食事
「どうした?」
ジオラルドは目の前の席に座りながら頭を抱えている柚子を覗き込む
「ベリルって呼んでってお願いしてただけですよ」
ニコニコと笑いながらベリルが答える
お願いじゃなくて脅しでしたと言おうと思ったのだが、ベリルから視線を感じ慌てて口を閉じた
「ふむ…なら私のことも敬称なしでいい」
無表情で事も無げに言う
ついでとばかりに無茶言わないでよ
ジオさんを呼び捨てなんて難易度が高すぎる
「無理です」
短く答える
断られるとは思ってもいなかったのだろう
「そうか」と小さく呟き視線を落とした
「副団長が珍しく落ち込んでる!」
ベリルが面白いものを見たと目を細め頬杖をつく
「……黙れ。早く食事をとるぞ」
視線を上げることなく食べ始める
ベリルは柚子を見て怒らせちゃったと楽しそうに舌を出した
「俺たちも食べよっか。はい、柚子ちゃんもどうぞ」
勧められて自分の前に置かれた食事を見た
なにこれ…
数種類の野菜と小さな骨付き肉が入っている茶色く濁ったスープ、楕円形の黒パン、炙ってあるのか焦げ目のついた干し肉が並んでいた
どんなものが出てくるかワクワクしてたのに…期待を裏切られた気分だ
いやいや、見た目はあれだが味は美味しいのかもしれない
「いただきます」と手を合わせ、スープを掬い恐る恐る口に入れる
なにこれ……
野菜の旨味が全く感じられず、肉の臭みが詰まった塩味の強すぎるスープだった
スプーンを持ったまま絶句する
「どうした?ああ、黒パンの切り方が分からないのか」
ジオラルドは見当違いな事を言い、柚子の黒パンを指差す
黒パンが一瞬緑の光に包まれると、次の瞬間には5ミリ幅にスライスされていた
びっくりした!魔法かな?
「ありがとうございます。今の何ですか?」
黒パンを一つつまみ上げる
「魔法でスライスした。黒パンは硬いからな」
魔法ってこんなことにも使うんだ…
便利そうだけどなんか想像とのギャップが激しい
本やアニメに出てくる魔法は派手なものばかりだったからな
「柚子ちゃんもしかして魔法知らない?」
ベリルも自分の黒パンを魔法でスライスし柚子を見る
「はい。私のいた世界では魔法なんてありませんでした」
黒パンを一口噛ってみるが固すぎて噛めない
昔食べた黒パンはこんなに硬くなかったのに…
どれだけ保存していた黒パンなんだろう
「スープに浸して食べるんだよ」
ベリルが黒パンをスープに浸して少し噛み切って見せた
このスープに浸すんだ……
早くも食欲が失せてきた
黒パンは諦め最後の希望!と干し肉も食べて見たのだが、ただの焦げた味のするしょっぱい干し肉だった
ジオラルドもベリルも、他の隊員達も平然と食べている
もしかしてこの世界の人とは味覚が違うのかもしれない
せっかく出してくれた食事を悪く言うことはしたくない
でもこれはちょっときつい!
「ジオさん、ベリル、その……
美味しいですか?」
思いきって聞いてみた
二人ともきょとんとした後ベリルは笑いだし、ジオラルドは怪訝な顔をした
「美味しいわけないじゃん!でも食事ってこういうものでしょ?
まぁここのはちょーっと酷すぎるけどね」
「え?」
ベリルのあまりの言葉に驚愕する
食事ってこういうもの?
「食事は謂わば薬の様なものだ。美味しさは求めるものではない」
「は?」
食事に美味しさを求めない?何を言ってるの!?
「君の世界ではどうだったか知らないがここではこれが普通だ。じきに慣れるだろう」
「もしかして夜ご飯も…」
「これと似たようなものだな。スープの具材が変わる程度だ」
「嘘でしょ…」
あまりの事実に目眩がする
柚子にとって食事とは癒しであり趣味だ
作るのも好きだが、食べるのはもっと好きだ
美味しいものを食べるために仕事中も気付かれないよう筋トレしていたし、時間がある時はジムにも通った
彼氏が出ていった時も仕事で辛いことがあった時も美味しいものを食べて乗りきったのだ
美味しい食事は生きるための糧であり、ない生活など考えたこともなかった
それなのに……
この世界が一気に地獄に感じた
「まぁ、王族が食べているものは美味しいんだろうけどね。
俺たちと違って新鮮な食材を食べれる唯一の人達だから」
ベリルの言葉を聞くまでは




