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晩餐会

今回話が少し長くなってしまいました

「すごい……」

清掃の行き届いたクリーム色の床、何台も並ぶガス台にオーブン、慌ただしく動く料理人と見ただけでわかる新鮮な食材達

そのどれもに目を奪われる


「よう嬢ちゃん、良く来てくれたな」

料理人達の間を縫って料理長が出迎えてくれた


「お忙しい中呼んでいただきありがとうございます。こんな時に来て良かったのですか?」

邪魔にならないか心配だ


「問題ない。あまり相手は出来ないがな。嬢ちゃんはこっちに座って見ていてくれ」

厨房を見渡せる位置に椅子が置かれている


「ありがとうございます」

椅子によじ登り料理人達を眺める

野菜を切っている人、肉を捌いている人、パンを捏ねる人、どの料理人も生き生きと楽しそうだ

「皆楽しそうだろ?こんなに生き生きしたこいつらを久し振りに見た。嬢ちゃんには礼を言わないとな」

料理人達を見る料理長の目が嬉しそうに細められている


「お礼を言うのは私の方です。こんな素晴らしい光景を見られるなんて」


「そう言ってもらえると呼んだ甲斐もあったな。まぁゆっくり見てやってくれ」

料理長はそう言い、厨房の中に入って行った


あ、プレセリブさんだ

パンを真剣な表情で成形している


あれはクロワッサンかな?

暫く見つめていると、プレセリブが顔を上げて額の汗を袖で拭い、柚子と目があった

プレセリブは何か隣の料理人と話をし、柚子の元へ駆け寄ってくる

「柚子さん!」


「プレセリブさん。忙しそうですね」

柚子が声をかけると嬉しそうに笑って頷く


「はい、とても。でも物凄く楽しいんです。僕達の作った料理が大勢の方に食べてもらえると思うと忙しさも吹き飛びますよ」

幸せそうに笑うプレセリブに柚子もつられて笑顔になる

「皆さん本当に料理が好きなんですね。私も以前は料理をしていたので気持ちはわかります」

元の世界では父や同棲していた彼氏に手料理を振る舞うのが楽しみの一つだったことを思い出す

「柚子さんも料理為さっていたんですか?幼いのに凄いですね」

プレセリブの驚いた顔に曖昧に笑顔で返した


「柚子さんが教えてくれる料理も楽しみにしていますね」

そろそろ戻ります、とプレセリブは厨房へ戻りまた慌ただしく動き出した


暫く夢中で見学しているとラリマーから声を掛けられた

「柚子様、そろそろ準備に参りましょう」


もうそんな時間なんだ

楽しい時はあっという間だな


ラリマーが料理長に声をかけ、二人で柚子の元へ来た

「お前ら、ちょっと手を止めろ」

料理人達が動きを止めて柚子の隣に立つ料理長に注目する

「公には秘密になってるが、この嬢ちゃんが法を変えようとしてくれた人だ。これからはお前らの望みでもある美味い料理を国民全てが食べられるようになる時代が来るだろう。俺達の夢を叶えてくれた嬢ちゃんに最大限の感謝を」

そう言って料理長は柚子に向かって頭を深く下げた

料理人達もそれに習う


「えっ!?頭を上げてください!元は私の我儘からでた話しですし、実際に動いてくれた人は総師や魔術師長達ですから」

料理人達の行動に驚いて慌てて椅子から降りた


頭を上げる料理人達にほっとして言葉を続ける

「私にとって食事とは幸せそのものなんです。私の方こそ最大限の感謝を。皆さんの料理をとても楽しみにしています」

深く礼をして笑顔で料理人達を見ると、皆笑顔で返してくれた


再度お礼を言って料理人達と別れ、大きな鏡と椅子のついたシンプルな部屋に転送した

どうやらここで着替えをするらしい

今日のドレスは鮮やかな黄色だ

小さな宝石が散りばめられたレースの胸元、控えめなウエストリボン、シルクのような滑らかで光沢のある生地がたっぷり使われた前が膝丈で後ろが長くなっているフィッシュテールのスカート、ウエスト部分の後ろにはスカートと同じ生地で作られた大きな薔薇がついている

髪は緩く編んで背中に流し、耳元に白の花飾りをつける

ブルーサファイアとジルコニアが輝くネックレスをつけたら完成だ


鏡を見てほぅっとため息をつく

「ラリマーのセンスは凄いね。私にも似合ってる気がする」


「柚子様は可愛らしいですから何を着てもお似合いですよ」

誇らしげに言うラリマーの言葉に照れて俯いていると、ジオラルドからリーファンが届いた

「準備が出来たら宰相の部屋まで来なさい……だって」

ラリマーを見上げる

「では参りましょうか。……その前に柚子様、一つだけ宜しいですか?」

ラリマーが手を頬に添え小首を傾げる


「なに?」


「この部屋から出たらけして俯かないで下さいませ。顔を上げて堂々と為さっていて下さい」


中々難しい事を言うなぁ

でもラリマーが言うなら頑張らなくちゃ


「わかった」と返事をすると、ラリマーは「柚子様は私の誇りです」と笑った

また恥ずかしくなって俯きそうなのを我慢する


「では、参りましょう」

ラリマーが魔方陣に触れ、二人で転送した


転送すると、目の前にはジオラルドが待っていた

謁見の時と同じ格好だ

「来たか。今日のドレスも良く似合っている。行くぞ」

いつものように柚子をふわりと抱き上げ、ジオラルドが廊下を歩きだす


「何処に行くんですか?」


「宰相の部屋だ。リーファンで伝えていただろう?」

ジオラルドが扉の前で立ち止まり、ノックをする


「入れ」

中から迫力のある低い声が聞こえてきた

ジオラルドが扉を開け中に入る。宰相の執務室のようだ


ジオラルドとそっくりな宰相は椅子から立ち上がり、ソファに座る

「座れ」

かけられる言葉はとても短い


「失礼します」

ジオラルドと柚子もソファに座ると、侍女が紅茶を入れてくれた


近くで見ると凄い迫力

40代位でジオラルドと同じ顔立ち、眉間には深い皺が刻まれている


二人とも紅茶に手をつけるでもなくただ黙っている

えっと……私の自己紹介待ち、とか?

だが視線は柚子を向いていない


沈黙に耐えきれなくなり、声をあげた

「あのっ私は柚子と申します」


「知っている」

帰ってきた答えは短く素っ気ない


失敗した!?どうしたらいいのよ

慌てる柚子にジオラルドが漸く話し出した

「この方は宰相。私の父だ」


やっぱりお父さんだったのか!

宰相が父ってことはジオさんってかなり身分が高いんじゃ……

「あの、先日はありがとうございました。法を変える協力をしてくださったと聞いてます」


「ああ。まだ決まったわけではないがな。国に利があると思っただけだ。君に協力したわけではない」


これは……私嫌われてるのかな

絶えず無表情で淡々と話す宰相を相手に俯きそうになるが、ラリマーの言葉を思いだしそっとジオラルドの袖を摘まみ、顔を上げて宰相の目を見る

「宰相、私達をここへ呼んだ理由は何ですか」

ジオラルドも無表情のままだ


「そなた達の顔を見たかっただけだ。中々いい度胸をしている。ジオラルドにも懐いているようだな」

ちらりと柚子の手元を見る宰相に、気付かれた!と少し焦るが笑顔を崩さないよう努めた

「用はそれだけだ。もう行って良い」

宰相は立ち上がるとすぐに背を向け、執務机に戻った

ジオラルドも言葉を発することなく柚子を抱き上げ、執務室を後にした


転送した先は柚子がドレスを着た部屋に似ているが、鏡はなく光沢のある机と椅子が置かれてあるだけの部屋だった

「ジオさんってお父さん似なんですね」

ラリマーの入れた紅茶を飲みながらジオラルドを見る


「外見だけはな」

と嫌そうな顔で短く答えるジオラルドに無表情で少し素っ気ない所も似ているとは言えなかった


暫く紅茶を飲んでのんびりしているとラリマーがそろそろ時間です、と呼び掛ける

ドレスや髪が乱れていないか確認してもらい、また転送した


赤と金で装飾された豪華な広間についた

広間の奥には大きな両開きの扉があり、警備騎士が開け放たれた扉の前に立っている


ジオラルドが扉に向かってゆっくりと歩きだす

柚子はジオラルドの後ろを早足で付いていった


警備騎士が一礼し、道を開ける

扉の先に広がったのは先程の広間よりも更に広く、大きなシャンデリアがいくつも輝く豪華な作りの大広間だ


大広間には既に貴族と思われる人達が大勢いて、奥には一段高くなったステージのようなもの、その手前には様々な料理が並べられた台がいくつもあった


バイキング形式の立食パーティーのようだ


ジオラルドと壁の端に立っていると、貴族達が前を向いて頭を下げだした

柚子とジオラルドもそれに習って頭を下げる


「皆急な召集にも関わらずよく集まってくれた。今宵は我が国が誇る宮廷料理人達が用意した食事を存分に味わってくれ。そして国の歴史をも変えうる法の改正に賛同してくれると有難い」

王は法改正の具体的な話をし、税を上げる代わりに料理の技術とレシピを提供する事を約束する


「お待ちください!」

急に一人の男がステージに上がって王に近付いた

「父上、何を考えているのです!王族のみに許された食事を貴族にも分け与えるとは……王としての権威が損なわれます」


あの人は確か梨奈を連れていった王子様だよね?

王としての権威って……食事は関係ないんじゃ……


「フィガロ、国は今厳しい状況だ。魔物が増え続ける影響で皆緊張状態で日々を過ごしているのだ。民の心が和らぐのであれば食事位差し出そう。それで権威が揺らぐような事があればそれは余が王として力量が足らんかったというだけだ」

王はを宥めようとしているが、フィガロは治まらない

「王は唆されているのだ。王を唆した不届きものは誰だ!ここへ連れて参れ!」

フィガロ王子の言葉に貴族達は戸惑い、チラチラと柚子へ視線を向ける


「騎士よ!何をしておる!私の命令が聞けぬのか!」

フィガロ王子の言葉にジオラルドはため息をついて柚子の手を引き、ステージへ進む

ジオラルドと柚子を見つけたフィガロ王子は怒りを隠すことなく睨み付ける

「お前か……何だその子どもは」


ジオラルドは王子の前に跪き、柚子の手をぎゅっと握りしめた

「王へ打診したのは私共でございます。この子は聖女の召喚の際、巻き込まれただけの者。王を唆そうとは微塵も思っておりませぬ」


「黙れ!」

王子が柚子に掴みかかろうとするのをジオラルドが庇う


「何で……何であんたがここにいるのよ!」

声をあげたのは梨奈だ

王子は梨奈に駆け寄り腰を抱いた

「梨奈、どうした。この者を知っているのか?」


梨奈の姿を見て驚いた

若返ってる!

24歳だった筈の梨奈は17、8程の見た目に見える

鮮やかな赤いドレスと豪華な装飾を身に纏い、柚子を見ていた


それにしても、私子どもになってるのに一瞬で気づかれるなんて……

梨奈を見返していると、王の声が響いた

「そこまでだ。フィガロ、引け」


「ですが父上!」


「余の言葉が聞けぬと?」


「……わかりました。そなたら覚えておけ。私に逆らって只で済むと思わぬことだ」

ジオラルドと柚子を睨み付け、梨奈の腰を抱いたまま大広間を出ていった


静まり返る広間に王のため息が響く

「皆、騒がせてすまなかったな。この者達は余を唆したわけではない。いらぬ噂は立てるな」

先程の事は忘れて食事を楽しむように伝え、王も広間を後にした

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― 新着の感想 ―
[一言] 愚者が王になるほど国にとってマイナスな事はないから可及的速やかに修正を加えるか粛清するべきですね〜 汚物は消毒だ〜!!
2020/02/09 08:41 退会済み
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