ヒルデベルト王国と侍女
総師は私の話を真剣に聞いて、考えてくれた
協力してくれるかはまだわからないけど、他にも人を集めると言っていたし期待して良さそうだ
そして魔法の教育までしてくれるという
魔法だって!さすがファンタジー!私にも使えるといいなぁ
自分が魔法を使う所を想像するとにやにやが止まらない
宿舎の執務室まで総師に送ってもらい、今はソファーに座りながらジオラルドの仕事が一段落するのを待っている
「待たせた。何やら嬉しそうだな」
無表情のジオラルドが柚子の前のソファーに座り、紅茶を飲む
「はい!総師様が協力してくれるかもしれなくて……後、魔法も教えてくれるそうなんです!」
「それは良かった。私も出来る限り協力しよう」
おお!協力者二人目ゲット!
ちなみに法律を変えたい旨はもう伝えてある
仕事をしながら私の話を聞き、時々驚いたように固まってまた書類に目を落とす様がなんだか面白かった
「ジオさん、この国の地図ってあります?」
「ある。少し待っていなさい」
大量の書類が並んでいる本棚の下の引き出しから紐で括られた紙を取り出すと、それをテーブルに広げて見せてくれた
この国は一つの大陸で出来ているようだ
形はオーストラリアに少し似ていて、中央辺りに王都があるようだ
地図に王冠のマークが描いてあるのでわかりやすい
初めて見る文字なのに読める!
不思議だけど助かる。良かった
「ここはツェンダウルムっていうんだ」
文字を指差して呟く
「柚子は文字が読めるのか。賢いな」
柚子の隣に座り詳しく説明してくれた
ジオラルドによると、この王国は中央のツェンダウルムを中心に、北のノルダム、南のウェルデン、西のフルシェリア、東のラーゴナースという五つの都市で構成されており、それぞれに異なった特徴がある
ツェンダウルムは王都と呼ばれ、王城があり五つの都市の中でも人口が最も多い
ノルダムでは鉱石がよく取れ、鍛治が盛んな都市
ウェルデンは農業が盛んな土地で、内陸部では砂糖が栽培されている
フルシェリアは王国唯一の貿易港があり、大きな川と広大な湖が広がり水の都として観光客が絶えない
ラーゴナースは殆どが森で覆われており、魔物も多いため魔石をとりに冒険者達が多く集まる都市だ
「ジオさん、この国の人口密度ってどれぐらいかわかりますか?」
「人口密度とは何だ?」
ジオラルドの眉間に皺が寄る
人口密度という言葉はこの国にないのか
「んーと、1平方キロメートルあたりにどれぐらいの人が住んでるかって事なんですけど……」
地図から目を離し、ジオラルドを見上げる
「……へーほーきろめーとる?わからんな」
伝わらないか、難しいな
「じゃあ、住民の数に対して土地が足りてないとかってあります?」
「ないな。人口が一番多い王都でも土地は余っている」
柚子の言いたいことがやっとわかったと頷き、言葉を続ける
「食料を保管する場所があるか確認しているのか」
「そうです!土地がなかったらまた新しい案を考えようと思っていたんですが大丈夫そうですね」
「そうだな。……今日はもうその話しは終わりにしよう。合わせたい者がいるのだ。」
「合わせたい人ですか?」
誰だろう……また偉い人とかかな?
「そろそろ来ると思うのだが」
ジオラルドが地図を片付けていると、ドアがノックされる
「入れ」
「失礼いたします」
一礼して入ってきたのは総師の所にいた侍女と同じ格好をした、20代前半の可愛らしい女性だった
合わせたい人ってこの人?
髪と瞳は淡い青で柚子を見つめる目元が優しい
「本日より柚子様のお世話をさせていただきます、ラリマーと申します。柚子さま、よろしくお願い致します」
「へ?お世話?私の?」
柚子様って……話が急展開でついていけない
「ああ。君の侍女だ。従者をつけると昨晩伝えたはずだ」
言われた?言われたような気もするけど全く気にしてなかったよ!
「君の服も彼女が用意してくれたものだ」
あっ良かった
ジオさんが用意した訳じゃなかったのね
「ありがとうございます。えと……よろしくお願いします?」
「こちらこそ。歳の離れた妹が居りまして、僭越ながら妹が4歳の時に着ていた者をお持ちしたのです。サイズがあっていたようで安心いたしました」
4歳……私そんなに小さくなってるのね
少しショックだ
「早速ですが柚子様、湯浴みに参りましょう」
ラリマーは終始笑顔だ
ゆあみ……お風呂か!
嬉しい!そういえば昨日は寝ちゃってたから入ってなかったんだよね
「行きたいです!お願いします!」
嬉しい!とソファーを勢いよく立ち上がると、ラリマーがふふっと笑った
「柚子様は大変活発でいらっしゃるのですね。異世界から来たと聞いて塞ぎ込んでいらっしゃるんじゃないかと心配しておりました」
「それは……ご心配ありがとうございます」
少し恥ずかしくなって視線を下げる
子どもみたいにはしゃいじゃった
まぁ見た目子どもなんだけどね
「いえいえ、それでは参りましょうか。ジオラルド様、失礼いたします」
ジオラルドに一礼し、執務室のドアを開けてくれた
「ジオさん行ってきます」
手を降ると、「ああ」と短く答えまた仕事を始めたようだ
ラリマーは柚子が部屋から出るのを見守り、また一礼して扉を閉める
「柚子様、こちらでございます」
ラリマーに付いていくと、階段を挟んで柚子の部屋とは反対側の一番手前の部屋に案内された
中は柚子の部屋と同じような作りになっており、塵一つないほど清掃されていた
よく見ると右側に扉が二つある
「この部屋は?」
「アランドル様の私室です。大浴場は一階にあるのですが他の隊員の皆様も使用されておりますので、少し狭いのですがこちらをお使いください」
ラリマーが手前の扉を開くと、ビジネスホテルでよく見るような浴槽の上にシャワーが付いているタイプのユニットバスだった
脱衣所と湯船は分厚いカーテンで仕切るようになっている
脱衣所には浴槽に引っ付くように小さな机が備え付けてあり、その上に容器に入った石鹸が置いてある
反対側には脱いだものを入れる篭があり、その横には着替えとタオルがピシリと畳まれていた
湯船に浸かるのは難しそうだな……
まぁシャワーを浴びられるだけましか
それより
「アランドル様って誰ですか?」
初めて聞く名前だ
「第2騎士団団長です。お風呂が付いているのは団長、副団長のお部屋のみなんです」
「団長さんですか。私が使っても大丈夫なんですか?」
許可はとってあるだろうが会ったこともないはずだし、シャワーを浴びてる時に帰ってこられたら嫌だな
「一年の殆ど遠征に行っている方なので、この部屋を使用されるのは年に数回なんです。ですので心配なさらなくて大丈夫ですよ」
忙しい人なんだな……
遠征って何をしてるんだろう
後でジオさんに聞いてみよう
「わかりました。じゃあ遠慮なく使わせてもらいます」
「かしこまりました」
ラリマーが失礼しますと言い、しゃがんで柚子のシャツのボタンに手を掛ける
「やっちょっちょっと待ってください!自分で脱げます!」
慌ててラリマーの手を掴んだ
脱がせてもらうなんて恥ずかしくて無理だ
「そうですか……かしこまりました」
ラリマーは立ち上がると、脱衣所の端で待機する
「あのっ出来れば外で待っていてくださると嬉しいんですが……」
この国ではこれが普通なの!?
脱衣所で待たれていると思うと落ち着けないよ
「ですが……浴槽に入る時や湯を出すときにお手伝いが必要ではありませんか?」
言われて気づく
浴槽は柚子の胸の高さまであり、一人で入るのは無理そうだ
シャワーの方を見上げてみると、洗面台と同じような青色と赤色の魔石がついていたが、手を伸ばしても届きそうにない高さにあった
手伝ってもらわないとシャワーも浴びれないじゃん
はぁーっとため息をついて、覚悟を決める
「お手伝いお願いします」
どうせ子どもの身体だし、見られても気にしない事にしよう!
服だけは自分で脱ぎ、手伝って貰いながらなんとかお風呂を終えた
スッキリした!恥ずかしかったけどシャワー浴びて良かった
揺ったりとしたフリルのついた足首まである水色のワンピースを着て、浴室を出る
「柚子様、こちらにお掛けください」
部屋にあったクッションが置いてある椅子をラリマーが引いた
「はい」
椅子によじ登ろうとしたところでラリマーに抱えあげられ椅子に座った
何から何まで申し訳ない……
「ありがとうございます」
「いえいえ、気が利かず申し訳ございません。髪を乾かしますね」
ラリマーは柚子の背に周り、頭に暖かい風が吹いてくる
ドライヤーもあるんだ
ちらりと後ろを振り向くとラリマーは手には何も持っておらず、魔法で髪を乾かしているようだった
魔法って色んな所で普通に使われてるんだな
「柚子様の髪はとても綺麗ですね。黒髪の方を初めて見ました」
「そうなんですか?私のいた国ではこれが普通だったんですよ。この世界に着て淡い色の髪の人が多くてびっくりしました」
そんな他愛もない会話をしながら髪を乾かしてもらった後、柚子の部屋で美味しくない食事を取って眠りについた




