迷子の行方は
どれくらい時間がたったのだろう
目が慣れてきた頃に周りを見渡すと目の前は牢屋だった
奥に進んでみたが牢屋が続いているだけで何処かに繋がっている様子はない。
「はぁー」
ため息をつき壁に背をつけずるずと座り込む
なんでこんなことに
梨奈に巻き込まれたせいで知らない世界で一人きり
帰りたいな…
そう思って元の世界の事を思い出す
そういえば…元の世界でも私を必要としてくれる人なんて居なかったな
母が病気で亡くなると、父は私より新しい女を選んで行ってしまった
彼氏だって私を捨てて梨奈の所に行ったのだ
会社でも仕事上の付き合いをするだけで友達と呼べる人などいない
高校の時の友達はみな県外に行ってしまい連絡を取ることは殆どなかった
たまの休みの日は遊びに行くこともなく趣味の料理と読書に没頭していた
私は何処に行っても必要とされないんだな…
王子に連れられて幸せそうに歩く梨奈の姿、困ったように私を見る王様と周りの人達の顔
手をとってくれたのはジオさんだけだ
そのジオさんも無表情だったから歓迎されてはいないのだろう
そして今は武器を持った男に追われている
「はぁ」
目頭が熱くなり涙が出そうになるのを目を閉じて抑え込む
泣くな、泣くな
ついてないのは今に始まったことじゃない
まだ大丈夫
耐えられる
ずっとそうやって生きてきた
でも、これからどうしたらいいんだろう
膝を抱えて顔を埋める
ガチャン!
「ひゃっ」
鉄格子の方から急に大きな音が聞こえてきて思わず悲鳴をあげた
気付かれた!?
立ち上がることも出来ず恐怖に体が震えだす
「柚子、そこにいるのか?」
聞き覚えのあるよく通る低い声
「……ジオさん?」
鉄格子の方を覗き込む
「ああ、少し待っていろ」
ギィィというドアを開ける音が響き、カンテラを持ったジオラルドが見えた
ジオラルドは柚子に近付きしゃがみこむと、カンテラを床に置いて急に顔に手を伸ばしてきた
「っ」
驚いて目を閉じる
「すまない、驚かせてしまったか」
そっと目を開けてジオラルドを見た
服は乱れ額から汗を流し肩で息をしている
探しにきてくれたの?
「何があった、何故地下牢などにいるのだ」
「ごめんなさい」
目線を下げる
迷惑をかけたのだ
責められて当然だ
「いや、謝るのはこちらの方だ
とにかく無事で良かった。心配した」
心配?私を?
もう一度ジオラルドの顔を見た
「…転んだのか?額が赤くなっている」
そっと、躊躇いがちに伸ばされた手が額に触れた
ジオラルドの手からふわりと暖かな光が溢れてくる
不思議と震えは止まったが、あまりに優しく触れてくる手が心地よくて今度は気が抜けて涙が溢れてきそうになる
「もう大丈夫だ。部屋に帰ろう」
そう言ってふわりと頭を撫でると優しく微笑んだ
堪えきれなくなってポタリと涙が落ちる
「どっどうした!まだ何処か痛むのか?」
涙を流す柚子を見て慌てて手を引き、心配そうに私の顔を覗き込むジオラルド
会ったばかりの私を心配してくれてる
「ごめんなさい」
こんな優しい人に迷惑をかけてしまった
声を圧し殺して涙をながす柚子を見て、ジオラルドはふわりと抱き上げ頭を撫でる
「怖がらせてすまなかった」
ふるふると首をふって体を預けた
ジオラルドは柚子の涙が止まるまでずっと頭を撫でてくれていた
涙は止まった…だけど自分の行動を思い返して赤面する
思いっきり人前で泣いてしまった
しかもまた抱っこされてるし
「もう大丈夫か?」
ジオラルドが抱き上げたままの柚子の顔を覗き込む
「はい。ご迷惑おかけしました。
あの…もう歩けます」
ジオラルドが柚子の言葉に少し笑ってまた頭を撫でた
「部屋に戻ろう」
柚子を下ろすことなく歩きだす
はっと思い出してジオラルドの服を引っ張った
「待って!私武器を持った人に追われてるんです!見つかったら殺されちゃう!」
剣を持った大柄な男を思い出し、恐怖が蘇ってくる
「武器を持った人?
…それでこんな所にいたのか。それは私の部下だ。皆で君を探していた」
無表情で納得したように頷くジオラルド
ぶか……部下!?
「…え?えー???」
結局私の勘違いで怖がり損だった