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思いつきと食糧庫

翌朝、ラリマーに起こされ顔を洗って服を着替える

今日は袖にふんわりとしたフリルのついた白いシャツに、幅の広い肩紐のついた紺の膝丈のプリーツスカートだ

ラリマーって実はお金持ちの家じゃないかな

服が高級な感じがする


ちなみに洗面所には踏み台が設置されていた

仕事が早い


「柚子様、朝食は部屋で取られますか?」

昨晩の夕食を思い出す

見られながら一人で食事するの落ち着かないんだよね

「食堂に行きます」


「かしこまりました」


ラリマーと共に食堂に向かう

壁を支えにして一段一段慎重に階段を降りるのをラリマーは心配そうに後ろから見ている

途中で抱えましょうかと言われたが断った


ジオさんには甘えてしまってるけど、自分で出来ることは自分でしなきゃ!

無事に食堂に付くと、数人の隊員が食事をしていた

柚子に気づくと皆嬉しそうな顔をして

「柚子ちゃん!おはよう!」

「今日の服も良く似合ってる」

「昨日よりちっちゃくなった?」

と声をかけてくれた

一人一人に答えてから昨日昼食を取った席につく

クッションは置かれたままだった

食事を運んでもらい、流し込むように食べる

メニューは昨日と全く同じだ


いつになったら美味しい料理を食べられるんだろう……

塩気の強いスープを飲みながらため息をつく

せめてこのスープだけでもどうにかならないかな

と考えていると、思い付く

私が作ってみれば良いんじゃない!?

お母さんが病気した時からずっと食事は作ってたんだから、限られた材料でも工夫次第でどうにかなるかもしれない

もし失敗してもこれより酷いものは出来ないはず……多分


食事を終え、早速ラリマーに相談してみた

「スープを、柚子様が……ですか?」


「そうです!」

力強く頷く

ラリマーは暫く考えた後、了承してくれた

「厨房に案内しますね」


「お願いします!」


ラリマーが向かったのはカウンターの横にある扉だ

「こちらが厨房です」


ラリマーが厨房の扉を開けると、隊員達にも引けを取らない体格のよい男達が四人、木のビールジョッキを持ち小さな椅子に座ってこちらを見ていた

「なんだぁ?ここは女、子どもが来る場所じゃねーぞ」

男達の中でも一番歳上の男が声を荒げる


うわぁ、柄が悪い

もしかして朝からお酒飲んでるの?


隊員達は厳つい顔をしてはいても割と愛想はよいが、この男達はやさぐれた様子で柚子達を睨み付けている


この人達が料理を作ってるのかな?

厨房に来たことを少し後悔していると、ラリマーが柚子に背を向けて男達の前に立った

「この方は王の命により第2騎士団で庇護しているお方です。口の聞き方には気を付けてください」


ラリマーさん!頼もしい!

というか私ってジオさんじゃなくて第2騎士団で面倒見てくれてる事になってるんだ


「それで?そんなお方が何をしにこんなところへ?」

ラリマーの言葉に堪えた様子もなく、男達は馬鹿にしたように笑いながらビールジョッキを口に当て、ぐいっと飲み干した


怯んじゃ駄目だ、頑張らないと

「いきなり来てすみません。突然なんですが、昼食のスープ作りを私に任せて下さいませんか?」


柚子の言葉に男達は声を上げて笑いだす

「スープ作りを任せろだぁ?そんなちっちぇ体で何を作るっていうんだ」


うっ。確かにこの身体じゃキッチンにすら立てない……


厨房は広く8畳程あり、右側に流しやまな板、その隣に古びた調理器具が乱雑に重なっている

左側には釜戸やガス台が並んでいるが、どれも高く踏み台なしには届かないし、届いたとしても力が足りずまともに料理は出来ないだろう

厨房を見回して見ると、まな板や包丁は洗わずに放置してあり、ガス台も汚れが酷く元の色がわからないほどだ


厨房の汚さは気になるけど先にこの人達を説得しなきゃ!

「それじゃあ私と一緒に作ってもらえませんか?美味しい食事を食べるためなんです。お願いします!」

頭を深く下げる


「美味しい食事だって?意味がわからねぇよ」

「なんで俺たちがお前みたいな子どもに従わなきゃならねぇんだ」

「食事に美味しさなんて誰も求めてねぇよ」

誰一人として協力してくれる気はないらしい

先程から何を言っても馬鹿にしたように笑われるだけだ


なんで?美味しいものを食べたいって思うことは悪いことなの?

私のやってることはは只の我が儘なの?

確かに美味しく食事をしたいと言ってもすぐに賛同してくれる人はいなかった

誰もが今の食事が苦痛だと思っていてもこれが普通で、変えようと思ったこともないのだろう

だけど、只の我が儘だとしても私は皆で美味しいねって言いながら食事をしたい

苦痛なだけの食事なんて嫌だ!

だけど言葉が出ない


「先程言葉に気を付けてと言ったのが聞こえなかったのですか?

それと、ジオラルド様から柚子様のご要望は出来る限り叶えよとの命を受けています。従わないならその旨報告いたしますが宜しいですね?」

ラリマーが笑顔を消して男達に詰め寄る


ラリマーの言葉に男達は一瞬たじろぎ

「やりゃあいいんだろ」としぶしぶ了承してくれた


ラリマーが頼もしすぎる

本当は納得してから手伝って欲しかったんだけど仕方ない

私はまだこの世界の事を知らなすぎて、彼らに届く言葉がわからないのだ

こうなったら実際に食べてもらって納得させるしかない

きっと美味しいものを食べてみれば有用性に気づくはずだ

気合いをいれないと!


「よろしくお願いします」

もう一度頭を下げる


「んで、何をやればいいんだ」

男達の中で一番若い者が頭をガシガシ掻きながら立ち上がる

歳は20代中盤くらいか、手入れされていないボサボサの長めの茶色い髪、無精髭を生やし、髪と同じ色をした目にはあまり生気が感じられない

服も所々破けており、汚れも目立つ


「まずは使える食材を見に行きたいです」

もしかしてこの格好で料理してるの?まさかね……


「んじゃ食糧庫だな、ついてきな」

そう言って厨房の奥に歩きだすが、男の歩き方がぎこちない

手で左足を押さえて右足を引き摺っている


食糧庫は厨房の奥の扉から行くようだ

厨房の奥へ進むと、腐った生ごみのような匂いがしてくる


何?この匂い……

もしかしてこの奥が食糧庫とかじゃないでしょうね


男が扉を開けると匂いが一気に強くなる

柚子は鼻と口を手で押さえた


そして広がる光景に絶句する

なにこれ……酷すぎる


そこかなり広く、小学校の体育館くらいの広さがありそうだ

入り口は部屋の右側に当たるようで、左側に横に長く続いている大きな棚が幾つもあるが、その全てに食料が乱雑に置かれており、奥の方は見えない

ちらりと一番手前の棚を見ると、明らかに腐敗しているであろう野菜の様なものからポタポタと汁が棚を伝っていた

「柚子様、失礼します」

ラリマーが白い布を三角に折り、柚子の鼻と口が隠れるように塞いで頭の後ろで結ぶ

多少ましになるぐらいだが、ないよりいい

「ありがとうございます」

お礼を言い、入り口にあった三段に別れている大きな台車を押しながら歩いていく男に続いて奥へ行く

奥の棚には大量の干し肉と黒パン、樽が50個程並んでいた

「干し肉と黒パンはここから古そうなのから適当にとるんだ」

男はぽいぽいと干し肉と黒パンを台車の一番下に投げ入れていく


えっと……ここは生ごみ部屋じゃないんだよね……

皆ここの食材を毎日食べてるってこと?


柚子の思っていた食糧庫とあまりにもかけ離れ過ぎていて、男の動きを呆然と見つめることしか出来ない


「この樽は酒と油だ。酒は隊員達も飲むが油は面倒だから殆ど使ってない」

そして更に奥に進む男に慌てて付いていく


一番奥には比較的新しそうな野菜、そして一番奥には新鮮そうな肉の殆どついていない骨付き肉が置いてあった

骨付き肉の置いてある棚の隣には扉がある

恐らく搬入口だろう

「この骨つき肉はスープに使う。これだけはその日入ってきたものを使ってる。何でかはわからねぇが骨つき肉は保管しなくてもいいらしい。まぁほぼ骨だけどな。んでこっちの野菜は新しいから使えねぇ」

そう言いながら台車の二段目に骨付き肉を乗せる


「後は入り口近くにある野菜を取ったら終わりだ」

男はくるりと台車を反転させ、入り口に戻っていく

柚子とラリマーも男に付いていく


男は入り口近くの棚まで戻ると腐敗した野菜には目もくれず、色が悪くなっている葉物や、芽が出ている人参、じゃが芋等を台車の一番上に積んで厨房に戻った


柚子とラリマーが厨房に戻ると男は台車を放置し、座ってまた酒を飲みだす

他の男達はいなくなっていた

「食料はこれぐらいだ。後は何をするんだ?」


何をする?こんな不衛生な環境で美味しい料理なんて作れるわけがない!

想定外の事態だけど予定変更だ


「ラリマーさん、ジオさんに会いに行きます。あなたも……えと、お名前をお聞きしてもいいですか?」

男の名前を聞いていなかった事に今更気づいた

「……グナールだ」


「グナールさんも一緒に来てください」


「は?なんで俺が……」

「いいから!早く!」


グナールの言葉を遮って、食堂の方に向かう

ラリマーは「かしこまりました」と返事をし、ちらりとグナールを睨むと食堂に続く厨房の扉を開いた

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― 新着の感想 ―
[一言] 召喚頻度が少ないから仕方ないのかもしれませんが………その食料庫、日本人だとほぼ許せないな。 多分、例の再起不能な元騎士団員なんでしょうけどやっぱり王国の法律が害悪すぎるな。
2020/01/28 07:53 退会済み
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