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キヨミズ・バーサス

作者: いつ

 京都府京都市にある、音羽山清水寺。釘を一本も使わずに作られた「清水の舞台」では、『願掛け』のために、実に234人もの人が飛び降りたという。

西暦2341年。ここ清水寺が改築され、"表向き"は「多嘴看護学校(たはしかんごがっこう)」が建設される事が、多嘴看護学校の学校法人「学校法人 中臺学園(ちゅうだいがくえん)」により発表された。だが、日本を代表する伝統的なものを取り壊してまで作るのか、という疑念の声も上がった。これを聞いた「清水寺保護会」が立ち上がった。清水寺保護会は西暦2322年に創設された、清水寺を保護する事を目的とした会。こちらも表裏があり、表は一般的な保護活動を行っているが、裏では武器・兵器を余裕で使う。会員の橋 裕太(はし ゆうた)中峰 唯希(なかみね ゆの)は、会長・尾沼 寿太郎(おぬま じゅたろう)により指令され、清水寺を取り壊そうとする「中臺学園」に突っ込むこととなった。


裕太「なあ、清水寺って本当にこっちか? さっきから金平糖の店しか見当たらんぞ。」

唯希「うるさいっな! 私が方向音痴だって言うの!?」

裕太「そう言いざるを得ねぇだろ・・・。」

唯希「ッ・・・言い返せないのが癪ね!!」

「清水寺保護会」の本部は京都府京都市にあるが、武器を使う支部は、東京都・港区にあった。そのため2人ははるばる東京から京都にやってきたのだ。

裕太「なんで携帯充電しとかねぇんだよ・・・」

唯希「うるさいわねぇ! パソコン男にはわからないでしょうね!!」

裕太「その分機械には精通するから、裏情報なんか速攻で簡単入手だぜ? 中臺に裏があんのが分かったのも、俺のおかげじゃねえか。」

唯希「もう! さっきからマウントばかり! どうせ私はデジタル最先端パリピですよ! はいはい!!」

裕太「・・・お前なんでキレてんだ?」

2人しか武器を持てる人がいないので、仕方なく2人で行っているが、幼馴染にして犬猿の仲のため、実は本望ではなかった。

唯希「そういうあんたこそ、どこに中臺があるか知ってんの?」

裕太「当たり前だ。俺がせっかく、先に中臺行こうかって言ったのに、お前が超自信満々で清水寺の道案内は任せなさいって言ったんだろ。それがこの結果を招いてんだ」

唯希「・・・はいはい、そうですねー。その通りですー。」

裕太「情緒不安定か? 悩みくらいなら聞くぞ。」

唯希「別にないからいいわよ。」

裕太「あっそ。」

そんな不甲斐ない会話を繰り返し、暫く歩くと、ようやく寺が見えてきた。

唯希「あ! あれじゃない?」

裕太「おお、本当だな。清水寺来たのなんか修学旅行ぶりだな。」

唯希「そうね、懐かしい!」

裕太「さあ、なんで先にここ来たのか聞こうか?」

唯希「いいわ、教えてあげる。実はね・・・本部から情報が届いたのよ。「清水寺に中臺の裏を記載した書類たちがある」ってね。」

裕太「なるほど。確かに、裏事情を詳細に知っておいてから中臺に突っ込んだ方が良さそうだな。お前も順序が考えられるようになったじゃねぇか。偉い偉い。」

唯希「や、やめろ! 頭を撫でるな!! 何を偉そうに!!」

裕太「ははは、人見知りは治らねぇんだな。」

清水寺を前に、談笑する。そんな暇がないことを知らず―――。


 一方その頃、清水寺内部。ここでは中臺学園の理事長、裏では"ボス"である西藤 龍五郎(さいとう たつごろう)が、SP・㐂谷 風来(きたに ふく)と書類のある部屋へ向かっていた。

龍五郎「私達の裏を知る機関があるというのは本当か。」

㐂谷「ええ、情報捜索部が発表しましたから、信憑性はあります。」

龍五郎「どうする? まだここには来てないよな?」

㐂谷「どうでしょうね・・・。来る奴の特定もしてないので、GPSは未設定だし・・・。」

龍五郎「まあいい、まだ書類の移動はしなくていい。逆に動きすぎた方が怪しまれるしな。」

㐂谷「そうっすね、見張っておきます。」

龍五郎「おう、怪しい挙動や外部侵入があったら、迅速に対応しろ。」

㐂谷「了解!!」

龍五郎「では、私は別の作業に入る。失礼するよ。」

㐂谷「ありがとうございました!!」

㐂谷「はぁ、見張りって意外と面倒くさいんだよな。」


 そして、裕太と唯希は、ついに清水寺へ侵入するところだった。

裕太「・・・本当に死ぬなよ? 今から入るぞ?」

唯希「何回言うのよ! 大丈夫よ、私達だけなのよ? 武器を持って、訓練を受けてきたのは。」

二人の手には、SIG SG550をベースに、清水寺保護会がオリジナルガンとして制作した「KH A-01」があった。このKH A-01は、いわゆるアサルトライフルの一種だ。ベースのSIG SG550よりも装弾数がかなり増えており、その上特殊技術により、重量1340gと、かなり軽量化されている。発射速度は1分に約1500発と、ベースの銃を上回る。有効射程は1200~1700mと、ベース銃を2倍ほど上回っている。銃口初速が特にすごい。1秒に2780mだ。これはベース銃の約3倍。敵が銃撃に気づく前に仕留められる。そして銃声。人間が耳の痛みを感じる130dBを大きく下回り、さらに人間の可聴範囲0dBをも下回る「-9.6dB」という音量を発する。確実に人間が聞き取るのは不可能だ。つまり、銃撃時に姿さえ見られなければ、ほぼ確実に見つからず銃撃ができる。この銃は、勿論のこと非売品だ。この2人のためだけに作られた、世界に2丁しかない銃だ。清水寺保護会の武器を制作する、「清水寺保護会 武器部」は23人もの部員を要する。武器に精通した者のみで作られたオリジナル武器は、兵器とも言えるほどのクオリティ、攻撃力を誇る。清水寺保護会は、本部と東京支部に分かれており、それぞれで作戦を練る。即戦力となり、今回の事案に挑んでいるのだ。

裕太「ささ、この銃の威力も試してぇし、さっさと行こうぜ。」

唯希「すごいねぇ、アメリカで銃の修行を積んできた人は。オタクみたい。」

裕太「うっせぇ、腕は確かだよ。」

唯希「そう。そんじゃ、あんたの腕も中臺学園の腕も!」

裕太&唯希「お手並み拝見と行きますか!!」


 ちょうどその頃、中臺学園側。

㐂谷「ん? 今日は強風だからなんとも言えねぇけど、足音しねぇか?」

㐂谷「無線連絡、情報捜索部! 応答依頼、応答依頼!」

㐂谷は、中臺学園独自開発の無線で情報捜索部に連絡した。この無線は、電波を発しない無線。そのため外部への情報漏洩にも対応している。無線に応答したのは、情報捜索部の原田 優花(はらだ ゆか)だった。

原田「無線応答、情報捜索部。要件どうぞ。」

㐂谷「足音確認、足音確認! 付近GPS捜索依頼、付近GPS捜索依頼!」

原田「要件確認。付近GPS捜索開始!」

㐂谷「至急、開始依頼!」

原田「了解!」


 その頃、GPS追跡が始まっていることも知らず、2人は清水寺内を彷徨っていた。

裕太「広いなぁ、やっぱ。」

唯希「いつもとは違う目的で行くから、なんかドキドキする・・・。」

裕太「ま、多分そんな事言ってる暇じゃないだろ。足音バレの可能性もある。GPSらしきものには用心だ。」

唯希「わかってますよ。」

裕太「ははっ、優秀じゃねぇか。」

唯希「これでも一流ですぅ!」

裕太「はいはい、無駄話はいいから行くよ!」

唯希「わかりましたよーだ。」

しばらく歩いていると、裕太がうなり始めた。

裕太「んー・・・。」

唯希「なんだよ、早速道に迷ったの?」

裕太「違う。・・・ッ!」

唯希「なん―――」

唯希の言葉を遮るかのように、KH A-01の弾が唯希の髪をかすめて、何がが割れる音がした。

勿論音はしない。風のみを感じた。

唯希「なんで撃ったんだ?」

裕太「後ろ見てみろ。」

唯希がハッとして振り返ると、後ろには火花を散らして破壊されている「GPS追跡ドローン」があった。

裕太「こいつ、銃口も構えてたからな。なんとなく飛行中の音がして撃ったらそこにあったからビビったよ」

唯希「え、嘘・・・。全然気づかなかった。」

裕太「こっちはな、アメリカにまで行ってしゅぎょ―――」

唯希「はいはい。自慢話はもう何度も聞きました。おしまいね。」

裕太「ちぇ、面白くねぇやつ。」


 唯希と裕太がそんな会話をしていた、ちょうどその頃。

原田「くそっ、なんで気付くのよ!!」

原田「無線連絡、㐂谷! 応答依頼、応答依頼!」

㐂谷「無線応答、㐂谷! どうした〜?」

原田「GPS追跡ドローン、1機破壊。残機4!」

㐂谷「要件確認。残機で侵入者を攻撃できるか?」

原田「はい。銃は搭載しています。」

㐂谷「そうか。じゃあ追尾と攻撃を繰り返せ!」

原田「了解!」

㐂谷「こりゃボスにも報告だな。」

㐂谷が無線を切り、独り言を呟いていると、ちょうど横を龍五郎が通った。

龍五郎「どうした、報告なんて言ってたが。」

㐂谷「あ、ボス。侵入者が確認されました。5機のGPS追跡ドローンを原田に頼んで飛行させていたのですが、その侵入者によって1機破壊された模様です。」

龍五郎「了解した。・・・お前、来客なら早く言えよ。」

㐂谷「来客・・・? そんな者いませんが。」

㐂谷が恐る恐る振り返った先にいたのは、さっきドローンを破壊した裕太と唯希だった。

裕太「侵入者呼ばわりされるのは不快だなぁ。こっちからすれば、あんたらは"犯罪者"だ。」

唯希「裏を隠してるらしいじゃない。性格悪いわね。この断然殺傷能力高い銃で撃たれたくなければ、さっさと裏を吐きなさい!」

龍五郎「いきなり出てきたと思ったら、なんだ? お前らのその口もぎ取ってやろうか!」

そう言うと、㐂谷も龍五郎もリボルバーを取り出した。

裕太「リボルバー・・・ねぇ。」

裕太は修行の分、どんな銃でも攻略できたが、リボルバーだけは攻略ができない。おまけに唯希はKH A-01しか触ったことがないので、リボルバーどころか拳銃は攻略できるはずがない。殺傷能力は断然だが、リボルバーの予想外の動きをされたらたまらない。裕太は思わず唯希に声をかけた。

裕太「唯希、お前の俊足生かしてすぐ後ろ行け。こいつら囲むぞ。そしたらすぐ撃てよ。」

唯希「お安い御用よ。」

お互いが銃を構え、龍五郎が開幕を告げる銃声を天井に向けて放つと、唯希はしゃがみながら後ろへ行った。

まず響いたのは、龍五郎の悶絶する声だった。

裕太「腕に1HITか。足りねぇなぁ!!」

続いて裕太は、㐂谷の腹部に弾を撃ち込んだ。実はこれも作戦で、急所ではないところを攻撃し、動きを鈍くさせる作戦だったのだ。

しかし、龍五郎はすぐにまた銃を構える。裕太は龍五郎に背を向ける形となった。

唯希「裕太! 後ろぉぉ!!」

そう言いながらも、唯希は龍五郎の背中へ突っ込んだ。

龍五郎「グハァッ!」

唯希「裕太、こいつ仕留めていい?」

裕太「やっとけ。」

裕太の言葉を合図に、龍五郎の開きっぱなしの口にKH A-01の銃口を入れ、喉に撃ち込んだ。

唯希「一人殲滅ね!」

裕太「お前本当に人仕留めた後かよ・・・。笑顔怖いよ。」

そう言いながらも、2人の銃口は㐂谷を向いていた。

裕太「ささ、やりますか。」

唯希「・・・うん。」

唯希の小さい頷きを合図に、2人の銃口からフッと風が出る。もちろん音などない。㐂谷は一瞬迷うが、2人にとっさに銃口を向けた。しかしもう遅い。2人分の弾丸は、㐂谷の急所に直撃し、赤く染めた。

㐂谷「グハッッ! カッ・・・。」

㐂谷は胸を抑えて倒れ込んだ。裕太も唯希も、それを見下すように見た。

唯希「・・・・・・先生」

裕太「は? え、先生!?」

唯希「あ、いや聞こえてた? 何ともないよ。」

目を伏せ気味に言う唯希の声は震えていた。

唯希「銃を教えてもらってた学校の担当の先生なだけ。」

裕太「・・・ごめ―――」

裕太の言葉を遮るかのように、何かが飛行する音と、銃声が響いた。

裕太「クソ、まだいんのかよ! しかも4機も! 攻撃してきやがる!」

唯希「ふん―――」

唯希の鼻にかけたような声が耳に入った瞬間、唯希の銃から風が出た。何回も、何回も。

裕太「おぉ、乗り気だねぇ。」

裕太もそれに応じてすぐさま発砲を開始した。バリンバリンと、どんどんとドローンは割れていく。

唯希「あと1機!」

2人は一度深呼吸をし、またグッと力を入れた。そしてついに、全機を破壊し終わった。

唯希「やったね。」

はしゃぐ唯希に、裕太は声をかける。

裕太「あぁ。でもまだ油断はするなよ、操縦士が出てくるかもしれん。」

唯希「ふふっ、噂をすれば。」

裕太がさっと振り向くと、鈍器のような物を持った女が走ってくるのが見えた。

裕太「あれで挑もうってか?」

唯希「空気砲とでも思ってるのかしら。」

原田「ハァ、ハァ。あんた達に・・・私達は倒せない―――のよ!」

息切れをして、とぎれとぎれな言葉を放った原田めがけて、容赦なく引き金を引いた。

原田「グッ・・・―――! 空気・・・砲じゃ・・・なかったの――」

㐂谷のようなポーズで、地面に溶けるかのようにうなだれる。そしてしばらくすると動かなくなった。

唯希「はぁ、なんとかぁ。」

裕太「木製バットで挑めるわけねぇのにな。」

唯希「それもそうね。」

裕太「あのさ、唯希。」

唯希「ん?」

裕太「―――・・・帰ろうか。」

唯希「うん!」

中臺のボスを倒すミッションは終了した。あとは、下っ端たちが自動消滅するのを待つだけになった。


 一度会本部に戻り、新幹線で東京まで戻る。窓に肘をかけ、頬杖をつく唯希に、裕太は言った。

裕太「ごめんな。」

唯希「何よいきなりぃ。」

裕太「自分の恩師は、自分の手で殺めたくなかったんじゃないか?」

唯希「それもそうよ。でもそんなこと言ってたらこの仕事はできない。この仕事も、皆のためだけにやってるわけじゃない。自分のためでもあるの。」

裕太「でも、無理すんなよ? 適度に休み取れ。」

唯希「余計な心配は一切不要よ。だって・・・あんたがいれば大丈夫だしね!」

裕太「おいそれって・・・」

唯希「これからもとことん付き合ってもらいますからね!」

裕太「はいはい。ほら着いたぞー。」

唯希「知ってるわよ。」

車両を降り、バス停まで歩く。

裕太「あのさ、唯―――?」

裕太が名前を呼ぶ前に、唯希が顔の目の前まで来て、唇が触れた。唯希の顔はもう真っ赤だった。

唯希「さっさと行くわよ!!」

顔を隠すように裕太の手を引っ張る。

裕太「ふふ。」

唯希「もう何よ! バスに間に合わないわよ!」

裕太と唯希がタッグを組み、次々とミッションをこなしていくのは、もうちょっと先の話だ。また、2人が恋人となるのも―――もっともっと先の話だ。


終わり

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