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ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される  作者: とびらの
最期まで永遠に

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【閑話 僕は彼女と旅に出る】➀

 本日は晴天なり。澄み切った冬の空気の中、火の光を浴びた白亜の城はキラキラと輝いて見える。


 まぶしいなーと思いつつ、僕はぼんやりとその景色を眺めていた。ベッドの上で半身を起こし、下半身は毛布の中。ベッドのそばには小さな窓があり、グラナド城の正門…僕の職場がよく見える。今日は僕ではなく、他の人間が門番に立っていたけれど。


 僕……ディボモフ・トマス・テンダーは今、休暇をもらっていた。


 もともと、門番という仕事はそんなに責任のある立場ではない。僕以外にもたくさんいるし、僕はその中でも最年少の新人だ。平和な世の中で、門番は守衛ガードマンというよりただの受付、御用聞き、あるいは小間使いに近い。

 僕も戦闘力を買われたわけではなく、むしろ人当たりの良さ――といえばまだ聞こえがいいが、要は人畜無害の顔面をしているからってのが、雇ってもらえた理由らしい。

 そんな扱いが不満だったのはここに来て数ヶ月くらいのもの。今はもう気にしていない。平和なグラナド城は居心地が良くて、これがずっと続くに越したことはないと思っている。


 ……たまには、トラブルもあるけどね。


 思い出すと、首の付け根がズキリと痛む。僕は先日、この辺りを締め上げられたのだ。


 突然現れた謎の集団。僕は全く身に覚えのない、泥棒の疑いをかけられた。連行までされそうになったところでギリギリ、侍従頭のミオ様が助けてくれた。結果、これといって怪我らしい怪我もなく済んだけれど、一時は意識を失うまで絞められたのだ。念のため大事をとって、しばらく休むよう言いつかった。

 城主、キュロス様はこう言った。


「門番はずっと交代制で、まとまった休日は無かっただろう。何ならこの機会に故郷に顔を出して、羽を伸ばしてきてもいいぞ」


 ……別に、体も心もダメージなんかないし。

 休みを取ったって暇なだけだし。

 でもそこまで言われたら、いいえ働かせてくださいとは言えなかった。間違いなく、旦那様は優しさから言ってくださったんだろうし。

 ……でも……。

 僕は窓から顔を逸らし、大きく溜め溜め息をついた。


「……旦那様とマリー様、どこへ出かけて行ったんだろう」


 自分の膝小僧に向かって話しかける。


「いつ帰ってくるのか、何しに行ったのか、何にも教えてくれないし」


 ここ最近、旦那様の営むグラナド商会のほうで何やらゴタゴタがあったとは聞いていた。でもそれ以上の詳しいことは何も知らない。僕を連れて行こうとした連中の正体や狙いも、朝早くに旦那様達が旅立っていった理由も行先も、そして侍従頭のミオ様が、いつの間にか城から居なくなっていたことも……何も知らなかった。


 今回の件だけでなく、いつもそうだった。僕は毎日城門に立ち、人の出入りを見つめながらも、その人たちがどういう人なのかはずっと後になってから聞かされる。

 これは仕方がないことだと思う。普通の貴族は平民である臣下と会話なんかしないし、それでいうと旦那様は、ものすごく温かくおおらかな方だった。僕のような平民、ましてや外国から来た若僧に親し気に話しかけ、労ってくださる。誰からも差別されないこの城は、楽園みたいに居心地よかった。


 だから別に……それで、今まで不満なんかなかった……けど、なあ。


「はあ……」


 再び、大きく溜め息をつく。ベッドの上で膝を抱え、頭を埋めながら。


「本当に、故郷に帰ったほうがいいのかなあ、僕」


 と、その時。


 ――ゴンッ。と、変な音がした。


「な、何だっ?」


 びっくりして顔を上げる。音の出所は部屋の扉、廊下側から、扉に衝撃が加えられていた。


 ゴン。ドン。ゴン。


 ……なんだこれ。何か、重たいハンマーでゆっくりと殴っているような感じだけど、もしかしてノックか?

 誰かが僕を訪ねてきた。ディルツ語を話さない人間が……。

 つい先日恐ろしい目に遭ったばかりの僕は、冷や汗を垂らす。

 いや、扉に鍵はかけていなかった。悪意があるならとっくに襲いかかってきているだろう。


 ということは、ただの無口な客……?


 僕はベッドから降り、忍び足で扉に近づいた。そうっとドアノブを握り、一度深呼吸。そして一気に扉に開いた。果たして、そこにいたのは。


「ミオ様っ⁉」


 僕は絶叫した。


 僕の私室を訪ねてきたのは侍従頭のミオ様だった。

 どうやら扉に頭突きをしていたらしい。僕が突然扉を開けたせいで、こちらに向かって頭を突きだした妙な格好(ポーズ)で固まっていた。


 ……なんで?


 たしかミオ様は数日前から外出をしているはず。

 しかもミオ様、なんだか異様な服装をしている。

 真っ赤なチュニックに緑の革ベルト、あちこちについた金属製の(ぼたん)が、光を乱反射して全身ギラギラと光っている。防寒用であろうマントがこれまた酷く派手で、複雑な色をしていた。背中には一抱えほどの弦楽器――リュートっていうんだったかな。そんなものまで背負っている。まるで街で見かける大道芸人だ。僕は、ミオ様が楽器を嗜んでいるところなど、夢の中でも見たことが無い。

 彼女はそんな格好で、僕の部屋の前に佇んでいた。


 …………いやほんとになんでだよ?


 ――しばらく、息が詰まるような静寂と、何とも言えない空気が漂う。

 一体どこから突っ込めばいいのだろう。答えが出ないせいで、謎の無言の()が続く。

 耐えかねて、僕は彼女に問いかけた。


「……とりあえず……その。お疲れ様です?」

「とりあえず部屋に入れてください」


 ミオ様の口調だけはいつも通り、平坦なものだった。


 僕は言われた通り、大きく扉を開けて、ミオ様を部屋へと導いた。


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