52.真実
《前回のあらすじ》
Vamp襲撃の準備に取り掛かるVamp捜査課のメンバーたち……。
利沙は成長した涼介に高橋の面影を感じ取っていた。
Vampがたむろしているライブハウスを、特殊急襲部隊が包囲した。日光が降り注ぐ昼間は、こちらが有利だ。本田と利沙が陽射し除けのコートをまとい、石川と隊員たちはこめかみに暗示防御シール、首に保護シートを付けていた。
本田が石川に合図を送ると、石川は背負っていたリュックの中から、パソコンと12機の超小型ドローンを取り出した。そして、
「kumo君たち、上手くやってくれよ。」
と言うと、パソコンを操作し始めた。
その直後、kumo君たちは床を這うように、地下に続く階段を下りていった。幾つかのものにはカメラが備え付けてあり、Vampたちが酒盛りをしている様子が、石川の手元のパソコンに映った。Vampの一人がkumo君に気づいて目で追ったが、本物の蜘蛛と思ったのか、気にも留めない様子だった。一機ずつ目立たないように移動し、所定の位置で停止した。——石川が本田に準備OKの合図を出した。
本田は横にいる利沙の顔を見た。
「いよいよだ。お互い、生きて帰ろう。」
「ええ。」
そして、隊員たちと石川にGOサインを送った。石川は待機させていた蜘蛛型ドローンを飛ばして、薬を散布した。それと同時に、本田と利沙を筆頭に隊員たちが、銃を構えながら階段を下りていった。地下のライブハウスに着くや否や一斉に銃を放った。ドローンから噴射された薬で、特殊能力を失ったVampたちの殆どが息絶えた。
薬の効果で、太陽の陽を浴びることが可能になった幾人かのVampたちは、外に逃げ出そうと、裏口にある階段を上って地上に逃げた。しかし、逃げ出したVampは、近隣のビルで銃を構えていた隊員たちに呆気なく射撃された。これで、獰猛なVampを全て倒したかに思われた。
まさにその時、利沙の瞳に男の子たちの姿が映った。一人はすでに死んでいたが、もう一人はまだ生きていた。死亡した兄と思われるVampにピッタリと寄り添い、特殊急襲部隊の隊員を怯えた様子で見つめている。隊員がその男の子に向かって、震える手で銃を構えた。——Vampとはいえ、子供を撃つには勇気がいる。
「お願い、やめて!」
隊員に向かって利沙が叫んだ。
「Vampは全員抹殺との指示です。」
隊員は引き金を引いた。——銃弾は利沙に命中し、彼女の腹部から血が流れ出た。利沙がVampの子供を庇って、その子の前に立ちはだかったのだ。利沙の後ろには、散布された薬により人間の姿に戻った男の子が蹲っていた。
「三浦さん、どいてください。」
隊員は銃を構えたまま利沙に言った。その様子に気づいた他の隊員たちも集まってきた。誰もが利沙に向け銃を構えた。正確には、利沙の後ろにいる男の子に向けてだ。
利沙は本田に助けを求めようとしたが、本田の姿はなかった。薬が効かなかったVampが建物の上階に逃げたため、本田は数名の隊員を連れて、そのVampを追っていたのだ。
利沙の体からは血が流れ続けていた。銃弾が思わしくない所に当たり、Vampといえども回復に時間がかかっていたのだ。——何とかして男の子を安全な場所に移したかったが、体が思うように動かない。
利沙は内に秘めた力を出すほかなかった。——利沙の姿が魔物に変わってく……。目は金色に光り、紫色の血管が浮かび上がった。獣のような牙か生え、口からは威嚇のようなうめき声がこぼれた。男の子を庇ってできた銃弾の傷も見る見るうちに消えていった。
隊員たちは、利沙の姿に一瞬ひるんだ。Vampになった利沙は隊員たちにとって、もはや敵同然だ。隊員たちは、利沙を目掛けて一斉に引き金を引いた。いくらVampでも、頭や心臓に銃弾が当たれば死に至る。利沙は死を覚悟した。——涼介、ごめん。生きて帰れなくて……。
しかし、銃声が鳴った直後、利沙の目の前に銃弾がポロポロと落ちてきた。
「皆さん、仲間を殺す気ですか?」
石川がパソコンを抱えて立っていた。複数のドローンにより、利沙の前にはシールドが張られ、彼女を守っていたのだ。——利沙は石川の出現で安心したのか、魔物の姿から元の人間の姿に変化していった。
「みんなには言っていませんでしたが、このドローンは薬を噴射する他に、シールドが張れるように設計されています。危険が迫ったときに必要かと……。まさか仲間同士の争いで使うことになるとは思いませんでしたが……。——利沙さん、早く隊員たちに暗示を。」
石川は持っていたパソコンを操作し、隊員たちの暗示防御シールを無効にした。利沙は金色に光る目で、みんなに暗示を掛けた。
「Vamp姿の私は忘れて。私は人間。……こんな嘘がいつまで通用するか。」
利沙が石川に向かって本音を吐いた。味方だと思っていた隊員たちに銃を向けられ、彼女は激しく動揺していた。——Vampであることを公表すれば、即、部隊たちの標的になる……と確信した出来事だった。
これで一段落ついたかと思われた。だが、そうはいかなかった。石川が蜘蛛型ドローンを回収しようとしたその時、利沙の後ろにいた男の子が石川に襲い掛かってきたのだ。男の子は薬の効果が切れてVampに戻っていた。——ヤバイ! 石川は一瞬の隙を突かれ、為す術がなかった。
その瞬間、利沙が動いた。利沙はその男の子の両腕を掴み石川から引き離した。
「お願い、人間を襲わないで! 人間を襲わなくても、生きていけるわ。」
利沙は男の子をなだめようと必死だったが、その子は牙をむき出しにして彼女を威嚇した。興奮していて、今にも隊員たちの誰かを殺しかねない状況だ……。
利沙は苦渋の決断を迫られた。その男の子を抱きしめたあと、頭を押さえつけ首を大きく横に捻った。男の子は利沙の腕から、スローモーションのようにゆっくりと床に崩れ落ちた……。
石川の視界には、自分の忌まわしい手を呆然と見つめる利沙の姿が映っていた。——人間もVampも利沙にとって敵ではないのだ。ましてや、Vampといえども子供を殺すなんて耐えられない苦しみだった。
暫くして、薬が効かなかったVampを始末し、本田が戻ってきた。彼はライブハウスの死体の山や、利沙の足元で倒れている子供の死体を見て深いため息をついた。
「大丈夫か? ……この仕事は、辛いな。」
本田はそう言うと、優しく利沙の肩に手を置いた。——Vampである彼は、何も言わなくても利沙の心境が分かる。そして、石川も二人の辛さを理解していた。
「全て終了しました。」
本田が、生駒部長に襲撃が終わったことを報告した。
「良くやった! お疲れ様。……みんな無事か?」
「はい、死傷者はいません。」
生駒部長は退職前に、一人の部下も失うことはできないと考えていた。利沙に至っては、彼女の両親が望んでいたように、心身ともに平穏であることを願っていたのだ。しかし、退職間近の生駒部長には、できることが限られていた……。
「……お疲れ様。……また、明日。」
利沙はいつもと変わらない挨拶をすると、一人で涼介の待つ家へと帰っていった。石川は本田に、利沙が隊員たちの標的になったことを話した。——二人は、ロングコートをまとい、肩を落として歩く利沙の後ろ姿を目で追った……。
【2050年 現在】
僕はルナに用意してもらった夕飯を食べ終わり、マットおじさんが手にしている本を覗き込んだ。
「そろそろラストですね。……この本に書かれている結末は、僕が考え出したフィクションです。真実は違います。本の中の利沙は、この事件のあと、周囲の助けもあって自分を取り戻し、警視庁で活躍し続けます。そして、今も笑顔を振りまき、僕と共に元気に暮らしています。……しかし、実際には利沙はここにいません。
……利沙に何があったのか本当のところを知りたくないですか? この本の結末、すなわち僕が考えたフィクションを、マットおじさんに読んでもらおうとは思っていません。本当の結末は僕が話します。真実をマットおじさんに話すことができたら……、僕も救われると思うのです。」
マットおじさんが手にしている本は、真実を歪め、僕の願望そのものを書き記していた。僕は懺悔の意味も含め、マットおじさんには全てを正直に話したかった。
「分かった。」
と言うと、マットおじさんは読んでいた本を閉じた。そして、おじさんの視線が僕を捉えた。——僕は真実を語り始めた。
《次回》
【2050年 現在】涼介が真実を語る……。
次回の53話でこのお話は完結します。最後までどうぞお楽しみください!
次回エピソード最終話《53話》は明日投稿します。乞うご期待!




