魔物
初の戦闘回です
緊迫した状況が少しでも伝わればいいんですが……
「魔物か!ちっ、街中だと思って油断した」
アランドルが目にも止まらぬ早さで悲鳴が上がった方向に走り出す
「ラリマー!ジオと総師にリーファン飛ばせ!」
「はい!」
ラリマーがマジックバッグから緑の魔石を2つとりだし、素早くリーファンを飛ばした
魔物!?子どももいたのに大丈夫なの?
不安になりラリマーを見上げる
「直ぐにジオラルド様と総師も来る筈です。柚子様は私と安全な場所に離れましょう」
ラリマーが柚子を抱え上げると、森の近くまで行っていたアランドルが叫ぶ
「ラリマー!数が多い!手伝ってくれ!」
「っ」
ちらりと柚子を見て安心させるように笑い、誰かの名前を叫び続ける女性の元へ一瞬で移動した
他の人たちはもう逃げているようだ
「柚子様、申し訳ありませんが私も行って参ります。そこの方落ち着いてください。お子さんは?」
柚子を下ろし、女性の肩を掴む
「ああ……魔物に……」
女性が泣き崩れる
「柚子様ここを離れないでくださいね」
頭をふわりと撫で、アランドルの方へ向かった
柚子も森へ視線を移す
あれが……魔物?
黒い影に覆われた十数体の狼のような者が体を低くしてアランドルを睨み付けている
アランドルは柚子の体程の幅のある大剣を軽々と振り回し、近付いてくる狼を斬りつけた
「ラリマー!」
アランドルの叫ぶ声が聞こえたと同時に、短剣を持ったラリマーが一匹の狼へ斬りかかる
子どもだ!
狼は口に子どもの足を咥えて引きずっていた
子どもに意識はないようだ、ぐったりとしている
狼はラリマーに気づくと子どもを放り投げ、影を伸ばしてラリマーに飛び掛かる
「ラリマー危ない!」
思わず叫んだ
だがラリマーは体を左に反らし狼の攻撃をよけ、すれ違い様に短剣を狼の腹に刺し勢いのまま切り裂いた
ギャウッと狼が短く叫び、ラリマーから距離を取る
ラリマーは狼に視線を向けたまま、放り投げられぐったりとしている子どもを抱えあげた
あの子血が出てる!
ぐったりとした子どもは大量に血を流していた
母親と思われる女性は震えながら顔を覆っている
「炎壁!」
ラリマーが叫ぶと狼が炎の壁に包まれた
「柚子様この子を頼みます」
一瞬で柚子の元へ来たラリマーが子どもを下ろすと、また狼の方へ走っていく
頼みますって……
傷の手当てなんてしたことないよ
子どもは腹と足から大量に血を流しており、唇は紫に変色し顔は血の気がなく青白くなっている
「エセル!エセル!」
女性が涙を流し子どもを抱きしめ、叫ぶように名前を呼び続けていた
柚子は拳をぎゅっと握りしめ考える
昔受けていた応急処置の研修を思い出せ!
先ずは止血!でも清潔なタオルやガーゼなんて何処にも……
泣き叫ぶ母親をじっと見る
頭に布巾を被り、腰にはエプロンが巻かれている
何もしないよりましだ!
「おばさん、頭の布巾とエプロンを貸してください!」
エセルと呼ばれた少年をそっと下ろし母親は慌てて布巾とエプロンを柚子に渡す
布巾を太ももに巻き、結ぼうとしたのだが力が足りず緩んでしまう
「足を軽く上げてここをきつく結んで下さい」
エセルの足を母親の太ももに乗せ、指示を出す
後はお腹の傷だ
エプロンの汚れた方を内側に巻き、お腹の傷を押さえる
出血が酷い……
エプロンは瞬く間に赤く染まっていく
血が止まらない!
エプロンを押さえる柚子の手の間から脈に合わせて血が流れ出す
誰か!誰か!誰か!
ジオさん!総師!早く!
誰かこの子を助けて!
涙で視界が滲む
「嬢ちゃん!そこを変われ!」
不意に肩を掴まれた
「ボルダーさん……」
驚いて見上げるとボルダーがエセルを見て舌打ちをする
「早く!変われ!」
はっとしてボルダーに場所を譲った
「出血が多いな……」
ボルダーの指先に青い光が灯り、エセルのお腹を包んでいく
光が消えると、エセルが大きく息を吐いた
お腹の出血が止まってる!
立ち上がって呆然とボルダーを見ると、今度は足を青い光が包み込んだ
「とりあえず出血は止めたが俺じゃ傷は治せねぇ。治癒師が来るまでこいつを動かすな」
ボルダーは涙を流しエセル!と呼び続ける母親をちらりと見て、アランドル達に視線を移す
先程まで十数体だった筈の魔物が30体程まで増えている
アランドルとラリマーは傷をおっているようで、所々服が破け血が滲んでいた
「シャドウウルフか……分が悪いな。奥にもでけぇのが居やがる。ジオと総師に連絡は」
「ラリマーがリーファンを飛ばしてます」
あの魔物はシャドウウルフという名前のようだ
ボルダーは頷くとそのまま立ち上がる
「我は願う、彼の者達に水の加護を『水の祝福』」
ボルダーが詠唱するとアランドルとラリマーが淡く青い光を帯びる
「我は願う、彼の者達に土の加護を『土の祝福』」
「我は願う、彼の者達に風の加護を『風の祝福』」
ボルダーが詠唱する度にアランドルとラリマーの光の色が増えていく
「我は願う、彼の者達に火の加護を『火の祝福』」
四つ目の魔法を掛けると四色の光が混ざり合い、二人に吸い込まれるように消えた
「ボルダー!後ろは頼む!」
アランドルがシャドウウルフから距離を取って大剣を構え直す
「ちっ相変わらず人使いが荒い……2匹が限度だ!それ以上は漏らすな!」
ボルダーが柚子達を庇うように前に出た
アランドルが次々と襲いかかってくるシャドウウルフを一薙で押し返す
ラリマーは威力の小さな魔法を使いながら短剣で斬りかかっているが、シャドウウルフが倒れる様子はない
ラリマー達の攻撃が効いてないの!?
一匹のシャドウウルフが隙を付いてアランドルの横から飛び出してきた
「ボルダー!」
「わかってるよ!土壁!」
突如地面からボルダーの背の高さ程の壁が出てき、シャドウウルフが壁に激突する
「岩の刺」
シャドウウルフが地面に倒れ込んだ瞬間、円錐状の岩が体を貫き動きを封じた
体を貫かれて尚もがき、赤い目を憎しみに光らせるシャドウウルフに恐怖が増していく
「ちっ、魔力が……」
ボルダーがよろめいて岩が消えた瞬間、シャドウウルフが向かってきた
こっちに来る!
恐怖のあまり腰が抜けて尻餅をついた
「くそっ!」
ボルダーは悪態を付いて柚子とエセルに覆い被さる
「ボルダーさん!」
柚子が叫んだ瞬間、風を切るような音とシャドウウルフのギャンッという鳴き声が重なった
何が起きたの!?
ボルダーが起き上がると、シャドウウルフは生き絶えている
「柚子!怪我はないか!」
振り返るとジオラルドが膝を付いて柚子の様子を見ていた
「ジオさん……」
ジオラルドの顔を見て緊張が解けたように涙が出てくる
「遅くなってすまない。怪我はないようだな」
ジオラルドは柚子の涙を指で優しく拭うと、ちらりとボルダーとエセルを見「総師も直ぐに到着する」と言って立ち上がった
「ジオ!待ちわびたぜ!でかいの頼むわ!」
「わかりました」
ジオラルドが右手を前に翳す
「我は乞う、天の伊吹を刃に変え立ち塞がる者を引き裂け『嵐刃』」
嵐のような轟音と共にシャドウウルフ達が風に巻き上げられ、次々と切り裂かれていく
ジオさん凄い……
ラリマー達があんなに苦戦してたのに一瞬でやっつけちゃった
ジオラルドが魔法を放った後、遅れてやって来た第1遠征隊の隊員が残ったシャドウウルフを魔法で倒していった
死ぬかと思った……
視線を顔色の悪いままのエセルに移し、手を握る
後はこの子の治療を早くしないと……総師はまだなの!?
「柚子!待たせたの!」
柚子の願いが通じたのか振り向くと総師の姿が見えた
「総師!この子の治療を!大怪我してるんです!早く!」
「怪我人はこの子だけか!」
総師がエセルに駆け寄り、治療を始める
「総師!エセルを!この子をどうかお助け下さい」
母親はエセルの手を握りしめ、顔を地面に埋めて助けてと繰り返す
「止血が早かったようじゃな。大丈夫じゃ。心配いらん」
エセルを白い光が包み、瞬く間に傷口が治っていくと同時に血の気が引いていたエセルの顔色が戻ってくる
「もう大丈夫じゃ。この子はよく頑張った。後で褒めてやりなさい」
総師が母親の肩を優しく叩くと、涙を流しながら母親はお礼を言ってエセルを抱きしめた
良かった……助かって良かった……
ほっと息を吐いて涙を拭っていると、森の中からズシンと地鳴りのような音が響いた
え!?今度は何!?
音は段々と近付いてくる
「大物が来るぞ!お前ら一旦下がれ!」
アランドルが叫ぶと隊員達は森から少し遠ざかり、緊張した面持ちで前を見据えていた




