現状把握
信じられない!何よあの惨状は!
食糧庫のあまりの酷さに怒りが沸々と沸き上がる
あんな不衛生な環境で料理してたら病人が出てもおかしくない
というか今まで隊員達は食中毒とか起こさなかったの?
怒りに身を任せてどんどん階段を登っていく
端から見たら壁伝いにちまちま歩いているように見えるだけだったが、柚子はこれでも全力だ
4階につく頃には息がきれ、怒りも少し収まり冷静になる
ジオさんはあの惨状を知っていて放置しているの?それとも……
息を整えつつ、後ろを渋々着いてきているグナールをちらりと見る
今はとりあえず直接会って聞かなきゃ
ラリマーがノックする前に執務室の扉を背伸びして開け放つ
「ジオさん!」
「柚子……扉はノックしてから開けるものだ」
執務机で仕事をしていたジオラルドはため息をついてペンと書類を起き、立ち上がった
「そんな事よりジオさん、大変なんです!」
どうやら冷静になりきれていなかったようだ
「大変?どうしたのだ」
ジオラルドは慌てて柚子に近づくと、開け放たれた執務室の扉の外に男を見つける
「お前は…」
「…副団長、ご無沙汰しております」
グナールが頭を下げる
「あれ?グナールさんと知り合いなんですか?」
ジオラルドは普段は殆ど食堂を利用せず、執務室で食事を取っていると聞いていたが面識があったのか
ちなみに食事は隊員達が交代で運んでいるらしい
「ああ。2年前まで第2騎士団に所属していた者だ。遠征先で怪我をしたと……」
グナールの格好を見て、ジオラルドの表情が曇る
「足を悪くしてからはここの厨房でお世話になってます」
グナールは右足をとんとんと叩くと、諦めたように笑う
「そうか。食堂の人員は団長に一任してるので把握していなかった。いつも食事を助かっている」
ジオラルドの言葉にグナールは頭を下げる
なんだか微妙な空気……
グナールさんは元々は隊員だったのね
それで怪我をして今は厨房で働いてるってことか
「柚子、何か大変だと言っていたが何があったのだ」
グナールから視線を反らすと、柚子の前にしゃがんで目線を合わせた
「そうだった!大変なんですよ!厨房が汚れていて、食糧庫も酷くて!
あんな状況じゃ駄目です!みんな病気になって美味しい食事どころじゃないんです!」
「厨房?食糧庫?……柚子、一度茶を飲んで少し落ち着きなさい」
ジオラルドが柚子をソファーに促すと同時に、ラリマーが紅茶を入れてくれた
座って温かい紅茶を飲むと、興奮が収まってくる
ふぅーと息をつくとジオラルドも隣に腰かけた
「グナールにも関係のある話しなのだろう?グナールも掛けなさい」
「いや、この服ですしソファーが汚れます。俺はこのままで大丈夫なので」
視線を下げたまま首を振るグナールにジオラルドはため息をついた
「構わぬから座れ。立たれていては話がしにくいのだ。ラリマー、彼にも紅茶を」
「かしこまりました」
素早く紅茶が用意されると、グナールは諦めたように渋々ソファーへ浅く腰かけた
ジオラルドが柚子の顔を覗き込む
「落ち着いたか?」
「はい。ありがとうございます」
もう一口紅茶を飲み、カップを置いた
「ゆっくりでいいから始めから説明しなさい」
ジオラルドがぽんぽんと頭を撫でる
「はい。」
柚子はスープを作ろうと思ったこと、食糧庫へ行くことになった経緯、厨房や食糧庫で見たものをジオラルドに説明した
「なるほど。そこはそんなに酷かったのか?」
ラリマーに視線を向ける
「そうですね。多分国の中でも随一ではないでしょうか。私から見ましても、あの惨状を見た後は食事を取りたくなくなってしまうかと」
ラリマーは笑顔をつくってはいるが、眉根を寄せている
「ジオさん。料理は衛生環境がとても大切なんです。あんな環境じゃ隊員の皆が病気になっちゃいます」
ジオラルドの袖を引っ張りながら懸命に訴える
「わかった。とりあえず見に行ってみよう。グナールもそれで良いな」
「はい」
グナールが頷くと、ジオラルドは立ち上がり柚子を抱き上げ厨房に向かった
厨房に入るとやはり他の男達はおらず、汚れた食器や調理器具はそのまま放置されている
台車に入った食材ももちろんそのままだ
「ふむ。汚いな」
ジオラルドは柚子を抱き上げたまま、顔をしかめて厨房を見回す
「ジオさん、隊員の方がご飯を食べて体調不良になったりはしてないんですか?」
改めて見てみると、壁も床も長期間掃除していないようだ
至るところに汚れがこびりついている
「体調不良を訴える隊員は何人も出ているが……食事が原因かはわからんな。そもそも体調を崩す者は日常的に何人か出るものだぞ?」
どうやら体調を崩す隊員は多いようだが、食事が原因とは思っていないようだ
「何人も!?日常的に!?それで何で気がつかないんですか!全てがとは言いませんが食事も主な原因の一つですよ!」
「治癒師に治療してもらえば直ぐに治るからな。考えたこともなかったが……」
ふむ、と少し考え込んでから次に食糧庫に案内するようグナールに命じる
ずっと黙り混んでいたグナールが厨房の奥に無言で向かう
ラリマーは先程のように柚子の口許に白い清潔な布を当てた
グナールが食糧庫の扉を開けると、腐敗臭が厨房に充満する
ジオラルドは胸ポケットからハンカチを取り出し鼻と口を覆い、グナールに続いて食糧庫に入った
「これは……」
ジオラルドは絶句して食糧庫の惨状を目の当たりにした
先程は棚の中しか見ていなかったが、こちらの床や壁も酷い有り様だ
「明らかに腐敗したものもあるが、これらはどうしているのだ」
ジオラルドの質問にグナールは目を会わせず
「月に一度まとめて処分してます」と答えた
月に一度……
あまりの実態に目眩がする
「……」
ジオラルドは一度奥まで行って全体を見た後、素早く食堂まで戻りリーファンを飛ばした
「柚子の言うとおりだ。これは酷すぎる。グナール、他の者たちも全員呼んで来い」
グナールはジオラルドの言葉に一瞬頭をあげたが、また目をそらして「はい……」と短く返事をしてどこかへ走っていった
「ジオさん、どうするんですか?」
リーファンを飛ばしていたから誰かを呼んでいるのだろう
ジオラルドの様子を見て、事態が言い方向に向かっていくことを期待する
「第2遠征隊と訓練生を呼んだ。直ぐに来るだろう」
ジオラルドの言葉の直後、ドタドタと何人もの足音が近づいてきた
「副団長!緊急事態と伺いましたがどうされたんですか!」
ばたんっと食堂のドアを勢いよく開け、汗だくの隊員と訓練生達が食堂に押し寄せる
「訓練中に呼び出してすまんな。早速だが皆で厨房と食糧庫の清掃を行う」
ジオラルドの言葉に、集まってきた人たちはポカンと口を開けた
「いえ、それは大丈夫なんですけど……なんでいきなり掃除?しかも厨房と食糧庫って……」
ベリルを先頭に、隊員達は顔を見合わせた




