表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される  作者: とびらの
最期まで永遠に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

340/348

旅の雑談

 そのまましばらくみんな無言で、ただ穏やかなだけの旅が続いた。


 やがて土の質が変わったらしい、揺れをこらえるのに必死だったのが少し収まって、馬車はスムーズに走り始めた。するとキュロス様が、何かイタズラを思いついたように目を輝かせた。車室の窓を開け、御者台のルイフォン様に声をかける。


「ルイフォン、暇だ」

「……だったら操縦を代わるかい? 慣れてないと振り落とされるけど」

「いやそれは遠慮する。それより、暇つぶしに面白おかしい小話でも披露してくれ」

「小話ぃ?」

「ああ、歌でもいいぞ。キュロス・グラナドの栄華を歌う英雄賛歌(バラッド)でも」


 キュロス様に雑に扱われた上、吟遊詩人扱いされて、ルイフォン様は「むっ」とわかりやすく不機嫌そうな声を漏らした。

 何か言い返そうと口を大きく開けてから、途中でやめる。それからフフンと鼻で笑い、いつもの飄々とした口調で言った。


「じゃあこんな話はどうだろう。キュロス君の、学生時代のヤラカシ歴」

「えっ、キュロス様の?」

「ちょ――なんだって⁉」


 キュロス様は慌てて身を起こしたけど、わたしはその場で待機した。

 正直、ちょっと聞きかったので。

 わたしの好奇心を察知したのか、ルイフォン様はニコニコ笑う。


「いやー、今は名高きグラナド公爵も、十二の頃には年相応の、無邪気でお馬鹿な男子だったからねえ。まずは授業の初日、入学式のあとの自己紹介。どうやらグラナド公爵家の嫡男ってのは伏せたかったらしいキュロス君は、無駄に偽名を使ったんだけど――」

「わーっやめろおまえ、何の話をする気だ!」


 キュロス様は御者台に繋がる窓に腕を突っ込み、ルイフォン様のマントを捕まえた。

 後ろからマントを引っ張られ、ガクガク揺さぶられながらも、ルイフォン様は満面の笑みのまま。


「ハッキリ言ってこの国の貴族ならグラナド家のごたごたはみな知っているし、この容姿だから隠しようがなく、偽名なんて無駄なんだよね。だからみんな、何言ってんだコイツ? っていう白い目で見て――」

「わーっわーっ!」


 キュロス様はルイフォン様を黙らせようと苦心したけれど、窓は彼の体を通せるほど大きくない。マントを掴んで揺さぶるくらいしか出来ず、焦るキュロス様と、それでも黙らないルイフォン様。

 ああああっ、馬車が揺れるぅ。いくら悪路に強い戦馬車とはいえ、手綱を握っている人間がガクガク揺れていれば馬も戸惑う。座っていられないほどグラグラ揺れはじめた。


「あ、あのお二人とも、口論するなら座って……! わああああっ」


 か細い声で抗議をしたけど、テンションの上がった二人のじゃれ合いは止まらない。


「さらに! 使った偽名がまた傑作で! なんと古代神話の半神半人の英雄の名前だよ、こいつ自認英雄なのか? ってほんとみんな笑いをこらえるのに必死でさー」

「自認とかじゃない、ただ思いついた名前を言っただけだっ!」

「はいキュロス君の嘘吐きぃーっ、学園祭の仮装パーティーでもやってたぁー、これもみんな知ってるぅー」

「お――おまえこそっ! 聞いたぞ、アナスタジアとの初デートでさんざん服装に迷った挙句とんでもない格好で」

「ちょっ、誰から聞いた⁉」

「アナスタジア経由でノーマンから」

「あのクソ義父(おやじ)――いやそれよりキュロス君、最近の話をするのは反則じゃないか。。今、十代の黒歴史について語る場面だったろう」

「十代の? それこそ口にするのも憚られるような『オイタ』がいくらでも出てくるなあ。そうだマリー、これから話す内容はメモを取っておいてくれよ。こいつは俺の話を君に聞かせたのだから、ルイフォンの話はアナスタジアに書簡を出そう」

「待ってキュロス君ほんとうにそれはごめんって――」


 どったんばったん揺れる馬車。


 わたしは窓枠を掴んで踏ん張り、時々笑って力が抜けそうになりながらも耐え忍ぶ。お二人とも大人なのでそんなに長くは続かない――はずだけど。

 長い旅で、きっとまた何度かやるんだろうなあ。


 はあと嘆息し、喧噪を聞き流しながら、窓からの景色を眺める。

 遠く、うっすら雪がかった山が見える。その麓には関所があって、それがディルツとオラクルの国境になっていた。


 ここを越えて、さらにその先の港町から船を出せばイルダーナフ島まではすぐである。

 ――そこに何が待っているのかは、わたしにもキュロス様にも、まだ分からない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ