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もう奴隷すら信じれない  作者: もらもらいずん
7/13

7 新しい仲間

エリシアの武器を投げナイフと短剣にしました。

前のやつは設定ミスです、すみませんでした。



「シャーッ!」


「遅いわ間抜け!」


 ザシュッ。


 岩壁の松明のみが淡く照らす洞窟の中、音もなくやって来た大蛇にすぐさま反応したエリシア。

 そのエリシアの放った投げナイフが大蛇の頭に深々と刺さり、動きが止まった一瞬をフィスが爪で切り裂く。






 現在、俺たちが来ているのはヨグト洞窟という所。


 朝ギルドに行った時に初めて知ったのだが、どうやら俺がいた町はヨグトと言うらしく、よく行っていた森もヨグトの森という名前だったらしい。

 何とも安直な名前だと思ったのだが、受付嬢曰く、特色の無い探索地はその近辺にある町の名前で呼称されることが多いらしい。 



 何故、このヨグト洞窟に来ているか。

 それはひとえに冒険者ギルドで”依頼”という、指定されたことをこなせば報酬が貰えるファンタジーあるあるなものを受けたからだった。


 今回の依頼は、ヨグト洞窟の奥にある『偏光石』の収集。


 どうやら錬金術に使うものらしく、結構割のいい依頼だったので受注した。

 受注するためには俺の一個上である銀等級である必要があったが、エリシアが奴隷じゃなかった頃銀等級の冒険者だったらしく、特に何の問題もなく受注することが出来た。

 

 ヨグト洞窟はヨグトの森と比べると少し遠くに位置していたが、これは仕方ないと割り切っている。

 あのダークエルフがいるかもしれない森に行くのは間違いなく自殺行為だ。

 バレたら間違いなく終わる。

 移動費がかかったとしても、別の場所に行くのは当然のことだ。

 



 そんなこんなで馬車に揺られること一時間ほど、『ヨグト洞窟』と横に看板がぽつりと置いてある洞穴に着いていた。

 朝から機嫌が悪いエリシアを中衛に、フィス前衛、俺が荷物持ちとして付いて行く。


 最初は森からいきなり洞窟に行くなんて危険かと思っていたが、ウルファ族の戦闘能力は優秀で、接敵する数十秒前から敵の存在を察知し、戦う時はフィスの行動に合わせた援護をしていた。

 俺も一応適当に買ったクロスボウで援護はしているが、エリシアから、「矢に当たりそうになるから撃つな間抜け!」と言われたので、特に何もせずに突っ立っている。

 

 強制の魔法で、真面目に戦うことを命令しているので、手を抜くことなく戦ってくれる。

 うーん、これだよこれ、これがパーティってもんだよな。






 そうしてしばらく進み、ケーブサーペントと呼ばれる体長3メートル程の大蛇を狩った後、その体に刺さったナイフを抜きながらエリシアが言う。


「お前、後ろに付いて来るだけなのになぜここに来てるんだ? 死にに来ているのなら嬉しいがな」


「あ? お前ら奴隷を野放しにしてられるか、それに俺が荷物を持った方がお前らは効率的に戦える。違うか?」


「はっ、臆病者が」


「そう言う割にはしっかりと仕事はしてくれるんだな、仲良くしようぜエリシアちゃん」


「それは貴様が強制の魔法を使っているからだろうが……!」


 今すぐ噛みついてきそうな様子でこちらを睨み付けてくるエリシアに、フィスがたしなめるように言う。


「喧嘩するのやめて、こういう場所はいつでも気を抜いちゃいけない。そうでしょエリシア?」


「ぐっ……確かにそうだ。だが絶対にお前はいつか殺すからな、アザミ」


「うーい」


 そんな似たようなやり取りを何度かし、偏光石があると言われたエリアに到着する。

 



 緑黄色に淡く光る岩壁の部屋。


 その神秘的な空間の真ん中、じっとうずくまっている何かの姿を見つけた。

 それは、壁の色と同じ体色を持ったギョロ目の大きなトカゲ。


 エリシアが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。


「チッ、妙に報酬が高いと思ってはいたが、こいつのせいか……」


「知ってるのか?」


「……アシドリザード、強酸を吐くトカゲだ。推奨等級は銀から金、このパーティなら勝てないこともないが、この中の誰かが死ぬこともあり得る」


「今のフィスはもう銅等級の強さじゃないはずだ、それでもか?」


「あぁ、全滅はないかもしれんが強敵だぞ。臆病者のお前には荷が重いんじゃないか?」


 一昨日の龍化のせいかは分からないが、今日のフィスは調子が良かった。

 以前とは比べ物にならない程動きにキレがあり、何故か擦り傷程度なら勝手に治癒していく体になっていた。


 そのフィスがいるにも関わらず、厳しい戦いになると言っているエリシア。

 だが、戦うかどうかを決めるには今一つ材料が足りない。


「……こいつの素材の値段は?」


「銀等級すると高いな、あまり数がいないのもある」


 多少の犠牲を覚悟して戦い金を得るか、報酬はもらえないが奴隷は失わない……

 普段の俺なら迷わず退却を選んだが、今は少しでも金の余裕が欲しい。

 毎日の生活費や、探索に使う道具、それにエリシアの加入で龍化した時に壊れた防具も新調している。


 まだ余裕はあるが、慎重な俺からするとまだまだ欲しい。

 そろそろ宿を変えようと思っていた頃だ、何処かでリスクを背負わないとリターンは帰ってこない。

 

 決めた。


「戦うぞ、フィスが最初に渾身のをお見舞いした後、いつも通りに戦え。俺は所々クロスボウで気を引く、お前ら分かったな?」


「分かった」「流れ弾に当たって死ね」


「何のために俺が後衛やってると思ってる。俺は絶対に死なねぇよ」

「よし、やれフィス。全力だ」


「……分かった」


 地面を蹴り、渾身の力を込めた大振りを食らわせようとするフィス。

 だが、攻撃が当たるすんでの所でトカゲ(アシドリザード)が目覚め、そのまま回避される。

 

「ちょっと抉った、エリシア!」


「分かって、るっ!」


 フィスが引いたのと同時に投げナイフによる追撃が入り、トカゲがそれを避けた先にエリシアが待ち構える。

 短剣による浅い斬撃の後、体制を整えたフィスと位置を交換する。

 いい連携だ、これなら……!


 そう思った瞬間、トカゲの喉がいきなり膨張し出す。

 そのすぐ後、口から部屋中に酸が撒き散らされた。

 酸が当たった場所は容赦なく抉れ、異臭と共に消えていった。


「避けろぉ!」


「……!」「分かってる!」


 エリシアは難なく避けたが、フィスは交わしきれず少し酸をもらってしまう。

 量が少なかったので治癒能力で何とかなったが、これがあることを前提に動かなきゃいけなくなった。


「今ならまだ引けるぞ!」


「いや、予備動作を見極めて動け! 攻撃の手は多少緩んでもいい!」


 エリシアから舌打ちが飛んできたが無視する。

 このトカゲの危険な所は爪と強酸だけ。そこに気を付けて動けば何とかなる筈だ。




 その後、フィスとエリシアのヒットアンドアウェイが続き、徐々にトカゲの動きも鈍くなっていた。

 だが、長い間攻撃している二人にも相応の疲労が溜まっており、これ以上戦闘を長引かせたらどうなるかは目に見えている。

 ならば……!


「お前ら! 仕掛けるぞ!」


「分かった」「……知らんぞ!」


 俺の声を合図に、エリシアの投げナイフをブラフにフィスが突撃する。

 トカゲが何かを察したのか、酸吐きの予備動作を始めた。


 そうだ、それを待ってた。

 俺がさっき援護するとか言いながら、今までこの戦闘に参加しなかったのはこの為。

 この瞬間、トカゲにトドメを刺すための隙をつくる!



 腰のポーチから小石大のものを取り出し、トカゲの方に力一杯投げる。

 トカゲが喉が膨張させ、酸を吐こうかというその瞬間、その目の前で何かが炸裂する。


 それは、小型の音爆弾。

 その爆音のショックにより、トカゲの体が数秒硬直する。

 

「やれ!」


「うん!」「やるなら前もって言っておけ馬鹿!」


 二人の斬撃がトカゲの首を切り落とし、そこから溢れ出た酸が地面を溶かしていく。


 決まってよかったぁ……

 気を伺うだけの少しの集中だったがどっと疲れ、座り込む。


 音爆弾を持ってきてたのは全くの偶然だった。

 装備を買い直すとき、市場で勝手に押し付けられ買ったものだったが、こんなところで役に立つとは。

 それに、静かな洞窟の中に住むトカゲなら聴力も発達しているだろう、という考えもハマった。

 ほぼ運と偶然だったけど、勝てれば良し。

 



 休憩していた所に、エリシアがイラついた感じで声を掛けてくる。


「終わったなら解体手伝え屑、お前は仕事してないだろ」


「最後のあれは俺のおかげだろ、あそこで効果を最大まで高めるために攻撃してなかったんだ俺は」


「知るか、あそこまで弱ってたらどうやっても倒せてたんだ。お前があの煩い爆弾を使わずともな」


「はっ、どうだか」


 そんな会話の後、きちんとトカゲの素材は剥ぎ取り、偏光石も採取した。

 トカゲの魔石はフィスに食べられてしまったが、まぁ仕方ない。

 魔石は、フィスにとってのレベルアップアイテムなのだと割り切っているからな。


 道中もそうだったのだが、フィスが魔石を口にするたびエリシアは複雑な表情をする。

 安心しろエリシア、すぐに慣れるぞ。




 その後、特に何事も無く洞窟を脱出し、赤くなり始めた空を眺めながら、馬車に揺られた。

 このままギルドまで行くとギリギリ夜になりそうなので、フィスとエリシア先に宿に帰しておき、一人で依頼の報告と素材の換金をしに行く。


 エリシアにはフィスを洗うように命令しておいたが、奴隷のみとなるとどう命令の穴をかいて来るか分かったものじゃないので、きつく強制の魔法をかけておいた。

 二人とも俺を睨み付けていたが、知ったこっちゃない。

 奴隷になったお前らが悪いのだ。俺は知らん。




 ギルドで依頼品の偏光石を納品し、アシドリザードの素材を換金してもらった。


 一日で結構いい量の金が手に入ったな。リスク背負った甲斐があるってもんだ。

 そんな事を思ってギルドを出ようとしたその時、とある奴から声を掛けられる。



「待て。お前、何処かで会った事あるか……?」



 その声の主は、美しい顔をしたダークエルフ。

 まずい、こいつフィスを殺そうとしたあのダークエルフだ……!

 

「……? 誰ですか?」


 咄嗟にしらを切れたのはよかった。


 どうやら俺の顔は割れてないらしいが、何となくの雰囲気は覚えてるらしい。

 バレたら、終わる。


 顔に出ないように必死に表情筋を動かすが、自分ではどうなっているかなどは分からない。

 完全に相手次第……!

 永遠にも思えるような沈黙の後、ダークエルフが口を開く。


「……すまん、勘違いだ」


「はぁ、分かりました……?」


 よし!馬鹿が!

 出来るだけ普通を装ってこの場を離れる。

 さっさと走り出したい気分だったが、ぐっと抑えて自然に歩いて去る。


 宿の玄関に入った瞬間、緊張が解けて脱力する。

 マジでビビったぁ……








━━━━━━━━








 ダークエルフの男が、裏路地の奥、首にかけた謎のペンダントに話しかける。


「おそらくあいつがそうだ。しばらく監視するぞ」


 薊が最も恐れていた言葉。その言葉は路地に静かに消えていった。



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