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10.高橋とマットとの出会い

 《前回のあらすじ》

 【2032年】

 遊園地の件以来、気まずくなっていた高橋と利沙の緊張が解れていく。

 マットが高橋と利沙に接触を試みる。

 利沙の家に着いたとき、

「待ったぜ……。」

と、高橋の車を覗き込むマットの姿があった。


「まだ、あの警察と一緒にいるのか。自分のためにも、相手のためにもならないって言っただろう。」

マットがそう言うや否や、高橋がマットに向けて拳銃を構えた。

「お前か、マットというVampは……。利沙さんに何の用がある。殺されたくなかったらこの場から消えろ。」


「怖いな~。そんな銃で俺は殺せないぜ。——まあ、落ち着け。」

マットは少しも動じない。

「危なっかしくてほっとけないんだ。大丈夫なのかよ。彼女を警視庁で働かせるなんて……。」


 マットの言葉は高橋にとって意外なものだった。——マットは、Vampになってからも人間と関係を持続している利沙に興味を抱いている。

「殺人犯とつるんでいるお前から、そんな言葉が出てくるとは驚きだな。」

「殺人犯……、 誰のことだ?」

マットが高橋に聞き返した。

「ルナというVampだ。」

「ルナは殺人鬼ではないよ。きっと現場にいただけだ。主犯格はジョージのはず。」


「まさかお前、ジョージとルナと同居しているVampなのか⁉」

高橋は一層、銃を高く構えた。


「ああ、そうだ。だから、俺はジョージとルナのことをよく知っている。ルナはジョージと行動を共にしているだけだ。人間性を失い始めたジョージを心配しているんだ。俺もルナも、ジョージのことが手に負えなくなるのも時間の問題だと薄々感じている。……で、警察はジョージとルナをどうする気だ? 殺すのか?」


「そんなこと、お前に話すわけがないだろう。ただ、お前が同居しているVampは連続殺人犯だ。一緒にいたルナも共犯だ。」

「お前たちは、あの二人を放っておかないだろう。殺すにしたって……、あの二人を簡単に倒せると思っているのか?」

「Vamp殺しは簡単だとは思っていない。しかし、それが仕事だ。」


「俺、手伝おうか。」


高橋は自分の耳を疑った。

「今、なんて……。」


「だから、ジョージとルナを殺すの、俺も手伝うって言っているんだ。」

「そんなこと、信じるとでも……。」

「ジョージをこのままにしておくのは限界だ。完全な化け物になる前に、葬ってやるのがジョージのためでもある。」


高橋はためらいながらも、マットに向けていた銃口をそらした。

「……少し考えさせてくれ。」


 今まで黙っていた利沙だったが、様子を窺いながら、おもむろに口を開いた。

「マットさんと遊園地で初めて会ったとき、あの時は恐怖で逃げ出してしまったけど、実際マットさんと話してみて、信じてもいいのかなって……。人間だけでVamp二人を相手にするより、Vampのマットさんが味方にいてくれた方が心強いと思うの。」

利沙はVampの並外れた能力を熟知している。マットの協力が必要だと考えたのだ。


「じゃあ、決まり! 三人で暗殺計画立てようぜ。」

マットは高橋と利沙の顔をじっと見た。そして、念を押すように続けて言った。

「……俺を信じてくれ。」


   ☆


 例の屋敷の前で、ルナはマットの帰りを待っていた。最近のマットの様子が気になったからだ。


「裏切らないでね。」

ルナは上目遣いで、マットを見つめた。

「当り前じゃないか。お前たち兄妹に俺は助けられてきたからな。」


 マットがVampになってからは、生きる気力も失せ、一人で彷徨っていた。そんな時、声をかけてくれたのがジョージとルナだった。




 【2050年 現在】


「今の俺があるのも、ジョージとルナのおかげだ。」

マットおじさんは読んでいた本を置いた。

「ジョージとルナのことは雅史の日記で知ったのか?」

おじさんは僕の返答を待たず、感傷に浸るような様子で一呼吸してから、話を続けた。


「ルナとジョージは早くに両親を亡くして、幼い頃から兄のジョージがルナの親代わりだったらしい。ルナが26歳、結婚が決まり、ジョージもほっとした矢先のことだった。——ある朝、ジョージはキッチンで倒れているルナを見つけた。原因は脳腫瘍だった。ジョージはルナを完治させると心に決め、辿り着いたのが最先端ゲノム治療だった。……その治癒でVampに変貌すると知ったジョージは、ルナだけをVampにさせまいと、自分もDNA操作を申し出た。……それで、二人はVampになったというわけさ。」


 思い出に浸りたかっただけなのか、マットおじさんは僕の反応には興味がないようだった。二人がVampになった経緯を話し終わると、すぐに本の続きを読み始めた。


   *


 優しさと冷酷さが共存しているマットおじさんは、何が最善なのかを考え、いつも強い信念で行動している。おじさんは迷うときがあるのだろうか。Vampになると、迷いという人間の弱さまでも消し去ってしまうのか……。

 仲間を裏切るのってどんな感じですか? Vampの感受性は人間のときのそれとは異なってしまうのですか? 僕はおじさんに聞いてみたかった。しかし、言葉にできなかった。

 《次回》

 高橋と利沙は、マットと共にジョージとルナを襲撃するが……。


 次回エピソード《11話》は明日投稿します。お楽しみに!

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