謁見準備
朝になり、いつものように顔を洗って着替える
食堂に行くと数人の隊員が食事をとっていた
「あの、聞きたいことがあるんですけど」
隊員達に近づき、話しかける
「柚子ちゃんから話しかけてくれた……」
「俺も副団長みたいに抱っこしたい」
「聞きたい事ってなに?」
と反応は様々だ
「食事の件で話がしたくて……少しだけ時間大丈夫ですか?」
「柚子ちゃんの為ならいくらでも大丈夫だよ!」
ニコニコと笑う隊員達の隣に座る
「食事というかスープだけなんですけど、変わってからどうですか?」
抽象的な質問に隊員達は一瞬考え込むが、皆笑顔で答えてくれた
「美味しい食事なんて最初は必要ないだろうって思ってたけど、実際食べてみるとなんというか……幸せだなって感じたよ。食事中の雰囲気も良くなったよな」
「そうだな。今までは1日の楽しみは酒ぐらいだったけど、今は食事も楽しみの一つになってるな」
「俺はお袋にも食べさせてあげたいって思ったな。食事が美味いと疲れも取れる気がするし」
「成る程。因みに皆さんご実家って何処なんですか?」
「俺らは全員平民で、下町育ちだよ」
「下町ですか……もし法が変わって皆が毎日美味しい料理を食べれるようになったら下町でも受け入れられると思いますか?」
柚子の質問に隊員達は難しい顔をする
「最初は混乱するんじゃないかな。実際に料理するのはお袋だろ?前のここの食事よりはましだったけど、まぁ美味くはなかったし皆それが普通だからな。わざわざ調理法を変えてまで美味しい食事を求めるかっていうと微妙な所だな」
「うーん、一度食べてみれば変わるとは思うんだがなぁ」
「一度食べたら前の食事には戻りたくはないからな。これから何をやるのかよく分からないけど下町の皆にも美味しい食事は食べさせたいし、俺らに出来ることがあれば何でも協力するから!」
隊員達の温かい言葉に嬉しくなる
お礼を言ってそのまま隊員達と話をしながら朝食を取った
部屋に戻りラリマーの入れた紅茶を飲む
昼食後までは予定がない
何をしようかな?
考えているとラリマーに呼ばれた
「昼食後は大勝負です。これから身を清めて念入りに準備致しましょう。ドレスも準備致しました」
「ドレス?私の?」
「はい。謁見は正装で臨まなければなりません。新しいものは間に合いませんでしたが、一度私の妹が袖を通しただけのものを準備致しました」
正装ってドレスなんだ……
着たことないけど似合うのかな
自分がフリフリのドレス姿を想像すると、少し寒気がした
「この服じゃ駄目?」
白のシンプルなシャツと裾の広がった紺の長いスカートを指差す
「申し訳ありません。それはちょっと……」
ラリマーが困ったように笑った
駄目か……
仕方ない、例え似合わなくても服で王の機嫌を損ねる訳にはいかない
「わかった。お願いします」
朝は誰も使わないということで、初めて1階にある大浴場を訪れた
30人くらいなら一気に入れるような大きさの大浴場は隅々まで清掃が行き届いており、白のタイルが高い窓から差し込む日差しに反射してとても綺麗だ
柚子の髪をラリマーが丁寧に洗っていく
自分で洗うと言ったのだが、ラリマーが譲らなかったのだ
体だけは自分で洗い、少し甘い花の香りのする湯船に入る
気持ちいい……お湯に浸かるのなんて何日ぶりなんだろう
心行くまでお風呂を楽しんだ後は香油を着けて貰ったり、爪を磨いて貰ったりと至れり尽くせりだ
早目の昼食を取った後、ラリマーがミントグリーンのドレスを持ってきて柚子に着せる
上見頃は細やかな花柄の刺繍が施されており、ショートスリーブの短い袖が可愛らしく、ふんわりと広がるチュールスカート、ウエストにはキラキラと輝くビジューをあしらったバックリボンのベルトがついたドレスだ
可愛い……
お姫様になった気分だな
似合っているかはわからなかったが、柚子の黒い髪にミントグリーンのドレスが良く映えている
髪はハーフアップにし、パールビーズのついた白のオーガンジーのコサージュ、小さなダイヤモンドのついたシンプルなネックレスを付けている
「良くお似合いです」
ラリマーが満足そうに頷いた
仕度が終わり、執務室へ向かう
執務室へ入り、ジオラルドの姿に目が奪われた
ジオさん格好いい……
白地に金のラインが入ったジャケットに黒のズボン、ジャケットと同じ色合いのブーツを履いていて、胸元には様々な勲章が付いている
いつもは短めのマントを羽織っているが、今日は足元まである長い藍色のマントを羽織っており、ジオラルドのオールバックにした銀の髪を一層目立たせていた
柚子を見たジオラルドの目元が僅かに緩む
「可愛らしいな。よく似合っている」
「あ、ありがとうございます」
ジオさんに可愛いって言われちゃった
なんだか恥ずかしい
それにしても……格好いい人が正装になると破壊力倍増だな
柚子がジオラルドを見つめていると、ジオラルドは頭を撫でようと手を伸ばす
がラリマーに嗜められた
「御髪が乱れます。今は撫でるのは我慢してください」
「む……そうか」
少し考える素振りを見せた後、柚子を抱き上げた
「抱えるのは問題はないだろう?」
ジオラルドがラリマーに問うと、ラリマーは呆れたように笑って頷いた
「ドレスが皺にならないよう細心の注意を払ってくださいね」
「わかった」
抱き抱えられたまま、階段を下りて一階に向かう
宿舎の入り口には隊員達が集まっていた
隊員達は柚子を見るなり固まる
皆見てる……
もしかして似合ってない?
不安になりジオラルドを見上げると、ため息をついたジオラルドが隊員達に近づく
「柚子が不安がっている。何か声をかけてやれ」
隊員達がはっとしたように一斉に喋りだした
「柚子ちゃん可愛いよ!」 「可愛すぎてなんか泣けてきた」
「天使じゃないか?」 「やべぇ、見とれてた」
隊員達の反応に恥ずかしくなるがほっとする
言ってることはよく分からないけど、似合ってないわけじゃないみたいだし、良かった
「そなたがドレスを着ると聞いて集まってきたのだ」
ジオラルドは隊員達を見ながら再度ため息をつく
「えと……ありがとうございます?行ってきますね!」
隊員達に見送られながら馬車に乗り、王城へ向かった
城門につくと、ジオラルドがいつものように警備騎士に名前と行き先を告げる
そして転送した場所は待合室のようだった
総師と魔術師長、セドニー、それと貴族服の知らない人が一人いた
「おぉ!柚子。よく似合っているな」
総師が笑顔で近付いてくる
「ありがとうございます」
柚子も笑顔で返した
魔術師長とセドニーにも挨拶をする
もう一人の人は宮廷料理長だそうだ
見た目は厳しそうだが、法の改正に全力で協力すると言ってくれた
挨拶を済ませ、玉座の間での流れを聞きながら紅茶を飲んでいるとリファインとロベルディもやってきた
二人とも正装だ
「柚子ちゃん!可愛い!抱き締めてもいい?」
リファインは返事も待たずに柚子を抱き締める
ロベルディは呆れたように笑ってすまないね、と言っただけで止める気はないらしい
リファインが漸く満足して離れた所で、騎士から玉座の間へ行くよう伝えられた
ジオラルドに抱えられながら豪華な廊下を歩いていく
なんか緊張してきた……
落ち着け、大丈夫、大丈夫
目を瞑り、ゆっくりと深呼吸をする
「心配するな。私達がついている」
ジオラルドは緊張した様子はなく、普段通り無表情だったが口調は優しい
「はい。頼りにしてます」
肩に力が入っていたことに気付き、息を吐きながら力を抜いていく
大きな扉の前に付いた
この奥が玉座の間なのだろう
ゆっくりと騎士が扉を開けると、白を基調とした金と赤で装飾され、大きなシャンデリアが輝く豪華な広間が目にはいる
奥には玉座があり、まだ王は座っていない
総師を先頭に、柚子を抱えたままのジオラルドが続く
玉座の間に入ってみると、人の多さに驚いた
騎士や貴族達が100人程並んでこちらを見ている
凄い威圧感……怖い
手をぎゅっと握りしめ体を強ばらせていると、前を見据えたまま進むジオラルドが優しくぽんぽんと背中を叩いた
そうだ、落ち着け
ゆっくりと息を吸って、またゆっくりと息を吐く
玉座まで後3mぐらいまで進んだ所で皆が横並びになり、ジオラルドは柚子をおろし、膝間付いた
柚子も慌てて両膝を床につける
玉座の横の扉から王が出てくると同時に周りの騎士や貴族も膝間付いて頭を下げた
椅子の軋む音が聞こえ、王が声を上げる
「顔を上げよ」
ジオラルドと総師の様子を伺いながら立ち上がり、王を見る
目が合うと王は優しく微笑んでいた




