第2章
宿屋の店主はアレフの父親ガーゴンだった。
ガーゴンは大食漢で何でもよく食べる大男でアレフのことを心配していた。何事も好奇心のあったアレフは父親をよく困らせたものだが唯一ガーゴンがアレフに感謝した出来事がある。ガーゴンがその日いつもより強く食欲が湧いたときがあった。ガーゴンは差し入れにもらった牡蛎をすべて食べてしまった。その量は1キロである。そして腹痛に苦しむ事となる。アレフはその時四歳だったが胃薬が必要だとすぐに察知して父親のために持っていったのだった。ガーゴンはその時ほど息子を育ててよかったと思ったときはなくアレフに感謝した。
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その日宿屋にガーゴンがいないときがあった。その日はアレフが臨時で店主を務めることとなった。
前日に来ていた女の子がかわいいと思ったアレフはまた来ないかなと考えていた。顔だけでも出さないかなとも思った。しかしどんな子なのだろう。一人でミーフだけ連れて宿屋に来るなんて何か事情がある子なのだろうか。
そんなことを思っていたところ12時を過ぎた辺りにその女の子がまた現れた。話しかけようとと思ったアレフはあることに気づいた。少し汚れている。慌ててきたのだろうか。
「大丈夫?」
声をかけたが返事は薄い。亜麻色の髪はきれいなままだったが服が汚れていた。
とそこに誰かの怒号が入ってきた。
「ここにいるのか?あの子は?」
男二人組である。アレフは咄嗟に女の子を庇って店の裏に隠した。男二人が店に入ってきた。
「ここらに不思議な女の子はこないかったか?」
アレフは首を振った。
そんな子は見ていないと。
そう言うと男二人は怪訝な表情を浮かべて帰ってきた。
「大丈夫か?」
女の子はうんと縦に頷いた。
「それにしても誰だったのだろう」
女の子は黙っている。
まずこの女の子の名前を聞かないといけない。
「俺はアレフ。君の名前は?」
少し間をおいて立ち上がり
「名前?私は名前がないの。覚えてない。」
そんなことがあるものだろうか。
しかし女の子が嘘をついているとは思えない。
質問を変えることにした。
「あの人たちは誰?なんで君を探しているの?」
「あの人たちは悪者。私を捕まえようとしてくるの」
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1日経過した。わかったことはこの女の子の名前は
わからないということだった。記憶喪失だろう。そして追われている理由は大きな組織から追われているということだ。
その組織の名前もまたわからない。彼女がいつか押しててくれるだろうか。しかし名前がわからないことは自然ではないので名前を適当につけてあげることにした。適当に店に飾ってあった観葉植物ストレリチアからとってリチアと名付けた。名付けたといっても本当の名前ではない。あくまで便宜的に互いを呼び合うために必要だからつけたまでだ。
リチアはひどく怯えていた。しかし日が経つにつれて怯えも落ち着いてきた。父親のガーゴンはようやく彼女ができたものだと思って嬉しがっていたがあくまで心配して保護したことを伝えたから大丈夫だろう。そのへんは。
しかし冒険に出る時が迫っていた。ちょうど仲間がほしいと思っていた頃だった。リチアは驚いたことに魔法が使えた。簡単に難しいことをやってしまう魔術師にように高レベルな魔法を見せてくれた。属性は土と風だった。ぜひともパーティーに加えて一緒に冒険に出たいと考えていた。それはリチアに対して淡い恋心が芽生えたからくる衝動のようなものだったのだろう。リチアは同意した。
その日の夜イルミが部屋に入ってきた。リチアは別の客室を使っていた。
イルミは冒険に出るのかと聞いてきてアレフは2つ返事で頷いた。イルミは後はガーゴンだけだなと言って大切そうに懐中時計を渡してきた。これは大切にしていた懐中時計だ。何かあったときに守ってくれるだろう。イルミはそう言った。そして冒険の検討を祈ると残して部屋から去った。
イルミは当然冒険にはついてこない。イルミはこの村が好きだし家業を継ぐ予定だからだ。しかしイルミの配慮には驚いた。こんな高価な時計を譲ってくれるなんてイルミには感謝しかない。あとは父親だけを説得して何とかしたいものだった。
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金の展延性ほど貴重なものがあるだろうか。
金を伸ばせばどこまでも伸びそれは金属の中でも最大である。子どもの時にやった体験は価値を持つ。
大人になって記憶にアクセスしたとき子どもの頃にやった体験は人知れずどこまでも伸びているのである。こういった体験を有用に加工し能力を伸ばしていけば開花するだろう。例えば絵画を描けば例えばピアノを弾けば、早い段階に体験したこういったものは大人になったとき非常に経済的だといえる。お金は目に見えないように本当の経済とは自らの生活の中にある。自らで立ち上げ自らで運用するマナのことを経済的だといいうるのである。