初めての魔法
転送した先は総師の部屋だった
無事に転送できた事にほっとしつつ、総師を見ると隣にはリフィアンもいた
「転送酔いは大丈夫のようじゃの」
総師が予め出しておいたポーションをマジックバッグに仕舞う
「柚子ちゃーん!今日も小さくて可愛いね♪」
急にリフィアンに抱き上げられ頬擦りされる
「リフィアンさんくすぐったいです!」
柚子の訴えはリフィアンの楽しそうな笑い声に掻き消された
「リフィアン様、柚子様が困ってらっしゃいます。落ち着いて下さい」
リフィアンはラリマーの言葉に残念と呟き、漸く柚子をおろした
「総師、リフィアンさん、こんにちは」
気を取り直して挨拶する柚子に二人が微笑み挨拶を返す
「リフィアン様はどうしてこちらに?」
「柚子ちゃんが魔法の勉強するって聞いたからね♪見に来ちゃった!」
「そういう事じゃ。時間が勿体ないので早速始めるぞ」
柚子とリフィアンがソファに座ると総師は棚の中から透明な掌サイズの水晶を2つ持ってきた
「魔法の事は何かジオラルドから聞いておるか?」
「少しだけ。後は本を読みました」
属性の事や使い方等柚子が本で得た知識を総師に伝える
「ふむ。それだけわかっておけば後は追々で大丈夫だろう。よく勉強したな」
偉いぞと総師に頭を撫でられてくすぐったい気分になる
ここに来てからよく頭を撫でられるな……
子ども扱いでちょっともぞもぞするけど、嫌じゃない
「この水晶は魔力量、こちらは適正を調べるものじゃ」
小さなクッションの上に水晶を置いて、総師が向かいのソファに腰掛ける
「先ずは魔力量から調べようかの」
手を当てて魔力を流してみなさい、と水晶を一つ柚子に近づけた
魔力を流すっていうのが良くわからないんだけど、手を当てればいいんだよね
恐る恐る水晶に触る
皆身を乗り出して水晶を見ている
掌から何かが流れていく感覚があり、水晶の中に白い靄が出てきた
あっという間に靄が水晶の中に充満する
「これは……」
総師が呟いた後、水晶を見て皆が黙っている
何?どうなるのが正解かわからないから怖いよ!
誰か何か言ってよ!
「あの……」
沈黙に耐えられなくなった柚子が総師に声を掛けるが、総師は動かない
「これは……なんじゃ?」
漸く声を出した総師に私が聞きたいんだけど……と戸惑う
「初めて見る現象ね」
リフィアンはいつもの笑顔を消して水晶を見ていた
ラリマーを見上げてみるが、口に手を当て固まっている
何か不味いことしちゃったの?
不安になり手を離すと、水晶は元の透明に戻った
「故障か?」
総師が水晶を手に取ると、水晶の中に水が涌き出てくる
水は水晶の8割まで貯まると止まった
「ふむ……故障ではないようじゃが……。まぁ良い。今度は適正を調べてみよう」
もう一つの水晶に手を当てるが、結果は先程と同じで靄が水晶に充満する
「……これはなんじゃ?」
先程と同じ問いに、だから私が聞きたいんだって!と心の中で訴えた
数秒の静寂の後、リフィアンが急に笑い出した
「あははっ!異世界からきたって聞いてたから何か面白い事が起こるんじゃないかと思ったけど予想以上だったわ!総師すら見たことない現象が起こるなんて……はー、おかしい」
目元を拭いながら笑うリフィアンに不安が増す
柚子の不安そうな顔を見ると総師は慌てて説明した
「不安にさせてすまなかったな。本来ならこのように適正がわかるはずじゃったんだが」
総師が水晶に触れると、白、水色、緑、茶色の光の玉が水晶に現れた
私の時と全然違う……
「まぁそなたは異世界の者だからの。我々とは何か違うのじゃろう。……だが聖女にはこんな現象は起こらなかったはずじゃが」
最後の方は総師の声が小さすぎて聞き取れなかったけど、私がこの世界の人間ではないことが関係してるみたいだ
「私、魔法使えるようになりますか?」
不安が消えないまま総師を見上げる
「わからんが大丈夫だろう。ちと場所を変えて試してみようかの」
総師は演習場に向かうぞ、といい柚子を抱き上げ扉の魔方陣に触れる
転送してきたのは広いドーム型の建物だ
下が土になっていて奥の方には射撃場の的のようなものがある
「ここは魔術師が魔法の練習に使っている場所じゃ。この建物は特別な魔法が掛かっていて大きな魔法を使っても壊れる事はない」
総師が柚子を下ろす
リフィアンはいつの間にか居なくなっており、ラリマーのみ一緒に転送したようだ
「適正がわからぬので一つずつ順番に試していこう。と、その前に詳しく説明をしておこうかの」
総師の説明によると魔法の使い方は主に三種類ある
上の句と下の句を合わせて詠唱して発動させる詠唱魔法、技名のみで発動させる詠唱破棄、言葉を発っさずに発動させる無詠唱魔法だ
本に書いてあった通り最初は詠唱魔法で練習し、感覚とイメージを掴むところから徐々に無詠唱の練習をするようだ
詠唱すると自動的に体内の魔力が変化し、技名で発動するよう出来ているらしい
「先ずは儂が使える属性から試してみるぞ。儂に続いて詠唱しなさい」
魔法と聞いてわくわくしてたけど、いざ詠唱するとなると恥ずかしいな……
総師が詠唱を始める
「我は乞う、揺蕩う流れに逆らい我が身に集え『水泡』」
掌サイズの水の玉が数個浮かび、総師の周りをゆっくりと漂っている
「次はそなただ」
総師の言葉に覚悟を決めて詠唱する
「我は乞う、揺蕩う流れに逆らい我が身に集え『プラーゼ』!」
体から何かが僅かに抜けていく感覚があった
成功した?
体を見下ろすと豆粒サイズの水の玉が10個ほど浮かんでいた
小さい!けどちゃんと成功した!
嬉しくなって総師を見ると笑顔で頷いてくれた
「最初はこんなものだろう。水の適正があるようじゃの。では次じゃ」
総師に続いて風、土、光の魔法を詠唱し、どれも規模は小さいが発動させることができた
「ふむ。後は火と雷じゃな。ラリマーお願いできるか?」
「畏まりました。柚子様、参りますね」
「お願いします!」
頷く柚子を確認し、ラリマーが詠唱する
「我は乞う、熱く赤く滴る血潮よ舞踊れ『火球』」
ボッという音と共に赤い火の玉がラリマーの周りに現れる
「我は乞う、熱く赤く滴る血潮よ舞踊れ『ケルンツェ』!」
柚子の周りには蝋燭の火のような頼りない火の玉が浮かんでいた
「成功ですね。最後は雷属性です」
ラリマーが詠唱すると、凄まじい音と共にラリマーの手から雷が前方に広がった
柚子も同じように詠唱したのだが、静電気のような小さな光が出た程度だった
なんかどれも小さいし格好良くない……
最初は魔法を使えたことに感動していたが、総師達との違いに落胆する
「適正は全属性あるようじゃな。……そんなにがっかりせずとも練習を重ねていけば良い。体が怠い感じはないか?」
「大丈夫です」
がっかりはしたが、体調の変化は全くない
「ふむ。威力はあれじゃが魔力量はあるようじゃな。ならば良い。もう少し練習しても良いのじゃが、初日だからこの辺で辞めておくか?」
「もう少し練習しても良いですか?」
このまま終わるのはなんだか悔しい
威力はあれじゃがなんて言われたし……
「構わぬぞ。儂は部屋に戻るがここは自由に使って良い。体の怠さを感じたらすぐに止めるように」
「わかりました。今日はありがとうございました」
頭を下げると総師は頑張り過ぎんようにな、と頭を撫でて転送していった
練習するとはいったけど満遍なくするか、属性を絞ってするか……
柚子が考え込んでいると、ラリマーがしゃがんで目線を合わせる
「一般的に風魔法が使いやすいとされていますので、風魔法を重点に練習しては如何でしょう」
「ありがとう!そうする」
ラリマーの助言を受けて風魔法を練習することにした
確か風魔法の詠唱は……
「我は乞う、天の息吹を巻き上げ我が四肢となれ『旋風』!」
そよ風が柚子の髪を踊らせる
総師が発動させた時は総師の周りに小さな竜巻が起こったのだが、柚子が使うと心地よいそよ風にしかならない
何が違うの?
「柚子様、体から魔力が流れる感覚を掴みながら練習した方が効果的ですよ」
魔力が流れる感覚か……何かが抜けていく感じはあるんだけどそれの事だよね?
どうやったら感覚を掴めるのかな……
その後ラリマーに宿舎に戻ろうと言われるまで何度も魔法を使ってみたが、感覚を掴めることなくそよ風をひたすら吹かせた
がっかりしながら馬車に乗って宿舎へ向かう
最初の魔法はラリマーもあの程度だったか聞いてみたのだが、困ったように笑って言葉を濁された
私には魔法の才能ないのかも……
気分が落ちたまま食堂に向かうが、夕食を食べて癒された
食事を取った後はいつものようにシャワーを浴びてベッドに入る
明日はいよいよ王様にプレゼンだ
今日の事は一旦忘れて明日は集中しよう
そう考えて眠りに落ちた




