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月の猫姫様は愛されちゃってしょうがない〜人造姫【プリンセス】・ラボラトリ〜  作者: 不確定 ワオン
【学びの季節、育みの年】

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誰が流した涙なのか→泣いているのは誰なのか①


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「もう少しで到着にぃ」


 4号が軽快なステップで飛び跳ねながらそう告げた。


「姫、疲れてないにゃあ?」


 3号が目尻を下げて心配そうにオレを見上げている。


「だ、だいじょぶ」


 口元に手を当てながら、オレはそう返事を返した。


 疲れてはいないけど──────ちょっと酔っている。

 何に酔っているかと言えば、洗濯籠にだ。


「お尻痛くなったりしてないにゃあ? 4号、あんまり揺らさないでほしいってさっきから言ってるにゃあ」


「揺らしてないにぃ。できるだけ慎重に運んでいるにぃ」


 絶対嘘だよ。

 だってさっきから上下に大きく振動してるもん!


 結論として、オレの足ではどう頑張っても魔導炉の機関室まで辿り着けないと判断されてしまった。

 その為、3号の機転によりオレは荷物として運ばれる事になったのだ。


 ちょうどタイミング良く干し終えて空っぽになった洗濯籠があったのでその中に入り込み、4号の怪力によって持ち上げられてここまで到る。


 このお屋敷は結構複雑な造りをしているらしく、道中曲がったり下ったり階段を登ったりと道が険しい。

 

 設計した奴は何考えてこんな造りにしたんだ!

 馬鹿じゃないのか!?


 とはいえ、今向かっている『魔導炉機関室』は位置としては屋敷の最奥。

 来客なんかが絶対に入り込めない場所に入り口を設置してあるらしい。

 まぁ、この屋敷に来客があるかどうかはわからないけれど。


「あれが機関室への扉にぃ」


 一見してなんの変哲も無い、小さな小さな扉。

 ここ来るまで幾つも見た部屋の扉に比べてとても見窄らしく、そして遥かに汚い。

 所々に油の様なシミが付いていて、蝶番なんかサビてボロボロ。


 猫たちの話を聞く限りだと魔導炉はこの叡智の部屋(ラボラトリ)でも特に重要な施設らしいんだけど、この扉を見る限りとてもじゃないがそうは思えない。


 納屋とか物置とか、掃除用具入れとか言われた方がしっくり来る。


「よいしょっと。さぁ姫、到着にぃ?」


 なんだか自慢げに笑った4号は置いておく。

 あんなに乱暴な運び方されたもんだから、ちょっとおこなんだよオレ。

 本当に。


「ここ?」


 4号を無視したオレは、浅く息を吐きつつ3号に問いかける。

 呼吸を整えないと気持ち悪くて吐きそうなんです。


「そうにゃあ? 一見とても汚くてみっともない──────できれば取り替えてほしいぐらい貧相な扉だけどこの扉は魔力認証・指紋認証・声紋認証の三重ロックを、血液・体細胞でパスして、さらに合言葉を言わないと入れない様になっているこの屋敷で二番目に厳重な部屋にゃあ。何せ魔導炉が停止してしまったら、叡智の部屋(ラボラトリ)に存在する8割の施設が停止しちゃうからにゃあ?」


 3号は説明しながらとことこと扉の前まで歩き、ドアノブに手をかける。

 そして目を瞑り何かをブツブツと呟き始めた。


「にばんめ……って、いちばんはどのおへや?」


「姫の私室と、研究室にぃ」


 なんだか忙しそうな3号に代わって、4号がオレの背後からひょっこり顔を出して教えてくれた。


「事前に登録してある精神(アストラル)体・(ソウル)体・正気(エーテル)体が全て一致していないとあの区画には絶対辿り着けない様になっているし、何かの弾みで間違って入り込んでも、管理システムがその存在を微粒子まで分解して外界に放り投げる様に出来ているにぃ」


「ぶ、ぶんかい?」


 え、それって……殺しちゃうってこと?


「そうにぃ。屋敷や叡智の部屋(ラボ)に関わる記憶を抜き取って再構築して、外界の人里離れた荒野や山の天辺に排出するにぃ」


「きおく、って。ひどくない?」


 いくらなんでもやりすぎなんじゃ。


「そうかにぃ? 主様(マスター)の研究成果を狙う不逞の輩は昔から腐るほど居るし、姫はそんな研究成果の中でも際立って最高で究極にぃ。すぐに殺されないだけまだ慈悲深い処置だと思うにぃ?」


 ふーん。

 ペタペタと自分の顔や身体を触ってみる。

 今んとこ、そんなすごい形容詞で飾られる様な凄さは感じられないんだけどなぁ。


【それは姫がまだ覚醒プロセスを完全に履行していないからです】


 まだ?


 頭の中で流れるイドの言葉に首を傾げる。

 だってオレ、口はまだ上手く回らないけれど意識はしっかりしているし、歩けるしちょっとだけなら走ったりもできる。


 これで寝ぼけているだなんて、信じられない。


【覚醒と言っても、意識や睡眠のことではございません。魔核や第六感と言った超感覚のことです。今の姫はその全てが閉じられている状態。通常の人間で喩えて言うなれば、呼吸不全で瀕死の状態です】


 え、何その大袈裟な比喩。


【大袈裟ではございません。現在の姫はゼパルが姫の肉体に構築した自己再生プログラムとシステム・イドの全力稼働により、かろうじて現存しています。ただ予定では456時間34分12秒後に正常動作に復旧いたしますので、今に至るまでご報告はしておりませんでした】


 ……お、おう。

 えっと、つまり今のオレってオレが思っているより……だいぶヤバい状況ってこと?


【ヤバいかヤバくないかは議論の余地がございますが、どっちかと言うと激ヤバです】


 へ、へぇ〜……。


 イドが今まで言わなかったってことは、心配する必要は無いってことだよね?


【はい、全てイドにお任せください】


 じゃ、じゃあオレ何も考えないから。

 考えないからね!


【ええ、ご安心を】


 ……全く安心できないんだけど。

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