迷子
喉が乾いて目が覚めた。
目を擦り体を起こすと違和感を覚える。
なんか手が異様に小さいような…てかここどこ!?
淡いオレンジの灯りが部屋をうっすら照らしている。周りを見渡すと全く知らない部屋だった。慌ててベッドから降りようとした所で気がつく。
手だけじゃなくて体も小さい!
ベッドに腰かけても足が床につかない。後ろ向きで慎重にベッドから降りる。
思い出してきた。確か梨奈に巻き込まれて知らない世界にきたんだった。王様と話してそれから…ジオさん!
確かどっかの宿舎に行くって…ここがそうなのかな?
机と椅子、本棚にタンスが置いてあるだけの飾り気のないシンプルな部屋。
右側と正面に扉がある。
とりあえずベッドから近い右側の扉を開けてみるとトイレだった。
洗面台もあるが手が届きそうにない。
椅子を持っていこうとしたが重くて動かなかった。
正面の扉を開けると薄暗い廊下が続いていた。
「どうしよう…」
廊下を進むのは怖い。だけどとにかく喉が乾いている。
キョロキョロしながら廊下に出た。
少し進むと部屋があったので開けようとしたが鍵が掛かっていた。その隣も同じ。
明るいところを目指して歩いてみよう。
ペタペタと裸足で茶色の絨毯の上を歩いていく。
しばらく歩くと下の階に続く階段があった。廊下はまだ続いているが暗くて行きたくない。
壁を支えにして一段一段確かめるように階段を降りる。
踊場があり、また階段。
降りてみると長い廊下が左右にあった。どちらも暗いので却下だ。
次の階も暗い。
もう少し降りてみよう。
今度は左右だけではなく正面にも廊下があった。
下に降りる階段は続いていたが真っ暗で先が見えない。
右と正面に灯りが漏れている部家があるようだ。
迷った挙げ句正面の廊下を進んだ。
しばらく進むと灯りが漏れている部屋の前に着いた。
中から音は聞こえない。ごくりと喉をならしゆっくりと扉を開いて中を覗き込んですぐに閉めた。
武器や盾が並んだ物々しい部屋だった。
見なかったことにしよう。
廊下を引き返して階段の方に歩いていると上の階が騒がしくなり、ドタドタと階段を降りてくる複数の足音が聞こえてきた。
咄嗟に近くにあった扉を開き中に入る。
暗かったが月明かりが入ってきているようでうっすらと部屋の中が見える。
ベッドが沢山並んだ部屋だ。
病室…かな?
2つ並んだ大きな棚には包帯や栄養ドリンクくらいの瓶が並んでいた。
足音が近付いてきていることを感じ、部屋の真ん中あたりにあるベッドの下に入り込んで様子を伺う。
荒々しく扉が開かれると二人の男の声が聞こえてきた。
「どうだ?」
「…見当たらない」
「ここにもいないか…」
「念のため奥まで見てみる」
誰かを探しているようだ。
一人が部屋の中を歩き回っている。そっと覗いてみると剣を腰にさした大柄な男がいた。
大柄な男は部屋の奥まで進むとまた入口まで戻っていく。
「いないな」
「小さな子どもだと言っていたから外には行ってないはずだが…」
「武器庫の方も探してみよう」
男達が慌ただしく部屋を出ていった。
探しているのは小さな子ども?もしかして…私?
あの人剣を持ってた…見つかったら殺されちゃったりする?
いやいや、流石にそれはないよね…
でも…怖い
考えた末、見つからないように部屋に戻ろうという結論が出た。
ベッドの下から出て扉に耳を当てて外から音が聞こえないか確認する。
どうやら近くには誰もいないようだ。
音を立てないように扉を少しだけ開け左右を確認してから廊下に出る。
左手を壁に付け、耳を澄ましながらゆっくり歩いた。階段は目の前だ。
左右の廊下を確認して階段を上ろうとした所で上から足音が聞こえてきた。
慌てて灯りの全くない下に続く階段を壁を支えにして降り、踊場に付いて立ち止まる。
下が見えない…
引き返そうかと後ろを振り返ると近くでまた声が聞こえた。
「何で見つからないんだ!」
「早く探さないと俺たちが処分されるぞ」
処分!?やっぱり私殺されちゃうの?
「後探してないのは地下牢ぐらいだが…」
「地下牢に降りてみよう。灯りを持ってくる」
引き返したいが一人は階段に残っているようだ。
降りてみるしかない。
幸い目が少し慣れてきた。下に続く階段は踊場を境に木製から石に変わっている。
石の階段をゆっくり降りていく。
直に石の冷たさを感じふるりと身震いする。
階段を降りきると鉄格子で道が塞がれていた。
鍵が掛かってる…この先には行けない…引き返すのも無理…どうしよう
鉄格子に手を当て考えていると上から灯りが見えた。
足音と共にゆらゆらと大きな影が降りてきている。
どうしよう!どうしよう!見つかっちゃう!
咄嗟に鉄格子に視線をやると、頑張れば通り抜けることが出来そうな場所に気づく。真ん中は格子が細かく無理だが端の方は穴が大きめだ。
横向きに鉄格子の前に立ち、まずは体を入れてみる。
いける!問題は頭だ。
頭を通そうとするとおでこが引っ掛かった。
鉄格子を両手で握りしめ、力ずくで頭を引っ張る。ぐりぐりと頭を揺らしながら何とか通り抜けることが出来た。
おでこ擦りむいてるかも…痛い
おでこを擦っていると灯りが近くまで来ていた。
慌てて少し奥に進むと左右に道が別れており、左の道に入って壁に背中を付けて踞る。
鉄格子がガシャガシャと音を立てた。
両手で震える体をぎゅっと抱きしめる。
「鍵はかかったまま…いないな」
灯りと足音が遠ざかって行った。
辺りがまた真っ暗になる。
これからどうしよう…
踞ったまま顔を上げた。
周りには何も見えない。足と背中に石の冷たさを感じながらため息をついた。