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礼儀正しい訪問者

「この方は、知り合いかも……いえ、知り合いです」


 悪夢でも見ているのかうんうん唸っている美少年を居間に寝かせたところで、サクラがとんでも発言をかました。

 ウィッグはもう外して壁に掛けてある。……相変わらず壁が怖い。


「えっそうなの!?」


 仰天して返す僕は、エンジェル新聞の勧誘なんて架空の新聞社名を口にするようなふざけた……いやいや一風変わった相手の知り合いというのが意外過ぎて、それ以上何と言っていいのか思い付かない。

 大体、未成年がこんな時間まで働けないよね。それとも童顔なのかな?


 仕事着なのかスーツを着た少年の横に正座する彼女は、思い悩んだような顔をしている。


「ですが、どうかその事は内緒にしておいて下さい」

「どうして?」


 すると彼女は少年を挟んで向かいに膝をつく僕の顔をじっと見つめてきた。


 え、何?


「まだ、色々と整理がつかなくて。それに向こうは私に気付かないと思うので」

「知り合いなら顔を見れば普通一発だと思うけど?」


 サクラはやや困ったように微笑んだ。

 よくわからないけれど、言えないらしい。


「わかった。黙っておくよ」

「ありがとうございます」


 青い顔をした少年を見下ろす僕は、そう言えば食事がまだだったのを思い出す。


「少し冷めちゃったかな」


 そう言ってテーブルに移動するとカレーを再び食べ始めて、完食。


「ごちそうさまでした。あ~満腹満足!」


 腰を上げ流しに皿を持って行こうとすると、サクラは「自分が」と買って出た。


「いや、作ってもらったんだし、洗い物くらいは自分でするよ」

「ですが」

「いいから、休んでてよ」

「……良き夫の鑑みたいですね」

「夫!? あはは大袈裟な!」


 そんな褒められ方初めてされたんだけど。

 でもどことなくこそばゆい気分。


「じゃあ拭くのは私の役目と言うことで妥協しますね」

「えっいいよいいよ。洗って伏せとけば水も切れてじき乾くしさ」

「そうですか?」


 幾分拗ねたような口調と眼差しに意思がぐらつく。


 だってさ、美少女と二人で並んでお皿洗いなんて嬉し恥ずかし過ぎるし、そうなればあれもこれも洗っておこうとか理由を付けて、延々意味なく洗い物を増やすね――僕が。


「ええと、ほ、ほらサクラはその子を見ててあげなよ。知り合いなんでしょ」

「……わかりました」


 ちょうどいい理由を見つけられたのに胸を撫で下ろしつつ、ちょっとだけ残念感を抱きながら食器を洗っていると、


 ピンポーン。


 また、呼び鈴が鳴った。


「え、また誰か来たの……?」


 正直、怪しい人はもう勘弁してほしい。


「はーい、どちら様ですかー?」

「夜分遅くにすみません。こちらに金髪の少年が来ませんでしたか?」


 外からの声に僕は持っていた皿をささっと濯いで水切りラックに伏せると急ぎ足で玄関に向かった。

 何だ良かったあの子の迎えか。


 ドアを開けるとそこには黒髪ショートの美人なお姉さんが佇んでいた。


 きっちりした女性用のパンツスーツに身を包んでいて、身なりもよく、少年の保護者的な雰囲気を醸している。

 女性は僕を見て、もう一度同じような言葉を繰り返す。


「夜遅くに誠に申し訳ありません。もしかしてこちらに金髪のがお邪魔していませんか?」

「ああはい来てます。ちょっと待ってて下さい。今気を失っちゃってて」


 女性を玄関に入れると、僕は取って返した。


「サクラ、その子目を覚ましそう?」

「あ、たぶんそろそろ」

「……って何やってるの?」

「あ、ええと……気付け薬の代わりにと思いまして……」

「気付け、薬……?」


 僕は訝り、まじまじとサクラの手にある物を注視する。


 何で、棒付きのでかいキャンディー?


 せめてミントとかのハーブ系なら爽快な匂いでそうと取れなくもないけれど、甘いだけのぺろぺろキャンディーって……アホな。


「それで視力検査ができそうだね、はは」

「その、無駄遣いしてすみません。スーパーで見かけてついつい欲しくなっちゃいまして」


 へえ、サクラって案外子供っぽい好みもあるんだ。

 大人っぽい雰囲気とのギャップが際立つ。


「いいよいいよ、想像したら可愛いからよし!」

「え?」

「あっ、いや何でもっ」


 可愛いは正義!

 ってまあ、ゲームの中のキャラや異世界小説じゃないんだから、グミとか飴とかで回復してたら世話はない。


 ――けれども、


「おやつ~ッ!!」


 起きた。

 少年が。

 突然跳ね起きるゾンビのようにして飴に齧りついた。

 全く完全予想外。


「……まあ、そんなこともあるかな、うん」


 とにかく彼が無事に目を覚まして良かった。

 僕は若干引き気味になりながら、女性に声を掛けた。


「ええと、とりあえず気が付いたようなので、よければ中へどうぞ」

「……うちの者がご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありません。では、お言葉に甘えて、お邪魔致します」


 実に丁寧な返答と共に、彼女は靴を脱いで綺麗に揃えた。

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