プレゼン本番
「本日はお忙しい中お時間を取って頂き、ありがとうございます」
総師が深く礼をする
それに習って皆で頭を下げる
「良い。頭を上げよ」
顔を上げ、王を見る
「柚子……と言ったか。そなたから願いがあると聞いている。召喚に巻き込んでしまったのはこちらの落ち度だ。出来うる限り叶えよう。申してみよ」
王の言葉にごくりと唾を飲み込み、一歩前に出る
「ありがとうございます。私からの望みは一つ。食材に関する法の改正です」
柚子が言い終わると同時に周りにいた貴族達がざわめくが、王が驚いた様子はない
「食材に関する法は聖女の助言の元、施行されておる。そう易々と変えることはできんぞ」
「わかっています。ですが私はこの国の食事情を知って、疑問に思ったのです。本当に慈悲深い前聖女様がこのような法を望んだのか、と」
今度は貴族から怒りの声が聞こえてくる
「静まれ。……前聖女は民のことを一番にと考えこの法が出来たと言われておる。何故疑問に思うのだ?詳しく述べよ」
貴族達が口を閉じるのを確認し、柚子は頷く
「国民の食事の内容が日持ちのする物、それも痛みかけたもののみと、あまりにも酷いのです。口で説明するよりも実物を見た方が分かりやすいと思いますのでご用意致しました。こちらをご覧ください」
柚子の言葉にジオラルドがマジックバックから古くなった黒パンと干し肉を取り出し、騎士に確認してもらった後、王の元へ近づく
「これはなんじゃ?」
王は黒パンと干し肉を初めて見るようだ
「普段王族以外の方が毎日口にしているものです。黒パンと干し肉、そして悪くなった野菜で作ったスープ。これが今の国民の食事なのです。悪くなった物を食べると当然体調を崩す人が出ます。特に体の弱い子どもなど、最悪の場合亡くなることもあるのです。このような状況を前聖女様が願った筈がないと思うのです。ですから私はこの状況を変える事を望みます」
「これを毎日?本当か?」
信じられないという顔で王が横に立つ大臣に訪ねる
事前に聞いていたのだが、柚子から向かって右手にいるのが宰相で、左にいる人達が大臣らしい
「左様で御座います」
大臣が頷き肯定する
貴族達からも否定の声は上がらない
「ここまで酷い物を食べているとは知らなかったぞ……しかし災害等が起きた時の備えを怠ってはならぬという考えものと施行された法なのだ。備えを失くす事は出来ん」
「それは勿論です。ですから備えの方法を変えては如何かと思いお時間を取って頂きました」
「ふむ。続けなさい」
「はい。まず国民の方々は3日分の保存食のみを蓄えます。それでは当然何かあった時に足りない為、都市ごとに纏めて大量の食料を保管するのです。そして購入した食材は新鮮なうちに食べるようにする。そうすれば体調を崩す人も減り、美味しい食事を取ることができます。美味しい食事というのは心を癒し、活力溢れた生活の為に必要な物なのです」
「成る程。民の生活が向上するということだな。良い案だ」
「お待ちください」
頷く王に声を上げたのは宰相だ
宰相に初めて目を向けると、その姿に驚いた
え!?ジオさんそっくり!
宰相は30代後半の、銀髪に青い目の整った顔立ちをしている
その顔立ちはジオラルドが歳を取ったらこうなるのだろうな、という位に似ていた
無表情な所もそっくりだ
思わずジオラルドと宰相を見比べていると、前を見たままのジオラルドが後で説明する、と囁いた
「確かに案自体は良いものでしょう。ですが保管をする場所、そして大量の食材を購入する。その予算はどこから出るのですか?国が裕福とはいえ魔物の被害も増えるなかそのような改革を行っている場合ではないかと」
「それについては儂等から説明致しましょう」
総師が一歩前に出る
「先ず予算の件、今民が保管している分の食料を都で受け持つ為、その分税を上げましょう。しかしそれだけでは足らぬので、貴族の税を平民より高くするのです」
総師の言葉に貴族から反対の声が多くあがるが、それを無視して話を続ける
「勿論税が上がる代わりに得られる物を用意したいと思っております」
「得られる物?なんだ?」
王の疑問に答えたのは宮廷料理長だ
「私共の持つ技術、そしてレシピを貴族の方にはお教え致しましょう」
「成る程。そなた等は食の向上を対価に税を上げると言いたいのだな」
「左様で御座います」
頭を下げる料理長に又もや貴族から声が上がる
「私は食事の改善など望んではおりません。ですので税を平民より高くするという案は反対です」
平民の備蓄の為に何故私達が負担を強いられるのだ、という言葉も聞こえた
料理長が顔を上げ、貴族達を見る
「反対される理由も理解しているつもりです。ですが一度私達の料理を召し上がってみて判断しては頂けないでしょうか。勿論無理にとは言いませんが……」
料理長は尚も声を上げようとする貴族から視線を反らし、王に向き直る
「王。明日貴族の方々に晩餐を振る舞う許可を頂けますか」
「良かろう」
頷く王に貴族達は黙り混む
王が許可を出した以上、文句は言えないのだ
「ありがとうございます」
料理長が一歩下がるのを見届けて、次はリファインが話をする
「続いて保管場所の件ですが、王は我が国全ての都市の中心に地下空洞がある事をご存知ですか?」
「見たことはないが知っておるな」
「私はその全ての空洞に行ったことがあるのですが、まるで以前は倉庫として使われていたかのように整備されているのです。ですからそこに食料倉庫を作ろうと考えております。そしてその食料倉庫ですが、我ら魔道具師が10年掛けて研究し、完成させたある機能をつけます」
「ある機能とはなんだ?」
「時を遅らせることの出来る倉庫です。その倉庫に入れた食材は全て最低一年は腐らせる事なく保存が出来るようになります」
「素晴らしい研究成果だな」
「お褒めに与り光栄です」
リファインが淑女らしく微笑み、膝を折る
「私達からの発案は以上です。王様、どうかお考え頂けませんか?私にとって食事の質は民の質と同じ。私はヒルデベルト王国が益々良い国となることを願います」
柚子は頭を下げて王の返事を待つ
「そなたの訴えはわかった。宰相よ、何か意見はあるか?」
「細かい調整は必要ですが、貴族の方々が税を上げることに賛成して頂けるのなら進めても良い案件だと私は思います」
「大臣達はどうだ?」
「宰相と同じ考えで御座います」
王は宰相と大臣達が揃って頭を下げるのを見て頷き、柚子に視線を戻す
「明日の晩餐の結果次第だが、この件は前向きに検討しよう」
王の言葉にありがとうございます、と皆で頭を下げて謁見は終了した
「はー。緊張しました」
椅子に座って背伸びをする
今は皆で会議室に集まり、紅茶を飲みながら休憩タイムだ
ジオラルドは無言で柚子の頭を優しく撫で、総師は「良く頑張ったな。立派だったぞ」と誇らしげに笑っている
他のメンバーも皆笑顔だ
「でも王様が最初から賛成してたなんて最初聞いた時はびっくりしましたよ!」
紅茶を飲みつつ魔術師長を見ると、悪戯が成功したような顔で
「根回しは大切な事だぞ。特に大きな案件ならば尚更だ」と笑った
実は待合室で魔術師長から、王も法の改正に賛成してくれていると聞いていたのだ
三日前に会議した後、直ぐに王の元に向かい会議の内容を伝えてくれたそうだ
王は最初は難しい顔をしていたが、話を聞くうちに民の為になると納得して後は貴族共を謁見の時に納得させよとの命を受けたと言っていた
因みに宰相と大臣達にも根回し済で、晩餐の件も最初から王の許可を得ている
そういうわけで、今回のプレゼンは最初から勝ち戦だったのだ
王様は凄くいい人だ……
国民の事を一番に考えている
この国が豊かな理由がわかった気がした
暫く休憩した後、ジオラルドに抱き抱えられて歩いて宿舎に帰っていく
「大勢の前で話すのってやっぱり緊張しますし疲れますね」
疲労と心地よい揺れに、うとうとして眠りそうになる
「そうだな」
「柚子様は立派でしたよ。今日は少し早めに休みましょうね」
ラリマーの言葉に頷いて、ポツポツと他愛もない話をしながら宿舎の執務室の前まで戻ってきた
ジオラルドが執務室の鍵を開けようとして一瞬固まり、ため息をつく
「ジオさん?どうしたんですか?」
柚子の質問に答えることなく鍵のかかっている筈の扉を開くと、執務室の中には鮮やかな赤い長髪の男がソファにふんぞり返って座っていた




