スライムの優しさに溶かされて
この国――〈ミューリア辺境自治区〉は、いわゆる“異種族の国”である。
エルフ、ドワーフ、獣人、ハーピー、リザードマン、スライム、サキュバス――
名を挙げればキリがないほど、多種多様な種族が当たり前に暮らしている。
そしてもう一つ、この国には「店文化」というものがある。
それぞれの種族が自身の特性や性を活かした〈もてなしの店〉を営み、客はそこに通う。
ただ酔い、ただ癒やされ、ただ満たされる。争いも政治もここにはない。
男たちは言う。「あそこは楽園だ」と。
女たちは言う。「男ども、また行ったの?」と。
そして、俺――シンヤは、そんな世界に惚れ込んでここに住みついたひとりの人間だ。
「……で、今夜はスライムか?」
ギルドのカウンター前、木製の机に肘をついて座るのは、ドワーフの戦士・モグ。ごつい指で酒瓶を転がしながら、ニヤついている。
コイツは同じ常連で、だいのふともも好き。異種族のふわふわ具合にうるさい。
「ふむ、僕は初見の店は好きじゃないが……“ぬめり対策クッション”という気配りには興味がある」
隣でワイングラスを回すエルフの魔術師・ティルも、真剣な顔で呟いた。
コイツは理知的なくせに、異種族文化にハマり知識をひけらかす。俗にいう、インテリオタクだ。
エルフにしては妙に性に貪欲で気が合う仲になった。
「さすが俺のセンスが分かるやつらだよ」
俺――シンヤは満足げにうなずいた。
三十を少し過ぎた、地味な冒険者。戦って、稼いで、そして夜になれば店に通う。それが俺のライフスタイルだ。
「しかしお前が店に俺らを誘うとはな。珍しい」
「……まあ、ちょっと見せたいもんがあってな」
俺は腰の袋から、小さな丸いクッションを取り出した。触るとぺたっと柔らかく、内部は耐水性のスライム用繊維でできている。名付けて――
「"ぬめり対策クッション・Type S"ちゃんだ」
モグとティルの目が光った。
「お前、こんなもんまで作ってたのか」
「これ……店側が泣いて喜ぶよ。いや、実際に泣くかは種族によるが……」
「スライムの身体って、床に長時間接してると水気が偏るんだよ。だからこういうのをさっと敷いてやると、すごく喜ばれる。まあ、常連の礼ってとこだな」
そう。俺はただの女好きじゃない。
自分の気持ちを満たすことと、相手がどう感じるか。そのバランスを大事にしてる。
その気配りが効いたのか、俺が紹介した店は外れなし、って評判になってるらしい。
「また、妙なもん作って」
横から冷めた声が差し込んだ。
カウンターに肘をついていたのは、ギルドスタッフのリア。長いピンク髪をひとつに結び、淡いグレーの瞳がじっと俺を見ている。
「そんなに毎日通って、飽きないの?」
「飽きたら人間なんてやってないさ」
「……ふぅん。じゃ、せめて酔い潰れないように」
そう言ってリアは、蒸気の立つハーブティを俺の前に置く。目を合わせず、だがカップの中には"いつもより多めの回復草"が浮かんでいた。
「ありがとうよ。今度、リアの好きなクッションも作ってやるよ」
「いらない。……でも飲み忘れたら許さない」
リアはそっぽを向きつつ、耳まで赤かった。
「よし、行くか。今夜は“ぬめりと灯りの部屋”でリフレッシュだ!!」
「ハーレムじゃなくリフレって言い方するあたり、逆に深いよな……」
モグとティルが笑いながら立ち上がり、俺も腰を上げる。夜の風が吹き込むギルドの扉を開けると、外には異種族たちの看板が灯る幻想的な街が広がっていた。
今夜の相手は――スライムの娘、ミィナだ。
彼女の柔らかさに、心も身体も、全部溶かしてもらおうじゃないか。
「俺はこの国の全ての異種族っ娘をしゃぶり尽くすッ!!!」