第2騎士団団長
「予定よりお早いお戻りですね。戻るときはリーファンを飛ばすようお願いしていたはずですが」
ジオラルドがため息をつきつつ執務室へ入る
「サプライズだよ、サプライズ」
赤い長髪の男が紅茶をぐいっと飲み干し、立ち上がってジオラルドを見て固まった
「おま……え?なんだそれ……おい!マジかよ……。はっ!誰か絵師を呼べ!至急だ!」
赤髪の男が切れ長の目を見開いて取り乱している
「落ち着いて下さい」
再度ため息をつくジオラルド
「これが落ち着いてられるか!俺の可愛いジオが可愛い嬢ちゃん抱いてるんだそ!?……ここは天国か」
男のあまりの勢いに怖くなり、ジオラルドの服をぎゅっと掴む
この変な人は誰?
ジオラルドは男を無視して柚子に視線を移す
「この方は第2騎士団団長だ。暫く放置しておけば落ち着く」
柚子をソファへ座らせ、ジオラルドも隣に腰を落とす
ラリマーも気にした様子はなく、紅茶を入れ始めた
男は「やべぇ二人並んで座ってる……やべぇ可愛い」とぶつぶつ呟いている
柚子とジオラルドがラリマーの入れた紅茶を飲んでいると漸く男は落ち着いたようで、向かいのソファにドサリと座った
「悪かったな。取り乱していたみたいだ。この嬢ちゃんが例の子か……」
男は先程とは打って代わり、真面目な顔つきで柚子を見る
例の子?
というか、この人がここの団長さんなんだ……
ジオさんとはタイプの違うイケメンだなぁ
鮮やかな赤の長い髪と切れ長の赤銅の目
顔立ちはとても整っており、先程の取り乱した顔を見ていなければ柚子も見とれていただろう
「初めまして。柚子と申します」
座ったままペコリと頭を下げる
「挨拶出来るのか!しっかりしてるなぁ。俺はアランドル。アランと呼んでくれ。一応第2騎士団の団長だ」
ニカッと笑うアランドルにジオラルドはそれで?と切り出した
「戻るのは来月になると報告を受けていましたが、何故予定より早く戻って来たのですか?」
ジオラルドの言葉にアランドルは笑みを消す
「ああ。予定では魔物が急激に増えたと報告があったノルダムの遺跡に行くはずだったんだがな。途中で妙な現象が起こって引き返してきたんだ」
ノルダムは確か王都の北にある都市だったはず
急激に魔物が増えてるって、前に総師が言っていた国の危機に関係するのかな
「妙な現象とは?」
「魔術師が言うには遺跡の前に結界が張られていたらしい。遺跡は目の前に見えてるのにいくら進んでも近づけなかったんだ」
結界……物語で読んだことはあるけどそれも魔法の一種なのかな?
というか、この話し私が聞いてもいいものなの?
ジオラルドは話を続ける
「初めて聞く現象ですね」
「ああ。魔術師では結界を解く事が出来ないらしくてな、どうしようもねぇから戻ってきたってわけだ。とりあえず魔術師長に報告してみるらしいがどうなるかは分からねぇな」
「成る程。それは気になりますね。魔物の増加と関係ありそうです」
「俺もそう思う。ところで話は変わるが、10日後また遠征に出るぞ」
「今度はどちらに?」
「第3遠征隊の報告を受けてな、気になるから新緑の森に行こうと思ってる。ジオ、お前も一緒にな。あと嬢ちゃんもだな」
悪戯を思い付いたかのような笑顔を浮かべるアランドル
「は?」「え?」
いきなり話を振られて思わず出た声がジオラルドと重なった
「私は書類仕事があるので長くはここを空けれません。それに柚子も連れていくなんて何を考えているんですか」
「書類仕事は心配いらないぞ。いい奴を連れてきてる。それと嬢ちゃんだが、こっちに来てから宿舎と王都にしか行ってないんだろ?少しは外の世界も見せてやろうと思ってな。ジオとラリマーが一緒なら大丈夫だろ」
「それでも危険です。もし何かあったらどうするんです」
アランドルの言う通り、確かに宿舎と王都しか見たことがない
下町や他の都市がどのようなものか見てみたい気持ちもある
でも、ジオさんが反対するってことは危険なんだよね
魔物とかも出来れば見ずに平和に暮らしたい
そう言いたいのだが、口を挟める雰囲気ではなさそうだ
「何かあった時の為にお前とラリマーが一緒に行くんじゃねぇか」
「しかし……」
「ジオラルド、これは団長命令だ」
尚も反対するジオラルドに、アランドルは声色を変えた
ジオラルドは諦めたようにため息をつくと、ソファから一度立ち上がり、跪く
「承知いたしました」
どうやら私も新緑の森という場所に行くことが決定したようだ
その後、夕食を食べにジオラルドに抱えられてとアランドルと一緒に食堂へ行った
食堂に入ると見慣れない隊員が一気に集まってくる
「ジオ!元気にしてたか!」
「ジオが子ども抱いてるぞ!……二人とも可愛すぎないか?」
次々と声を掛けられ、ジオラルドと柚子の頭をわしゃわしゃと撫でていく
「だろ?俺も最初見たときは天国に来たのかとおもっちまったぞ」
とアランドルまで混じっていた
ジオさんまで頭撫でられてる!
ジオラルドが嫌そうな顔をして撫でるな、と言っているがお構いなしだ
おお!ジオさんががまるで子ども扱い
貴重な光景だ
いつもきちんとしているジオラルドの髪がぐしゃぐしゃになっており、なんだか可愛らしく思えた
暫くすると隊員達は満足して食事を取りに行った
「漸く収まったか」
ジオラルドがため息をつき、柚子を下ろして席につく
「今のが団長率いる第1遠征隊の隊員達だ」
「第1遠征隊の方々は帰ってくるといつもああなのですよ」
くすくすとラリマーが面白そうに笑っている
「ジオさん可愛がられているんですね」
と言うと露骨に嫌そうな顔をされた
「あの方達にとってジオラルド様は弟君のようなものですから」
ラリマーはふふっと笑って柚子とジオラルドの食事を取りに向かう
スープが劇的に美味しくなっていることに驚く隊員達と賑やかな夕食を取り、軽くシャワーを浴びて眠りについた
翌朝いつものように朝食を取って執務室へ入ると、ジオラルドの他に初めて見る男女が二人ソファに座り書類へ向き合っている
「おはようございます」
挨拶をしてジオラルドに近づくと、旅人のような格好をした二人は立ち上がって頭を下げる
「「おはようございます」」
ジオラルドに隣に座るよう言われ、ソファに腰を落とす
「この者達は団長が連れてきた。私と一緒に書類仕事をしてくれている」
事務員さんってことか
いつも忙しそうなジオラルドの仕事が減るのは良いことだ
「初めまして。柚子と申します」
「小さいのにしっかりした方ですね。私はナックス、こっちは妻のアミューです」
ナックスは癖の強くボリュームの多い、目が隠れそうな程伸びた茶色の髪に分厚い眼鏡が特徴の優しそうな男性
アミューは淡い緑の髪を短く切り、服の上からでもわかる引き締まった体をしている気の強そうな女性だ
「柚子、宮廷料理長から連絡があった。晩餐の準備を見学しに来ないかということだが、どうする」
「行きます!」
嬉しい提案に即答する
「わかった。そのように伝えておこう。晩餐には私達も参加するのでそれまでは自由に過ごしなさい」
「わかりました。お仕事頑張ってください」
嬉しさを押さえきれず、笑顔が溢れる
「……ああ。ありがとう」
ジオラルドは柚子を見て一瞬表情を和らげた後、リーファンを飛ばし書類に視線を落とした
部屋に戻った柚子は総師から借りた治療魔法について書かれた本を読んで時間を潰した
治療魔法には二種類あり、病気を治したり止血をするのが水属性魔法で、外傷を治すのが光属性魔法だ
光属性魔法は内蔵の損傷まで治療できるようだ
治癒師に成るためにはどちらの魔法も扱えることが条件らしい
後は治療魔法に必要な人の体の構造など、柚子が学生の時に習っていた内容が書いてあった
本を読み進めているとジオラルドからリーファンが届いた
料理長の元へは昼食後に行くようにという内容だった
ラリマーに内容を伝えると、時間がありません!と珍しく慌て出す
柚子を風呂に入れ最低限の身仕度をして昼食を取り、馬車で王城へ向かった
城門につくとラリマーが料理長の元へ転送をお願いし、魔方陣に乗って転送する
転送した先は総師の元へ行くときと同じ正方形の部屋だ
但しステンドグラスと絨毯の色が赤、藍、金、銀等様々な色が使われていてこちらの方が豪華な印象がある
奥の魔方陣に触れて魔力を流し、料理長の顔を思い浮かべた
浮遊感が収まり目を開けると、そこには30人程の料理人達が慌ただしく動き回る清潔感溢れる厨房が広がっていた




