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銀髪の騎士

ふと違和感を感じた。

なんか服が大きくなってる?

尻餅をついた体制のまま自分の体を見る。シャツもズボンもぶかぶかで靴は横に転がっている。


「成功したか」


急に低い大きな声が聞こえたことに驚き体がはねる。

なんか梨奈が大きくなってるような…と思いながら梨奈の足の間から前を覗くと白いローブの男たちが左右に別れ、騎士たちが膝をついて頭をさげる。

中央から赤く床まであるローブを引きずった男と白いズボンに茶色のブーツを履いた男が近づいてきた。上半身は梨奈に隠れて見えない。


「召還されるのは少女と聞いていたのだが…そなたが聖女か」

赤いローブの男が梨奈に声をかける。


「なっあなた誰よ、ここはどこなの?」


梨奈が後ろに一歩下がるのを見あげ、踏まれるかもと思い少し後ろに下がった。


「私はここ、ヒルデベルグ王国の王アレキサンドリア・ルイ・ヒルデベルグだ。驚かせてすまなかった聖女よ。

隣にいるのは王子のフィガロだ」


王の言葉に合わせて王子が一歩前に進み左手を胸の前におき、左足をまげお辞儀をした。


「聖女さま。フィガロ・ルイ・ヒルデベルグと申します。あなたに会えるのをお待ちしておりました。」


梨奈の左手をとり手の甲に短い口づけを落とす。


「っ」

梨奈の息を飲む音をきき、王子の顔を見上げてみる。

なるほどイケメンだ。

淡いみどりの癖のない髪をオールバックにし、金色のくっきりとした二重の眼、少し薄めの唇、きれいに通った鼻筋。

これ程整った顔をみたのは初めてだ。


「聖女さま、あなたのお名前をお聞きしても?」


王子が立ち上がると顔が見えなくなった。

ちょっと残念…もう少しイケメンを眺めたかったのに。


「わっ私は築山梨奈と申します」


「梨奈様、召還されたばかりでお疲れでしょう。

ゆっくりお茶を飲みながら事情を説明させていただいてもよろしいでしょうか?」


「はい、喜んで」


王子が梨奈の手をとり、来た道を引き返していく。

梨奈はボーッとした顔で王子を見つめ、ふらふらとついていってしまった。


王もそれを見て踵を返す。


はっとする。

私は!?どうしたらいいの!?


「王、お待ちください」


おろおろしておると右から声が聞こえた。

視線を右に向けると銀色の顎くらいまである髪をさらりと揺らし、跪いている騎士がいた。


「どうした」


「どうやらそちらの子どもも召還されてしまったようです」


王の顔がやっと見えた。

王子と同じ淡いみどりの髪、王子はストレートの短髪だったが王の髪はきつめのウェーブを描いて肩まで伸ばしている。金色の威厳のある小さめの目を細め、柚子を見下ろす。

すごい、映画に出てくるような典型的王様の格好だ!

ってちょっと待って、子ども?

改めて自分の体を見てみる。小さい。着ている服はどれもぶかぶかで手も足も服の中に完全に隠れていた。こちらを見ている人達がとても大きく見えた。

どういうこと?子どもって私のこと?私が子どもに?

そんなことを考えていると王が近づいてきて右膝をついた。目線を合わせようとしてくれているのだろうか、尻餅をついたままの柚子は王を見上げる。

見下ろされているとなんだか恐怖がわいてくる。


「そなたは聖女の子か?」


一瞬何を言われているかわからなかったが、慌てて首を左右に思いっきり降る。

「ちがいます!」

梨奈の子どもだなんて考えただけでゾッとする。


「ふむ、召還に巻き込まれてしまったのか…」


巻き込まれた!?冗談じゃない!


「家に帰してください!」


王は可愛そうなものを見るように柚子を見、首を左右に降る。


「帰すことはできない」


「なん…で…」

頭が真っ白になる。ここはどこ?帰れないってなに?どうなってるの?


「我々が知るのは召還の儀のみ、帰す方法がわからぬのだ。そなたには申し訳ないことをした。この国で不自由なく暮らせるよう手を尽くそう。」

わがままな子どもに言い聞かせるようにゆっくり、優しく、残酷な現実を語る。


「なんで…」

先程と同じ問いを口に出す。


「すまなかった」

そう言い頭を下げた王は立ち上がると部屋に響く低い声で問いかける。

「この者の面倒を見ることを希望するものはおるか」


静まりかえる部屋。皆が顔を見合せ考える。

先程梨奈は柚子に気づくこともなく部屋を出ていったのだ。聖女とはなんの関係もないであろう巻き込まれただけの大人用の服に着られている奇妙な子ども。

異世界から来たものを我が物に出来るいうメリットと面倒事が起きるかもしれないというデメリット。

2つを天秤にかけ、どちらが傾くか。


「私が引き取りましょう」

不意に声が上がった。

先程の銀髪の騎士だ。頭を下げたままなので顔は見えないが、他の騎士より小柄に見える。


「ふむ、第2騎士団か」

王が顎に手をあて考える。


「良かろう。そなたに任せる。」


「はっ」

騎士がさらに深く頭を下げると王は再度柚子をみた。


「何か必要なものがあれば遠慮なく申すがよい」

そういうと背中を向けて、歩いて行ってしまった。


呆然と王の出ていった扉を見る。

王に続いて騎士やローブの男たちが出ていっていた。

思考が追い付かない。

異世界?必要なもの?私本当に子どもになってるの?やっぱり夢?


「私と共に来なさい」


「ひゃっ」

急に近くで声がした。

驚いて右に視線を向けると銀髪の騎士が柚子を見下ろし、腕を組んでいる。

先程は見えなかった顔が見えた。銀髪のストレートで柔らかそうなな髪を顎のラインで切り揃え前髪はやや右側にきっちり分けていて耳が隠れている。

腰に剣はさしているが他の人と違って胸当てなどはしておらず騎士というより貴族みたいだなと思った。

瞳の色は深い青。王子と並んでいても見劣りしない顔の整った20代前半に見える男は言葉を繰り返す。

「私と共に来なさい」


はっとして立ち上がろうとしたが腰が抜けたのか力が入らない。

泣きそうになりながら男を見上げた。


「どうした?どこか痛むのか」

しゃがんで柚子の体を見る。冷たい印象だった瞳が心配するように細められた気がした。


見られているのが恥ずかしくなり、慌てて首を降る。

「腰が抜けて…立ち上がれません」


「そうか…」

男は少し考えた後、ふわりと柚子を抱き上げた。


「わっ」

急に目線が高くなり、とっさに男の首に手をまわす。


「歩きにくい…落とさないから手を離して体を預けなさい」

表情を変えずに歩きだす男の言うことを素直に聞き入れ、体を預ける。

小柄だと思っていたが背は高く180ぐらいありそうだ。体も筋肉質なのか固かったが伝わってくる体温が暖かく落ち着く。


「…」

聞きたいことがたくさんあるが、無表情な彼を見ていると怖くて声をかけにくい。

視線を感じたのか歩みを止めて柚子を見る。

「どうした」


「いっいえ!…あの」

慌てて視線を反らすとため息をつかれた。

ため息つかなくてもいいじゃん、涙がでそうになる。


「聞きたいことがあるなら言いなさい」


「…」


柚子が話すのを待ってくれている様子におずおずと顔を上げ

「どこに行くんですか」と小さな声で聞いた。


「第2騎士団の宿舎だ。男ばかりで大変だろうが従者を着けてもらえるよう打診しよう」


「…わかりました」

嘘だ。何にもわかってない。

頭が全然働いてくれず、理解出来ない。


「名前は」

表情を変えずに再び歩きだす。


「…小山内柚子です」


「柚子か。私はジオラルドだ」


「じおらりゅどさん」

噛んだ。もう一度

「じおりゃるどさん」

ダメだ、口も回らなくなってきた。


「ジオでいい、皆もそう呼ぶ。宿舎のものは見た目は怖いが皆気のいいものばかりだ。あまり怖がらないでくれたら助かるのだが…」


ぶっきらぼうだがゆっくり話すジオラルドの低くてよく通る声を聞いているうちに瞼が閉じてくる。

歩みに合わせて揺れる体、伝わってくるジオラルドの体温も合わさってそういえば昨日はあまり眠れなかったことを思い出した。

終電を逃し会社の仮眠室で横になったのだが、隣から聞こえてくるイビキと歯軋りのせいで眠れなかったのだ。


何度か懸命に目を開けようと目を擦ったりもしたのがもう眠気に勝てない。

ジオラルドと睡魔に身を委ねて諦めて目を閉じた。

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