『神殺しを名乗る者』 7 「首を刎ねることなら、得意だが」
――何か、見落としているのか?
トゥリアは一瞬、自分の判断に疑念を抱いた。
だが、どこに誤りがあるのか、どうしても思い至らない。
「諸君がこのように考えているのなら、私も同意せざるを得ません」
最後に、マルセラスが静かに答えた。
そして、年老いた議事官が投票の集計を始める。
その姿には長年の務めが刻んだ威厳が漂うものの、老齢ゆえか、立ち上がるのもおぼつかない。
やがて、彼は慎重に色褪せた紫のローブの襟元を正し、元老院の中央で高らかに宣言した。
「圧倒的多数の賛成により、決議は可決された!
本日をもって、ダリウス・エヴァンデを将軍に任命し、第十五軍団の全指揮権を授与する。
また、アシャー・シンクレアを大隊長へ昇進させる!」
「アシャー・シンクレア!」
エヴァンデは、怒声をあげた。
「お前はただの奴隷の血を引く劣等な存在だ!そんな穢れた血筋が、私の前に立つ資格すらない!」
その言葉が発せられるや否や、アシャーの目に冷徹な光が閃く。
エヴェンデが反応する間もなく、肩に鋭い剣風が突き刺さった。
赤いマントが一瞬で切り裂かれ、留め金が音を立てて砕け、地面に転がり落ちる。まるで硬貨のように跳ね、数尺離れたところでようやくとどまった。
周囲の兵士たちは息を呑んで、固まった。
――なんてことだ、貴族に手を出すなんて!こいつが本当に何も恐れていないのか!
「どうやらお前の頭も、戦闘力と同じくらい、ひどく無駄だな」
耳元でアシャーの冷徹な嘲笑が響く。
エヴァンデは一瞬反応が鈍ったが、その嘲笑を聞いた瞬間、怒りが胸中で炸裂した。
「お前——!」
「急報!」
その瞬間、伝令官の声が響き、白熱した対立を断ち切った。
「即日、ダリウス・エヴァンデは将軍に任命され、第15軍団全軍の指揮権が授与される。
また、アシャー・シンクレイアは大隊長兼副将に任命され、
両名は明日、浮島に向けて出発し、任務を遂行する!」
その言葉が終わると、場はしばらく静寂に包まれた。
特に当事者であるエヴァンデとアシャーは、まさかこんな展開になるとは、予想すらしていなかった。
兵士たちは互いに顔を見合わせる。これから自分たちの上司が、まるで爆発寸前の二人だとは、誰もが信じられない。
エヴァンデは数秒間呆然と立ち尽くした。
信じられない表情がその顔に浮かび、次いで怒りが瞳の奥で燃え上がる。拳を握りしめ、口を開こうとしたその瞬間——
一人の家臣が、まるで影のように音もなく近づいた。低く冷たい声で耳元に何かを囁くと、エヴァンデの動きは一瞬止まる。顔に深い傷跡を持つその男は、地面に落ちた赤いマントを拾い上げ、無言のままそれをエヴァンデに差し出した。
どうやら、エヴァンデの腹心の部下らしい。
エヴァンデの顔色が変わり、深呼吸をした。爆発しそうな怒りを、必死に抑えようとする様子が見て取れた。
「今日から、我々は一つの軍団だな、アシャー・シンクレア」
エヴァンデは不気味な笑みを浮かべて言った。「これからはよろしく、と言うべきか」
「よろしくなんて必要ない」
アシャは冷ややかに応じた。
「首を刎ねることなら、得意だが」
集結の地では、暗雲が渦巻く。
嵐の前のような、不穏な風が地面を吹き抜けていく。