夢の異種族
ギルドのカウンターに背を預け、リアは大きくため息をついた。
「はぁぁ……」
その音があまりに湿っていたので、近くにいたシンヤがすぐに反応する。
「お、どうした? リア。そんなため息なんて似合わないぞ」
シンヤはにっこりと笑い、少し距離を詰めながら声をかける。
「なにか疲れてるなら、俺が耳かきでも……」
「それ以上近づいたら投げるわよ」
鋭い視線を向けつつも、リアの声にはいつもの棘がなかった。
「最近イラつくことばかりで…なんかさ、憂鬱で……癒しが欲しいのよ。私だって、たまには撫でたり甘えられたりされたいの」
「ん?」
シンヤの眉が不穏にひくつく。
「……まさかリア、それって……異種族娘を“飼う”系の趣味、あるってこと? もしかして、百合?」
「はあ!?」
リアが振り向きざま、勢いよくシンヤの額をぴしゃりと叩いた。
「違うわよ! なんでそうなるの!? そういうんじゃなくて、もっとこう……普通のペットよ。猫とか犬とか、鳥とか、小動物とか……!」
「ふむふむ、小動物……癒し系……ふわふわ……」
シンヤが急に口元に手を当て、考え込むような顔になる。
「……って、あー!! いたな、そういう種族……!」
ぱぁっと目を輝かせて、何かを思いついたように拳を握る。まるで、宝の在り処を思い出した探検家のように。
「いや、いるんだよリア。ふわふわで、撫でられると喉を鳴らして、ちょっと臆病で、すぐ懐いてくる愛くるしい……」
「……また、こいつは」
リアは呆れたように眉をひそめ、じと目でシンヤをにらむ。
「もうわかってた。絶対そうなると思ってた。アンタの“癒し”はそういう方向にしか向かないのね」
「いや、違うって! たぶん、リアも気に入るよ。ほら、撫でるとしっぽふるし、たまに口から音を鳴らして……」
「その音って鳴き声? それとも媚びた声?」
「……媚びた鳴き声?」
「最悪」
リアが冷たい声で一刀両断すると、シンヤは「ごめん調子乗った」とそっと頭を下げた。
だが、その顔は明らかに次のターゲットへ向けて高揚していた。
ギルドの一角、いつものテーブルには今日も変わらぬ顔ぶれ。
木製のテーブルに肘をつきながら、シンヤは新しい依頼ではなく、次なる"異種族娘との出会い"について語っていた。
「さて、次はどこに行くか……」
シンヤの呟きに、ティルが目を輝かせて答える。
「こないだのゾンビ娘たちはすごかったね……でも、もっとこう……癒し系がいいかも。空間そのものが夢みたいなやつ、ないかな?」
「ふともも系でもいいぞ」
モグは当然のように語る。
「ふとももがふわふわしてて甘え上手だったら最高だな」
その時、カウンター奥からリアがふと近づいてくる。手には小さな紙切れ。
「……次のお店、見つけたわよ」
三人の視線が集中する。リアは少し面倒そうに紙を差し出しながら言う。
「名前は"夢宿りのこもり木"。なんでも最近、街に現れたばかりの新しい店らしいわ。種族は、聞いたことない……パフミル族、だって」
「パフミル……?」
ティルが耳をそばだてた。
「現実にいるのかすら不明だったのに、ある日ぽっと現れた。夢から落ちてきたように、って。まるで夢みたいな存在で、人々の願いに応じて姿を変えることもあるとか。
けど、今は店にいる個体は“ふわふわの癒し系で、多個体で主様に尽くす”って噂よ」
その瞬間、ティルとモグの瞳が同時に輝いた。
「つまり、夢の姿になって甘えてくる可能性がある……?」
「ふともも……たくさん……!!」
ふたりはそれぞれの妄想世界に飛び込んでしまった。
リアは呆れたようにため息をつく。
「はぁ……ほんと、何考えてんのよあんたたち。だからあたしが疲れるのよ……」
すると、シンヤがからかうように笑みを浮かべた。
「でも、リアのおかげだぜ? ありがとな。わざわざ調べたってことは……リアも興味があるんだろ?」
「……うっさい!!」
リアは顔を赤らめ、ぷいと横を向く。
ティルが笑う。
「ふふ、ツンデレも含めて癒しだね」
「さ、行こうぜ!!」
「感想……よろしく……」
シンヤは椅子から立ち上がり、軽やかに腰の装備を整える。
ティルとモグもそれぞれ笑いながら席を立ち、三人はいつものようにギルドの扉をくぐって街へ出る。
目的地は、「夢宿りのこもり木」。
夢のような癒しが待つ、新たな異種族娘との出会いが、彼らを待っていた。




