05.殺人事件の真相
《前回のあらすじ》
【2032年 過去】
高橋雅史は息子の涼介に利沙を紹介した。Vampである利沙は、人間と良好な関係を築くことができるのか……。
【2050年 現在】
マットが子供の頃の涼介について語る。
捜査本部に再び殺人の知らせが入った。早速、高橋は本田と利沙を連れて現場に向かうこととなる。
☆
三人が現場となったBarに着くと、無残な光景が広がっていた。グラスが散乱し複数の死体が無造作に転がっていたのだ。——Vampの仕業に間違いない。Barにいた客や店員に暗示をかけ、酒を飲んで盛り上がったあと、一人ひとり殺していったのだろう。完全に殺しを楽しんでいる。
血を全て飲み干された死体の他に、一滴の血も飲まれていない死体もあった。これではただの殺人と変わらない。暗示にかけられたまま殺されたのか、安らかな死に顔が不気味さを感じさせる。今回の殺人も、被害者の所持品はそのまま残されていた。——犯人は欲望に満たされ、後先考えず帰っていったのだろう。
「節度がない殺しですね。」
一体一体死体をチェックしながら本田が言った。利沙も死体に触れ、何が起こったのか読み取ろうとしていた。
「何か見えましたか?」
高橋が利沙に聞いた。
「二人のVampが見える。ルナと呼ばれているVampと、もう一人は……、男のVamp。こっちは顔がハッキリ見えるわ。歳は40くらいかしら。あっ! 腕に十字架のタトゥー。思っていた通り、この前の殺人と同一犯ね。……男の名前はジョージ。」
必要な情報を利沙は即座に読み取った。
利沙の冷静な口調とは逆に、——どんな悲惨な光景が見えているのだろうか。三浦さんに残酷なことをさせているのでは……、と高橋は考えていた。
「Vampにとって、人間って何なんでしょうね。食料であり、もてあそぶ玩具のようなものでもある……。」
本田が人形のように動かない死体を見ながらボソッと呟いた。利沙も高橋も本田に返す言葉が見つからなかった。
☆
三人は捜査本部に戻り、最近の事件のファイルを見ながら、連日起きているVamp事件の共通点や犯人の手口などをまとめ上げた。利沙は犯人のモンタージュ写真の作成にも協力した。
「三浦さん、助かります。これで犯人が特定できそうです。」
高橋がそう言うと、本田も、
「三浦さんの能力は無敵ですね。これからも捜査協力、よろしくお願いします。」
と、親しみを込めて言った。
「私でよかったら、いつでも協力します。」
利沙は二人に頼りにされて嬉しかった。
「三浦さんじゃなくて、名前で呼んでください。利沙さんでも、利沙君でもいいので……。学生のとき、利沙って呼ばれていたんです。また、人間だった頃と同じように呼ばれたいって、ずっと思っていました。……高橋さんや本田さんに名前で呼んでもらえたら、夢が叶います。」
二人は顔を見合わせたあと、利沙に向かって声をそろえて言った。
「……利沙さん。」
利沙の顔が輝いた。その表情は、学生だった頃の屈託のない笑顔を想像させるものだった。
「人間とはかけ離れたVampも多く存在するけど、利沙さんは人間よりも人間らしい人間です。」
本田は照れた様子で利沙を見た。
仕事が一段落ついた頃には、陽が沈み外は暗くなっていた。本田が帰るのを見届け、高橋は帰り支度をしている利沙に話しかけた。
「遅くなってしいましたね。すっかり暗くなって……。家まで送っていきます。」
「私はVampですから、暗い方が都合がいいんです。」
利沙が冗談っぽく答えた。
高橋は二人の間に立ちはだかる壁——人間とVampの間に存在する壁が崩れていくのを感じていた。
「これ以上遅くなるとご両親が心配しますから、俺の車で送っていきます。」
陽の光が無ければ特別仕様車は必要ないのだ。高橋は自分の車に利沙を乗せた。
☆
車の中で、高橋がずっと気になっていたことを利沙に聞いた。
「俺と初めて会ったとき、何を見たんですか?」
「え?」
「俺の手が利沙さんに当たってしまったときです。利沙さん、凄く怯えていたから気になっていて……。サイコメトリーの能力で何かを見たんですよね。」
「……Vampを殺す瞬間の映像が浮かんできて、恐ろしくて……。私もいつかそんな風に殺されるのかなって……。」
利沙の声は緊張していた。——彼女は仕事を共にしているといっても、Vampなのだ。彼女にとってVampを殺している俺の姿は、自分たちを敵視する無情な人間に見えたのだろう。高橋は、手に掛けたVampが殺人鬼だったことを告げた。
「大丈夫です。高橋さんとお話しして、怖い人ではないとわかりましたから。」
利沙のその言葉は、高橋を安心させた。
「……Vampも一人の人間だと、利沙さんに教えてもらったような気がします。」
それは高橋の本心だった。
二人の乗った車が利沙の家に着くと、利沙は高橋に礼を言い、車から降りた。
夜はフードで顔を隠す必要がない。ロングコートを着ていない利沙の姿は、高橋には新鮮だった。青白く透き通った肌が月明りに照らされ、利沙は神秘的で、とても美しかった。
高橋は家に向かう利沙を呼び止めた。
「利沙さん……。週末、息子の涼介と遊園地に行くのですが、利沙さんも一緒に行きませんか。夜の遊園地なら、利沙さんもきっと楽しめます。」
勇気を出して誘ったというより、魅力的な利沙を目の前にして、思わず口走ってしまったというのが高橋の本音だった。
「是非、私も行きたいです。」
利沙は何の迷いもなく答えた。
《次回》
楽しいはずの遊園地で思いもよらない出来事が……。
続きのエピソードは、明日投稿します。お楽しみに!