夕食作りの前に
昼食を取り終わり、皆が席をたっていく
「柚子、そなたも疲れたのではないか?夕食を作るとは言っていたが休んだ方が良いと思うのだが」
ジオラルドの気遣いを嬉しく感じるが、柚子は首を振る
「ここからが本番なんです!私は頑張りますよ」
頑なな柚子にジオラルドは「そうか」と言って頭を撫でた
「私は執務室で仕事をしているから、何かあればすぐ報告しなさい」
「ちょっと待ってください!」
席をたつジオラルドを慌てて引き留めた
「どうした?」
「料理人の方達の格好が気になって……もう少し清潔な服装で料理してもらえると助かるんですが……」
汚いとは言いにくいので少し言葉を濁す
本当は髪とかも綺麗にしてほしいんだけどね
「ふむ……わかった。清潔な服だな。風呂も入らせよう。ラリマー、服を用意出来るか?」
柚子の思考を読み取るかのようなジオラルドに驚く
「すぐご用意致します」
ラリマーが一礼する
ついでだ。要望は全部伝えてみよう
「あのっ出来れば服の上から着るエプロンというか、作業着のような物もあると嬉しいです」
「エプロンですか……すぐには無理かもしれませんが出来るだけ早く準備致しますね」
ラリマーは柚子に笑顔を向け、どこかへリーファンを飛ばす
その後ジオラルドは料理人達に宿舎の風呂に入るよう指示をだし、執務室へ戻った
「柚子様も一度お召し物を変えませんか?体もお拭きいたしましょう」
言われて自分の服に視線を落とすと、服の至るところに汚れがついていた
掃除に夢中で服の事忘れてた
折角の可愛い服を汚しちゃった!
「ラリマーさん服を汚してしまってすみません。妹さんの大切な服なんですよね」
ラリマーを見るといつの間にか着替えていたようで、エプロンもワンピースも清潔そのものだった
「いえ、それは新品なのでお気になさらず。それと柚子様、私の事はラリマーとお呼びください」
ふふっとラリマーが笑う
新品!?もっと申し訳ないよ……
ラリマーと呼べって、何か発音が間違ってたのかな?
「えと、ラリマーさん?」
ゆっくり確かめるように名前を呼ぶ
「さん、は要りませんよ。私は侍女なのですから」
「えっでも……お世話になってるし、呼び捨ては出来ませんよ!」
無理無理っと首を振って断ったがラリマーも譲らない
「困りましたね……敬称を付けて呼ばれていると他の侍女に知られたら、私が怒られてしまいます」
頬に手を添えて困ったように小首を傾げる
さん付けで呼んでるだけで怒られちゃうの!?
それは困る
なるべくラリマーの負担にはなりたくないのだ
「えと、じゃあ……ラリマー」
恐る恐る呼んでみると、ラリマーは嬉しそうに微笑んだ
「はい、柚子様。それと話し方も丁寧な言葉ではなく、普通の言葉でお願い致しますね」
笑顔でさらりと難しいことを言われた
「敬語も駄目なんですか?」
「はい。怒られてしまうので」
楽しそうに笑うラリマーに、もしかして遊ばれてる?と思ったのだが怒られるのなら仕方がない
「わかりま……わかった。ラリマー、一度部屋に戻ろう」
大分ぎこちないが、この世界に来てからずっと敬語だったので慣れないのだ
「かしこまりました」
嬉しそうに笑うラリマーにつられて柚子も笑顔になる
ラリマーも嬉しそうだし、お姉ちゃんだと思って接すればいいか
息を切らしながら部屋に戻り、体を拭いてもらって新しい服に着替えた
拭いてもらう時も自分で出来ると訴えたのだが、ラリマーに仕事を取らないで下さいと言われてしまい渋々お願いしたのだ
やっぱり恥ずかしい……けど慣れなきゃ駄目なんだよね
新しい服は、七分丈の袖と腰が締まったパフスリーブの青いシンプルなストレートタイプのワンピースだ
料理が出来るよう動きやすい服にしてくれたようだ
掃除してる時にも思ったけど、髪が邪魔だな……
柚子の髪は腰までの長さがあり、動くときに邪魔だし、このまま調理するのは不衛生だ
「ラリマー、髪ゴムってない?」
「かみごむ、ですか……初めて聞く単語ですね。どの様なものなのですか?」
この世界に髪ゴムはないのか
「髪を結んで上げるときに使うの。髪が邪魔で……」
ラリマーは成る程と頷くと、柚子を椅子に座らせ背に回る
「柚子様少し失礼しますね」
腰に付けているポーチから何かを取り出し、柚子の髪を櫛でといでいく
「リボンなどは直ぐ解けてしまいそうなので、この髪留めを使いますね」
ラリマーの手に置かれていたのは、小さく楕円形の赤い髪留めだった
バナナクリップに似ており、中心に向かういくつもの突起と、がま口の様な留め具がついている
編み込みをしながら頭の高い位置で一つに纏めると、パチリと髪留めをはめた
「柚子様、如何ですか?」
頭を少し振ってみたが、解けそうな感じはない
流石ラリマーだ
「ばっちり。ありがとう!」
「喜んでいただけて良かったです」
ラリマーは満足げに笑うと紅茶を入れた
紅茶を飲んで一息つき、また食堂に降りていった
厨房に入るとボルダー以外全員揃っており、皆風呂に入って清潔な服を着ていた
髭も剃っていて顔つきもさっぱりしており、清潔感が溢れている
朝とは別人のようだ
「皆さんお疲れかとは思いますが、晩ごはん作りのお手伝いよろしくお願いします!」
頭を下げる
「ここまでされちゃ嫌だとも言えねぇよな」
「そうだな。仕方ねぇから手伝ってやるよ」
今度は誰からの反発もなく、朝とは違い皆快く手伝ってくれそうだ
掃除とお風呂効果かな?何にしても良かった
ほっとしたが、ボルダーの事が気になった
「あの、ボルダーさんは戻ってきてないんですか?」
柚子の質問に部屋の空気が暗くなる
「多分今日はもう来ないよ。俺達で説得してみるから気にしなくて良い」
グナールが答え、他の男達も頷いている
「わかりました。お願いします」
気にしていても仕方ないか……
気を取り直して料理開始だ!
「皆様、此方をお付けください」
ラリマーがいつの間にかエプロンを持っていた
すぐには準備出来ないかもって言っていたのに……優秀過ぎない?
というか何処から取り出したの?
感心している柚子を他所に、男達は真新しい白いシンプルなエプロンをつける
首に掛けて腰ひもを結ぶタイプの長いエプロンだ
「なんかこれいいな」
「格好いいかも」
エプロンは男達にも好評だ
「柚子様はこちらです」
ラリマーから付けてもらったエプロンは胸元や丸くなった裾等にフリルがついた可愛らしいものだった
可愛いけど、これ似合ってないんじゃない?
不安になり男達を見ると「嬢ちゃんも似合ってるな!」「可愛いぞ」と褒めてくれた
子どもだから何でも似合うのかな?
まぁ変じゃないならいいや
「そういえばお二人の名前を聞いてませんでした。私は柚子と言います。お名前お聞きしてもいいですか?」
柚子の丁寧な言葉に男達は驚きつつも答えてくれた
「俺はアイド」
「俺はクレースだ。よろしくな柚子ちゃん」
二人ともグナールより少し歳上の30代前半くらいで、アイドは赤銅色の髪と目をした背の高い大柄で寡黙そうな男で、左足を引きずって歩いている
柚子にウインクして手を上げたクレースは、若草色の髪をオールバックにしており、長身の少しほっそりした男だ
後で聞いた話だが、クレースは怪我をした訳ではなく遠征の過酷さに付いていけず、自ら志願して料理をしているらしい
クレースの言う過酷さとは女の子と遊べないというものだったのだが、聞かなかったことにした
食材を取りに行く前に手をしっかり洗うことを指示し、綺麗になった食糧庫へ向かった




