02.Vamp~利沙との出会い
《前回のあらすじ》
【2050年 現在】
マットが涼介の元を訪れ、過去の出来事について語り合う。
【2029年 過去】
警視庁ではゲノム治療を受けVampに変貌した人々に対応するため、Vamp捜査課を設けた。
【2032年 過去】
「Vampは五感が鋭く、身体能力に長けている。人や物に触れることで、秘められた記憶を読み取ることができる。人間の目を見て暗示にかけることもできる。……Vampはヴァンパイアそのものですね。対等に戦ったら、命はないって感じですか。」
新人の本田優太が独り言のように言った。本田は聡明な上に射撃の腕も買われ、Vamp捜査課に配属されたのだ。Vamp捜査課に所属する者は、特殊急襲部隊と行動を共にするため、射撃の腕が重視された。
「だからこそ、日頃からVampの特性を頭に入れて対策を練る必要があるんだ。——早く、これを飲め。」
手慣れた様子でハーブティーを差し出したのは、Vamp捜査課の設置と同時に配属された高橋雅史だ。歳は30後半、Vamp事件の現場の責任者であり、指揮を任されていた。職場では頼りにされる存在だ。
「ローズマリーですね。これって、本当にVampの暗示に効くんですか?」
「昔から魔除けに使われていたハーブだ。個人差はあるが……。まあ、飲んでおけ。」
「なんか、不安を煽る言い方ですね。」
本田はコップ一杯のハーブティーをクイッと飲み干した。
「さぁ、見回りに行くぞ。」
上着を着て二人が外に出ようとしたとき、ロングコートを身にまといフードを深く被った人物とすれ違った。通路は狭く、高橋の手がその人物に当たった。
「あっ!」
高橋は条件反射のごとく素早く振り返り、その人物を見た。華奢な姿は女性であることを推測させた。女は怯えた様子で、高橋との距離をとった。高橋はどうしたらいいかわからず、とりあえず会釈をした。女も答えるように会釈をすると、捜査1課の刑事に呼ばれるままにその場を立ち去った。
本田が周りを見渡し、高橋に向かって小声で話し出した。
「さっき、刑事の話を聞いちゃったんですけど……。あの女の人、Vampみたいですよ。」
「Vamp!」
高橋は大声を出しそうになり、自分の口を両手で抑えた。
「サイコメトリーの能力を使って、捜査協力をしているVampらしいですよ。」
「触れただけで、人や物の記憶を読み取る能力だよな。……本当にそんな能力を持っているのか。」
二人は感心したような、恐ろしいような、複雑な気持ちになっていた。
「……生駒部長に確認してくる。」
Vamp協力の有無を部長に直接聞こうと、高橋は本田を残し部長室に向かった。
「見回りに行くんじゃなかったんですか?」
本田の声は、高橋の背中越しに虚しくかき消された。
部長室に入るや否や、
「失礼します。警視庁内に女のVampが居ました。生駒部長、Vampに捜査協力を依頼しているというのは本当ですか⁉」
高橋は声を荒げた。
「どこで、その情報を……。」
生駒部長は驚いた様子だった。
生駒部長は警視庁の部長であり、本来、刑事部の複数の課を統括する立場であった。しかし、Vamp襲来に伴い、今では結成されたVamp捜査課の課長も兼任するようになっていた。歳は50歳前半、役職にもかかわらず温厚な性格で部下たちに慕われていた。
「本田が、刑事の話を聞いたらしいです。」
「……そうか。Vampの捜査協力は極秘扱いだ。刑事も数人しか知らないはずだ。他のVampや多くの人間に知られるのは、彼女を危険にさらすことになるからな。——彼女は三浦利沙さんといって、父親がここの解剖医をしていたことから彼女の能力を借りることになったんだ。これからVamp捜査課でも、彼女のサイコメトリーの能力を発揮してもらうつもりだ。」
生駒部長は高橋の肩に手を置き、さらに付け加えた。
「三浦君のことをよろしく頼む。本田君には、彼女のことを他言しないように言っておいてくれ。噂話はウイルスのように容易に広がるからな。」
「Vampと仕事しろと、急に言われても……。」
高橋は戸惑っていた。
「三浦君はVampといっても、両親と普通に暮らしている。違うことといったら、食事が血液ということだけだ。」
「そこが大きな違いですよ。」
高橋は冗談にも程があると言いたげに、生駒部長の顔を見た。
「……三浦君はVampになることで命を繋いだんだ。」
生駒部長は感慨深そうに話しを続けた。
「三浦君は大学生の時に白血病になって、いろいろな抗癌剤を試したが一向に良くならなかったらしい。癌は進行していく一方だった。そこで、両親は三浦君をアメリカのニューオリンズに連れていった。その当時、ニューオリンズで癌の最先端ゲノム治療が行われていたからだ。——癌は完治したが、彼女は22歳のまま歳をとらなくなった。——その選択は正しかったのか。……人間は、瀬戸際に立たされると間違った選択をしてしまうときがある。」
「……私も妻を亡くしているので、ご両親の気持ちは痛いほどわかります。」
高橋は妻の死を思い出していた。9年前の光景が今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。
「一緒にいるのが当たり前だと思っていた人が、突然いなくなるのは辛い。自分の感情をどう処理したらいいのかもわからなくて……。私もその立場だったら同じことをしたかもしれません。」
「……そうだな。」
生駒部長も首を縦に振った。
「分かりました。しばらくの間、彼女絡みの仕事は私と本田で担当します。」
高橋が部長室を出る頃には、Vampと組む不安よりも、彼女のことを引き受けようという思いのほうが勝っていた。
☆
日本でもVampによる殺人が、この一ヶ月の間に急激に増加していた。首に牙の痕がある死体が発見されるようになったのだ。死体を隠そうという配慮も感じられない。海外に比べて圧倒的にVampの数が少ない日本では、獰猛なVamp事件は珍しい。——多分、同一犯であろう。このまま放置しておくと死体が増えるのは確実だった。
《次回》
【2032年 過去】
Vamp捜査課は新たにVampである利沙の能力を利用しようとするが……。