忘れがたい癒し
朝の陽ざしに照らされて、店の前に出てきたシンヤたち三人。
パフミル娘たちは、ふわふわのパジャマ姿のまま、手をぶんぶん振っていた。
「ばいばーい♡」
「またあそぼうねー♡」
「パパぁ、だいすき~♡」
その無邪気な笑顔に、思わずシンヤも手を振り返す。
「おう。また来るよ、絶対な」
隣でモグが「んふふ、次は髭にリボンでもつけてもらうかな」と満足げに鼻を鳴らせば、ティルも「……うん、次はもっと跳ねるやつ、準備しておこうかな」とどこか照れくさそうに呟く。
そこに、受付のパフミル娘がひょこっと顔を出してきた。
「リピート割、今ならお得ですので♡ またのご来店、お待ちしておりますね」
小首をかしげて微笑むその姿に、三人は思わず顔を見合わせ、笑った。
「おいおい、そんな顔されたら……また来ちまうだろうが」
「もう来る気まんまんだな」
「なぁ、次は一週間後ぐらいで……」
「早いよ!」
そんなやりとりを交わしながら、三人は意気揚々と街の中心へと歩いていった――。
ギルド内は、どこかいつもより穏やかな空気が流れていた。
受付前の掲示板には、シンヤが書いた記事が大きく張り出されている。
『異種癒し娘探訪記~第12回「天使のふわもこ宿・パフミル亭」~』
そこには、優しい挿絵と共に、淡く温かい体験談が綴られていた。
「……なんか、読んでるだけでふわふわしてきますね」
「うちの子にも会わせたいなぁ、あんな娘たち」
「ティルさん、あの魔法の話ほんとだったんだってー!」
冒険者たちが口々に感想を言い合い、いつもの殺伐とした雰囲気はどこへやら。
穏やかな笑みを浮かべる者、少し照れくさそうに次の依頼を眺める者――
ギルドの空気が、ほんの少しだけ、優しくなっていた。
そんな中、ふとシンヤが周囲を見回す。
「……あれ? リアは?」
いつもならツッコミを入れてくるはずの受付の姿が、見当たらない。
「あの、リアさん……?」
別のスタッフに声をかけると、笑顔で答えが返ってきた。
「今日はお休みですよ。ちょっと、癒されに行くって言ってました」
「癒されに……?」
シンヤは一瞬首をかしげるが、ふっと思い至って、小さく笑った。
雲のようなベッドの上。
ふわふわのパジャマ姿のパフミル娘たちに囲まれて――
一人の女性が、身をかがめながらそっと微笑んでいた。
「……そんなにくっつかないで。私は子どもじゃないんだから」
そう言いながらも、パフミル娘に膝枕をされているのは――リアだった。
「でも、つかれてるおねーさんには、これがいちばん♡」
「おみみ、なでなでしてもいい?」
「ちょっとだけ、よしよししてあげるね♡」
ぽかんとしながらも、リアはされるがまま。
肩に乗った小さな手、髪を撫でるやさしい指先、くすぐったいほどの距離感。
目を閉じれば、心の底にあった棘のようなものが、ゆるゆると溶けていく。
「……これが、あのバカたちが骨抜きになった理由……かもね」
小さく呟き、微笑むリア。
すっかり緩んだ表情のまま、ふわっとした毛布にくるまって、もう一度目を閉じる。
「……ちょっとだけ。ほんの、ちょっとだけだから」
パフミル娘たちの小さな寝息と、淡い光に包まれて――
リアの表情もまた、誰にも見せたことのない、穏やかなものに変わっていった。
その夜、彼女もまた、“忘れがたい癒し”を手に入れるのだった。




