少女は笑い、テネリは花に水をやります
「ウィン!
ウィンクルム!」
「はーい!」
博士に呼ばれ、ウィンクルムと呼ばれた少女が元気に返事を返します。
博士は少女にウィンクルムという名前をあげました。
普段は長いから、ウィンと呼んでいます。
ウィンは島に来た頃より少しだけ成長しました。
初めは博士のお腹あたりだった背も、胸のあたりまで伸びて、腰の上までだった髪をおしりのあたりまで伸ばしています。
「テネリを呼んできてくれませんか?
ちょっと聞きたいことがあります」
「わかった!」
博士に頼まれたウィンは嬉しそうに駆け出しました。
初めは感情も乏しく、多くを話さないウィンでしたが、博士とテネリの優しさに触れ、次第に笑顔が増えていきました。
ウィンは初めてテネリに会った時、とても驚いていました。
ウィンは、初めはテネリを大きな動物だと思っていたようで、こんな固そうな動物がいるのかと思ったようです。
それに対して、博士が機械という、人が作ったものだと説明しても、やはりウィンは首をかしげました。
「それは、動物と何が違うの?
私だって人から生まれた。
動物は動物から生まれる。
テネリも人から生まれた。
テネリと私たちは一緒でしょ?」
首をかしげるウィンに博士は感銘を受けました。
自分にはない発想にたいそう驚いたのです。
テネリもその言葉に、心なしか嬉しそうにしているように見えました。
「テ~ネリ!」
「ウィン」
ウィンがテネリを呼びに行くと、テネリは花壇の花々に水をやっていました。
テネリが持てるように、博士が大きな如雨露を作ってくれたのです。
「つぼみが出来てきたねー」
「そうだね」
ウィンは花壇のわきにしゃがんで、両手でほっぺたを包みながら、もう少しで咲くであろうつぼみたちを眺めました。
「この花は咲くまでに長い時間が必要なんだけど、博士とウィンが来てからは、なんだかあっという間な気がするよ。
変だね。
時間は一定なのに」
「そーだねー。
私も、1人で歩いてる時は、時間がすごく長く感じた。
みんなといると、時間を一緒に分けるから短くなるのかな」
ウィンはそこまで言うと、本来の目的を思い出します。
「あ!そうだ!
テネリ、博士が呼んでたよ!
なんか、聞きたいことがあるんだって」
「そっか、わかった」
テネリを見送ると、ウィンは再び花壇に目を移します。
「ふふ、早くお花咲かないかな~」
「博士。
来たよ」
「ああ、テネリ。
花壇の方はどうですか?」
博士は書斎で本をいくつも広げながら、顔を上げてテネリに尋ねました。
「うん。
だいぶ成長してきたよ。
つぼみが出来たんだ」
「そうですか!
それは何よりです!」
博士はとても嬉しそうにしていました。
「それより博士。
話ってなに?」
「ああ、そうだね……」
博士はそこで、少しもの悲しい顔を見せました。
「その前に聞きたいんだけど、君の望みは動かなくなること。
それは、やはり変わらないのかな?」
博士の問いに、テネリは即答します。
「そうだね。
僕は他の僕たちと同じでありたいと思ってるんだと思う。
それに、僕は究極的に世界を滅ぼすための起因になりうるから、他の僕たちとともに、この世界の人たちが手の届かない場所まで行くべきなんだと思う」
「……そうですか」
博士は下を向いていましたが、やがて、決意を固めたように顔を上げます。
「分かりました。
ならば、やはり研究を進めましょう。
フロート計画、いや、スカイアイランド計画を」
「うん、そうだね」
そうして、博士とテネリは研究に、よりいっそう力を入れていったのです。
今の幸せがそう長くは続くないことを知っているかのように。