情報収集と本題
「さて、では話を聞こうか。協力してほしいこととはなんだ?」
総師はリーファンをどこかへ飛ばし、柚子とは反対側のソファーに腰掛けた
「その前にいくつか聞きたいことがあるんです」
出来ることは協力するっていってくれたけど、いきなり本題に入っても協力してもらえない可能性がある
まずは情報収集だ
「わかる範囲で応えよう」
総師が一つ頷く
「この国は経済的に豊かですか?」
「他の国と比べれば豊かな方だろう」
「何故他の国より豊か何ですか?」
総師は面白い質問をするのだな、と目を細める
「まずは気候が温暖で作物が育ちやすく、収穫量も多い為食料が豊富だ。そして前聖女様のおかげで資源も豊富で質の良い魔石が採れやすく、他の国からやってくる冒険者や商人も多いのだ。」
「作物が育ちやすいという事はこの国の食料は自国で補えていると考えて大丈夫ですか?」
「そうだ。外国でしか手に入らない物もあるので全てではないがな」
予想はしていたけど、輸入に頼っている訳ではないとわかってほっとする
「なるほど。前聖女様について伺っても?」
確か梨奈が聖女様と呼ばれていた
食堂に居たときは頭に血が登っていて解らなかったけど、以前にも異世界から召喚された人がいるってことだ
「ああ。伝承によると聖女様は増えすぎて異常発生した魔物を殲滅し、土地を癒し、豊かにする力を持っていたそうだ」
なんだか神話を聞いている気分だ
魔物を殲滅って、この世界魔物がいるのね
でもそんな事が出来る人なんて本当にいたんだろうか
「前聖女様ってどれくらい前の人なんですか?」
「前聖女様が召喚されたのは1400年程前だ」
「1400年!?そんな昔……」
1400年も前の聖女様の力が残ってるって……やっぱり物凄い力を持っていたんだな
梨奈がそんな凄い力を持ってるようには思えないんだけど
梨奈の事を思い出していると扉からノックする音が聞こえた
「入りなさい」
「失礼いたします」
総師が入室の許可を出すと、髪を綺麗に上げ、丈の長い肩に膨らみのあるシンプルな濃紺のワンピースに控えめにフリルの付いた白いエプロンを着た50代くらいの侍女がティーセットを乗せたカートを押しながら深く一礼して部屋に入ってきた
侍女は素早い手つきで紅茶を入れ、総師と柚子の前に音もたてずにカップを置いた
カップは白にピンクと青の百合のような模様が描かれていて可愛らしく、ソーサーは白一色のシンプルなもので、カップの柄の鮮やかさが引き立っている
柚子のソーサーには角砂糖が2つ添えられていた
「ありがとうございます」
あまりにも無駄のない動きに目が奪われる
「いえいえ。それでは失礼いたします」
侍女は笑顔で応え、再度深く一礼して、部屋を出た
紅茶に砂糖を一つ入れ、口をつける
紅茶は飲みやすい温かさで入れられており、フルーティーで鼻から抜ける香りが心地よく渋味も少ない
「美味しい」
この世界に来て初めて美味しいと思えるものを口にした
凄く癒される
やっぱり美味しいは正義だ
「口に合ったようで良かった」
総師も紅茶を飲みほっと息をつく
「可愛いカップですね」
総師と花柄のカップの組み合わせが妙に合っていて、思わず笑顔が溢れる
「そうであろう。妻が選んでくれた物だ」
総師が愛しい物を見るようにカップを見つめ、優しく微笑んだ
総師って結婚してるんだ!
奥さんの話しも聞いてみたいけど、今は聖女様の話が先だ
「聖女様の話しに戻りますが、そんな凄い人ってことは聖女様ってやっぱり皆から信仰されているんですか?」
「もちろんだ。聖女様は国が危機に陥ったときに現れる慈悲深く、慈愛に満ちた女神の化身として崇められている」
ますます梨奈と結び付かないんだけど……
「なるほど。ちなみに聖女様が法律を作ったという話はありますか?」
「それはない。法を定める事が出来るのは王のみだ。聖女様の助言により施行されたと言われている法はいくつかあるがな」
そのうちの一つが今の食事情を生んでるってわけか
聖女様はこの法律の事何も思わなかったのかな……
新鮮な食材が全く食べられない状況になんて慈悲深く慈愛に満ちたとされる人がするのかな
「1400年前の法律って詳しくわかりますか?」
「文献を探れば出てくるかもしれんが……調べるとなると時間が掛かるだろう」
王様へのプレゼンがいつになるか分からけど、そんなに時間はないはず
昔の法律を探すのは諦めよう
「総師様。ここからが本題です」
温くなった紅茶を一口飲み、喉を潤す
ここからが勝負所だ
この人は国の中でもかなりの地位にいると思う
私の質問も馬鹿にすることなく丁寧に答えてくれるし、知識も豊富だから総師が協力してくれるかどうかでプレゼンの成功率が変わってくる
「聞こう」
「総師様は今の食事情をどう思っていますか?」
話題が急に変わったからか、総師がぽかんと口を開けている
「どうと言われても……まさか!」
柚子が何を言いたいのか気付いたのか、総師が勢いよく立ち上がった
「私はこの国の法律を変えたいんです。協力していただけませんか?」
にこりと笑顔を作り、総師を見上げた




