きがいないの、意外よね。男が三人揃って、誰も“おっぱい派”じゃないなんて」
その瞬間、三人の目線がゆっくりと下を向き……そして、同時に深いため息をついた。
「「「 ちっちっちっ…… 」」」
シンヤが肩越しにリアを見て、低く言う。
「浅いな、リア。男の性ってのは、そんな単純じゃない」
モグも渋い顔で頷く。
「わかってねぇ。おっぱいは“見る”んじゃねぇ、“感じる”もんなんだ」
ティルはどこか学者然としながら、眼鏡を押し上げる。
「君が思うより、僕たちは……真剣なんだ。」
リアはムッとしつつも、ふと挑発的に胸を張る。
「……じゃあ、これは? 私、実は結構あるのよ?」
白い制服のシャツの前を少しだけ引っ張って、ぐいっと谷間を寄せるリア。
思ったよりも、というより、かなりの迫力。三人の視線が一瞬、ピタリと止まった――が。
「「「 ……リア、だとなぁ…… 」」」
がっかりと肩を落とす三人。
「なんでよっ!!」
リアのツッコミがギルドに響いた。
ギルド内にリアの叫びがこだましたあと、しばしの静寂。
その中で、ふっと肩を竦めたシンヤが立ち上がる。
「さて、そろそろ行くか」
腰を鳴らすように伸びをしたシンヤに、モグがニヤリと笑いかける。
「今日も異種族巡りか? どこ行くんだ、シンヤ?」
「……ティルは?」
問いに気づいたティルは、カウンター席から手を挙げて苦笑する。
「ごめん、今日はちょっと魔力切れで……。さすがに依頼で頑張りすぎたかもね」
「ほう……手ごたえあったみたいだな」
シンヤが冗談めかして笑い、ティルも小さく笑う。
シンヤとモグがゆっくりとカウンターから離れながら、モグがぽつりと呟く。
「今日はな……ムチムチな娘がいい。ふとももだけじゃなく、ぜんぶが柔らかいタイプ。乳と腰肉がダブルで攻めてくるような……」
「ああ、それならちょうどいい店がある。“Glass Velvet”(グラス・ヴェルベット)って知ってるか?」
「……聞いたことあるぜ。あれだろ? ミルネア族の牛娘が働く、大人の社交場……」
モグの瞳がキラリと輝く。
「全身ムチムチで、巨乳で、しっぽがピクピクするって噂の……あそこか!」
「全面ガラス張りのバー。映る角度次第で夢が見えるって話だ」
「よし、それで決まりだな。今日は乳の日だ!」
ふたりは意気揚々と出発する準備を始める。そんな背中を、リアはじっと見送っていた。
そしてぽつりと、胸元を軽く抱えるようにしてつぶやく。
「……私は肉が足りないのかぁ」
その言葉に、横からティルが控えめな声で返す。
「そんなことないよ、リアさん。君は君で、とても魅力的だと思う。シンヤは馬鹿なだけさ」
リアは一瞬だけ頬を染めて、少しだけ口元をゆるめた。
「……アンタが言ってもねぇ」
ティルは苦笑いを浮かべながら、そっと湯気の立つカップを差し出した。




