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11.ジョージとルナ

 《前回のあらすじ》

 【2032年 過去】

 マットが同居人であるジョージとルナの襲撃に加わると言い出す。高橋は自分の耳を疑うが……⁉


 【2050年 現在】

 マットが涼介に、ジョージとルナがVampになった経緯を語る。

 【2032年 過去】


 夕方、陽射しが弱くなるのを待って、高橋は警視庁を出た。高橋と利沙、マットの三人が練った作戦——ジョージとルナの襲撃作戦を実行するために……。


   ☆


 マットは利沙を連れて、自分たちが住む屋敷に入っていった。

 カーテンが引かれた屋敷の中は、シャンデリアが煌々と輝き、Vampの住処に似つかわしくないほどの明るさだ。


「おう、お客さんか。」

リビングで飲酒しながらくつろいでいたジョージが、利沙に気づいた。

「この前、遊園地であった女のVamp……、話しただろ。お前に、連れてこいって言われたから……。」

マットは普段通りの受け答えをした。


「ルナが焼き餅を焼かないといいが……。」

「なんで私が焼き餅を焼くのよ。この子に会うの、初めてじゃないし……。」

ルナがリビングに入ってきた。

「なんだ、会ったことあるのか。」

ジョージとルナが会話している間に、マットが利沙をソファーに座らせた。


 利沙が目の前のジョージに軽く会釈をすると、

「Vamp同士、仲良くやろうぜ。」

と、ジョージが利沙にお酒の入ったコップを渡した。


「酒より、赤い飲み物の方がいいかな? 俺は海外をあちこち回って、いろんな人種の血を飲んできた。お前は日本人の血液しか飲んだことがないかもしれんが、欧米人はまた違った味がするんだ。食べ物の違いで血の味が変わってくるのかもな。たまには、異国の血を飲むのもいい。——どうだ、今度一緒に外国人狩りをしようか。」

悪びれた様子もなく、利沙に笑顔を向けるジョージ。そんなジョージに対して、

「この子は普段、血液バッグの血を飲んでいるんじゃないかな。最近は、闇売買でよく出回っているから、すぐ手に入るし……。」

と、ルナが口を挟んだ。


「それは勿体ない。あの快感を味わったことがないのか。恐怖に打ちひしがれた顔を見据え、首筋に牙を立てる。そいつの心臓の鼓動を感じながら、生温かい血が俺の身体を刺激する。Vampになってこの快感を味わうと、新鮮な血を求めずにはいられない。本能のままに行動するのがVampの本来あるべき姿なんだ。」


 利沙の脳裏に、遊園地での記憶が蘇ってきた。——高橋の血を飲んだときの、あの高揚感は忘れられない。確実に、高橋の血はVampの利沙を目覚めさせた。


「ルナ、今度この子も連れて、人間狩りに行こうぜ。」

ジョージがルナを誘ったが、ルナは乗り気ではないようだ。

「その子は、そんなことしないよ。兄貴もそろそろやめないと……、自分が壊れちゃうよ。警察にだって目を付けられるし……。」

「俺は大丈夫だ。お前のことも俺が守る。何も心配することはない。」

ジョージはルナの肩に手を置いて、得意げな様子だ。


「わたしは、兄貴とずっと一緒にいたいから……。」

ボソッと呟いたルナの言葉に、僅かな望みをかけてマットが同意した。

「そうだ。そろそろ大人しくしたほうがいい。仕舞いには、日本の警察に殺られるぞ。」

「……もう、やめられないんだ。」

無表情のまま、独り言のように呟いたジョージを、マットとルナが諦めに近い表情で見つめていた。


 その時、インターホンが鳴った。マットと利沙は顔を見合わせた。玄関先の監視カメラの映像に、高橋が映っている。


「この前来た奴だ。また何の用だ?」

いつものようにジョージが対応に向かうと、利沙はジョージの動きを見張るため、玄関に意識を集中させた。一方のマットは、利沙がジョージに気を取られているすきに、ルナを裏口に連れていった。



 ——玄関先では——

「また、何かあったのか?」

不機嫌そうなジョージ。

「いいえ、この辺りは物騒なので、見回りをしているんですよ。」

高橋はそう言いながら、自分の背に手を回し、ズボンに差し込んである拳銃を握った。



 ——裏口では——

 マットが必死でルナを逃がそうとしていた。

「これ以上ジョージと一緒にいてはいけない。お前はお前の道を行け。ここのままでは、お前も殺される。逃げろ!」

マットのいつもと違った様子から何かを察したルナが、

「兄貴を裏切るの? ……兄貴を助けて!」

と、真っすぐにマットの目を見て懇願した。

「ジョージのことは諦めろ。早く行け!」

マットは抗うルナの身体をコートで覆い、力ずくで彼女を屋敷の外に出した。そして、裏口の戸を閉めると、素早く玄関に移動した。



 ——玄関先では——

 高橋が銃を構えるや否や、用心深いジョージが、そんなことは承知の上だとでもいうようにその銃を奪い、高橋の頭に銃口を向けた。そして、マットと利沙に向かって、

「こいつ、俺を殺したいらしい。一人で乗り込んでくるとは、いい度胸だ。——さあ、どうしようか。このままバ~ンといくか……。」

と言い、銃口を高橋の頭にさらに強く押し当てた。


 利沙は高橋を助けようとしたが、マットが利沙の腕を掴み阻止した。ジョージは三人がグルだということにまだ気づいていない。


「俺がその警官を始末しようか。」

そう言ってマットがジョージに近寄ると、すかさず拳銃を持っているジョージの手を壁に押し付け、もう片方の手でジョージの心臓を鷲掴みにした。


 その瞬間、ジョージが高橋と利沙を見た。ようやく自分が騙されていたことに気づいたのだ。

「ルナ逃げろ! お前、ルナを……。」

ジョージは苦しそうに、ルナがいたリビングに向かって叫んだ。

「安心しろ。ルナは逃がした。」

マットがジョージの耳元で囁いた。


 ジョージは一瞬安堵の表情を浮かべ、マットの足元に崩れ落ちた。マットの手には生温かいジョージの心臓が握られていた。


 ジョージの死を見届け、高橋が、

「助かったよ。」

と、マットに礼を言うと、落ちている拳銃を拾い腰にさした。高橋が無事だったことに安堵した利沙は、彼に寄り添っていた。


 全てが終わり、三人は足元に転がる変わり果てたジョージの死体を見降ろしていた……。


「ジョージとルナの死体は始末しておく。後は俺に任せてくれ。」

マットのその言葉で、独りになりたいのでは……、と高橋は思った。マットは、同居人である仲間のVampを失ったのだ。

「後は頼んだ。」

と言い残し、高橋は利沙を連れてこの場から立ち去った。


 暫くの間、変わり果てたジョージの姿を見つめていたマットだったが、

「あっけない最後だったな……。」

と呟くと、屋敷に火をつけた。


 炎はあっという間に屋敷を飲み込み、夜の街を不気味なほどに明るく照らした。


   ☆


 翌日、高橋が出勤すると、警視庁にマットの姿が……。

「俺、これからお前の仕事を手伝うわ。」

  《次回》

 Vamp捜査課に、マットの姿が……。


お読みいただきありがとうございます!

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