08.Vamp同士の絆
《前回のあらすじ》
【2032年 過去】
大量虐殺犯であるジョージと同居するマット。そのマットが、遊園地であった利沙と警察官の高橋を探ろうと動き出した。
マットは、まず警視庁本部庁舎に向かった。遊園地で会った警察官とVampの女を探すためだ。マットが二人を見つけるのに、それほど時間はかからなかった。
☆
利沙の家の前で佇むマット。利沙の姿を見つけるや否やほくそ笑んだ。
「ヨッ! 前にも会ったな。」
利沙は素早く逃げようとしたが、すぐに追いつかれてしまった。利沙の前に立ち塞がったマットは、魔物に変貌した利沙の姿を見て困ったような表情を浮かべた。
「そんなに怖がらなくてもいいだろう。俺は何もしないぜ。」
マットは両手を広げ、この通りというジェスチャーをした。利沙は金色に光った目でマットを睨みつけが、マットは怯む様子もなく話しを続けた。
「遊園地に一緒にいた奴、あいつ警察だろう。」
「知らないわ。あの日たまたま会って話しただけよ。」
「そうか? あの親子と仲良さそうだったけどな……。それにお前、警視庁で何をしてるんだ? 警察に協力してVamp狩りを手伝っているとかじゃないよな。そんなこと他のVampに知れたら、痛い目に合うぞ。」
「そんなことするわけがないでしょう。」
「人間とは距離を置け。あの親子のためにも……。」
利沙は驚いた。Vampの口からそんな言葉が出てくると思わなかったからだ。
「遊園地であった親子とは何の関係もないわ。これ以上私に構わないで!」
「なんか危なっかしくて、放っておけなかったんだ……。これからは、もっと気をつけて行動しろ。」
「私がどんな思いで暮らしているか……、あなたには理解できないわ。人間とは関わりを持たない方がいい……。そんなこと言われなくても分かっているわよ!」
「お前はVampだ。人間とは住む世界が違う。」
「……私は人間と関りを持ってはいけないの? Vampはもう人間ではないということなの?」
利沙はむきになって言い返していた。それは利沙の胸中に常にある思いでもあった。
マットは利沙を見てニヤリと笑った。
「素直でいいな。気に入った! ——俺はマット、君は? 名前くらい教えてくれよ。」
警視庁に出入りしている自分を攻撃してくるのでは……、と思っていた利沙だったが、マットの言葉に唖然とした。利沙は何時しか魔物の姿から、いつもの美しい姿に戻っていた。
「……利沙。」
利沙は小さく呟いた。
「利沙か……。またな、利沙。」
マットは名前を聞くと、会話を続けようともせずに去って行った。マットの姿はあっという間に見えなり、利沙は突然の出来事に呆然と立ち尽くしていた。
すると再び、利沙の前にもう一人のVampが現れた。
「彼は私や他のVampと違って、優しいの。人間の心を持ったままっていうか……。」
話しかけてきたのはマットの同居人の女だ。
「彼にちょっかい出さないでよね!」
と言うと、利沙に何も言う間を与えず、彼女もすぐに立ち去った。——利沙にはその女の顔に見覚えがあった。
身を隠し、女のVampが利沙から離れるのを待っていたマットが、その女の腕を掴んだ。マットは利沙の元を去ったあとも、Vampの気配に気づき様子を窺っていたのだ。
「ルナ、後をつけてきたのか? 俺の監視はするな! そして、彼女に手を出すなよ! 絶対に!」
と強い口調で言い放ち、マットは姿を消した。ルナは悔しそうな顔でマットの後ろ姿を見ていた。
☆
翌日、部長室で生駒部長、高橋、本田の三人が話し合っていた。
人間の殺人犯なら一刻も早く捕まえに行くのだが、相手が複数のVampとなると話が違う。捕らえる前に皆殺しにあっては元もこうもない。殺人犯のVampは捕まえない、——葬るのだ。
「あの屋敷には三人のVampが住んでいる。一人はジョージ、これは確実だ。もう一人は、おそらくルナという名のVamp。そして、あとの一人は殺人には関わっていないであろうVampだ。」
屋敷を訪問したとき、高橋と本田はジョージの顔を見ているが、他の二人は確認できていない。
「あの屋敷にルナがいることを確認してからVamp狩りをするか。それとも、このまま三人とも抹殺してしまうか。」
「三人とも抹殺するのが現実的だろう。Vampを一人でも見逃したら、必ず仕返しがある。そんなリスクは負えない。」
「Vampは本物のヴァンパイアと違い、杭がなくても頭か心臓を撃ち抜けば死ぬ。昼間、あの屋敷を狙い、Vampの動きを封じましょう。」
「屋敷の情報が欲しいな。」
「近くの不動産会社なら屋敷の詳細が分かるはず。」
「Vampに怪しまれないように、気をつけろよ。」
生駒部長の言葉を最後に、高橋と本田は部長室を出た。
《次回》
いよいよジョージ、ルナ、マットに警察の手が伸びる!