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04.利沙と涼介との出会い

《前回のあらすじ》

【2032年 過去】

 高橋雅史、本田優太、三浦利沙はVampによる殺人事件の捜査に乗り出す。

 仕事終わり、高橋は息子の涼介が通う小学校から呼び出された。——利沙と共に小学校に向かうが……。



 高橋と利沙を乗せた車が、小学校の敷地内に停まった。

「少し待っていてください。なるべく早く戻って来ます。」

利沙を車に残し、高橋は校舎に入って行った。


 3年1組と書かれている教室で、高橋の息子の涼介と担任の先生が待っていた。

「こちらにお座りください。」

高橋は促されるまま、涼介の隣に置かれた生徒用の小さな椅子に座った。体格のいい高橋が座ると、その椅子はより小さく感じられる。


「いきなり本題に入りますが、今日、涼介君が同級生の子を殴りまして……、お父さんに来てもらったのです。」

涼介の担任が厳しい顔で高橋を見た。


「そうなのか?」

高橋が涼介に聞くと、涼介は

「……うん。」

と頷き、それ以上何も言わなかった。


「お騒がせして、すみませんでした。」

高橋は頭を下げた。

「お母さんがいない分、涼介君にはもっと注意を払ってもらわないと……。あまり問題を起こさないようにお願いします。」


 涼介は不服そうにうつむいている。

「涼介は、理由もなく友達を殴ったりしません。殴られた子にも問題があったのだと思います。……それと先生、母親がいないことと、今日のことは結びつけないでください。うちの子はともかく、片親でも立派に育っているお子さんはたくさんいます。」

高橋は何故か無性に腹が立った。——涼介の味方でいたい。


「家に帰って落ち着かせてから、息子とじっくり話したいと思います。同級生を殴った経緯については、後ほど先生に報告します。……先方へのお詫びにも、息子と二人で伺います。」


 まだ何か言いたげな担任をあとに、高橋は涼介を連れて教室を出た。話足りないのは高橋も同じだったが、利沙を待たせている手前、早く引き上げなければならなかったのだ。


   ☆


「待たせて、すみません。」

高橋は車で待っていた利沙にひとこと言うと、涼介を車の後部座席に乗せた。


「この車、窓から外が見られないんだ。窓ガラスは飾りなんだね。変な車! モニターの画面を見て運転するなんて……。あっ! 犯人を乗せる車なの?」

涼介は車内をぐるりと見渡し、疑うような目で利沙を見た。


「この人は犯人なんかじゃない! お父さんの仕事を手伝ってくれている、三浦さんだ。」

高橋は慌てて利沙を紹介した。

「よろしく。」

利沙は助手席から涼介の顔を覗き込むように挨拶をした。

「僕は涼介。父がお世話になっています。」

涼介の言葉に答えるように利沙が笑顔を向けた。


 その直後、高橋は特別仕様車に飾りのように付いているバックミラーで、涼介の顔をチラッと見た。

「……涼介、どうして友達を殴ったりしたんだ?」

「あいつがいけないんだ。あいつ棚にぶつかって、クラスの子の図工の作品を壊しちゃってさ。その時、自分の作品が壊れたことに気づいた子が泣き出して……。僕は謝るように、あいつに言ったんだ。そしたら、あいつ、あんな作品壊れてもいいって言い出して……。——なんか許せなくてさ、殴っちゃたんだ。だって、凄くいい作品だったんだよ。」

高橋が納得したように頷いた。そして、再びバックミラーに映った涼介に目を向けた。


「……確かに友達のしたことは悪い。だが、殴るのは……。」

「殴るのは、いけないことだ。分かっているよ。僕も、やりすぎたと思ってる。」

涼介が高橋の言葉に被せて言った。

「そうだ。……分かっているならいい。なるべく手は出すなよ。後から、担任の先生には説明しておくよ。」

高橋と涼介の会話から、仲の良さが窺える。



 高橋は利沙を送る前に、まず涼介を家に連れていき、車から降ろした。

「綺麗な人だね。」

涼介は小声で、父である高橋に耳打ちした。


「何言ってるんだ。家に入ったら、鍵を閉めておけよ。お父さんは三浦さんを送ってくるから。」

高橋がはぐらかすようにそう言うと、涼介は意味ありげな笑みを浮かべて返事をした。

「は~い。」


 高橋は、Vampの利沙が息子と同じ空間に長い間一緒にいることを望まなかった。涼介を一刻も早く車から降ろしたかったのだ。——自分の行為は、シングルファーザーを特別視しているあの担任と同じではないか……、と高橋は思った。

         


 再び車を走らせると、高橋が話し始めた。

「涼介の母親は、あの子を産んですぐに他界してしまって……。あいつ、寂しい思いをしているだろうに……、俺にはそんな素振りは見せないんです。」

「可愛いお子さんですね。」

涼介は男らしい高橋と違い、母親似なのか、愛嬌のある可愛らしい顔をしている。


「高橋さんは良いお父さんですね。多忙なお仕事なのに、お子さんに寄り添っている感じで……。涼介君、優しい子に育っていますね。」

「正直、子育てに自信がなくて……。三浦さんにそんなふうに言ってもらえると嬉しいです。——激しい反抗期がこないように祈るだけです。」

利沙はクスッと笑った。利沙の笑みは人間の少女と変わらない可愛らしいものだった。


 涼介のお陰で、二人の会話が自然に流れるようになっていた……。



 高橋の運転する車が、利沙の家の前で停まった。利沙は笑顔を浮かべ高橋に礼を言うと車から降り、家に入っていった。

 間もなくして老夫婦が現れ、優しい表情で高橋に近づいてきた。利沙の両親だ。22歳の利沙の親とは思えない老いた姿だった。——利沙の実際の歳を考えると当然のことだろう。


「娘を送っていたたき、ありがとうございました。娘のあんなに明るい顔を見るのは久しぶりです。」

利沙の父親が嬉しそうに言った。娘の表情は親の心を容易に操ることができる。

「娘を、よろしくお願いします。」

利沙の両親は何度も何度もお辞儀をし、高橋の車を見送った。



 【2050年 現在】


「小学生の涼介は、やんちゃで、可愛くて、でもどこか大人びた態度で……。」

マットおじさんは懐かしそうに、僕に話しかけた。


「小さいのに、しっかりしていて……。シングルファーザーの雅史に心配かけないようにって、お前なりに気を使っていたんだろうな。そんなお前を、雅史はもちろん、利沙も俺も守ってやらなくちゃって思っていたんだぜ。」

「Vampに囲まれた生活は間違いなくクレイジーだったけど、心強かったのは確かです。僕はみんなに可愛がってもらい、幸せ者でした……。」


 僕はVampも人間も変わりないと思っている。人間でも相手の気持ちが理解できず、他人を傷つけて平気な奴がいる。片やVampでも相手を思いやって、自分のことのように傷つく人がいるのだ。


「マットおじさん、ブランデー持ってきますね。お酒を飲みながら、ゆっくり本の続きを読んでください。」

Vampのマットおじさんは、血液以外にもなぜかブランデーをよく飲んでいた。お酒が美味しいのか、ただのかっこ付けなのかわからないが喜んで飲むのだ。

「サンキュー!」


マットおじさんは礼を言うと、また本を読み始めた。

《次回》

Vampによる大量虐殺事件が発生する。

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