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ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される  作者: とびらの
生命の分水嶺 編

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299/320

夢のあとしまつ

 

 数か月後、裁判の結果が下った。


 エラはディルツ国内の最も堅牢な地に拘留され、禁錮二十年の刑に処された。

 『雇い主である貴族の命令に従っただけ』であれば、ここまで重い罰にならないはずだった。だが、証人として同伴した雇い主が、「エラはオレのために、命じていないこともやってくれた」と弁明、結果、エラの犯行は彼女個人の暴走とされたのだ。減刑のための弁明をしてくれると期待していたエラは、この結末に愕然としたことだろう。法廷で怒鳴り散らし、さらに罪を重くしたと、新聞には記されていた。

 ダリオ侯爵も、完全に無罪放免とはいかなかった。もとはと言えば彼がグラナド公爵位を狙ったことで起きた事件だ。二度とそんな野心を持てないよう、侯爵位の取り上げと、十年間の国外追放――そして前グラナド公爵令嬢の夫という立場も失った。

 傍聴に行ったウォルフガング曰く、ダリオはそれで満足そうにしていたという。

 他人のせいにし続けるエラと、悲劇に酔っているダリオ。あの二人の夢舞台がいつまで続くのかは分からない。十年、二十年――苦しい生活が続くうちに覚めるものかもしれないし、覚めないままかもしれない。

 もしも二人が舞台から降りた時、どうなるのかは……俺にはわからない。



「――では、私は何もおとがめなし、ということで決着したのですね」


 すべての事が片付いて。

 公爵邸に俺を呼びつけた義姉、ソフィア・グラナド・アフォンソは、そんなことを言った。俺は頷き、数枚の書類を手渡す。


「もちろんだ。あなたは何も悪いことをしていないのだから」

「それでも、ダリオが『妻のために』と主張している限り、私も審問に呼び出されるくらいの覚悟はしておりました。きっとキュロスが尽力してくれたのでしょう?」


 俺は何とも返事がしづらくて、彼女の細い指が紅茶を淹れるのを、ただ黙って見ていた。

 白い皿に茶菓子を並べながら、ソフィアは言う。


「……とはいえ。ダリオと離縁をした以上、アフォンソ家には居られません。近いうち、ディルツに出戻りです」

「ご令息はスフェインに残るのですよね。ならばあなたはその母親として、侯爵邸に残ることは出来たのでは……」

「ちょうど、この公爵邸の管理も気になっていましたからね。アルフレッドの亡きあと、主不在の状態でしょう? キュロスは商売が忙しいし、グラナド城のほうに居着いてるし」

「……そうですね。姉上に住んでいただけるなら、正直ありがたい、です」

「それでもあなたにとっても生家です。たまには妻子を連れて遊びにいらっしゃい」


 そう言って、ソフィアは自分で淹れたお茶を飲んだ。

 その表情から本心をうかがい知るのは難しい。俺は苦笑した。 


「思っていたより落ち着いていますね。ダリオとはお互い、大恋愛だったと聞いておりますが……」

「だからこそです。政治、経済的なメリットではなく色恋で結ばれた夫婦、ならば恋の熱が冷めてしまえば、簡単に破綻してしまう。それくらい、覚悟しておりましたので」


 ソフィアはそんなことを言った。


「二十年、ともに楽しい時間を過ごしました。それで十分です」

「……俺にはわかりません」

「もしも今回の事件で妻子を失っていたとして、彼女との出会いを後悔していましたか?」

「…………いいえ」

「そういうことです」


 俺は何も言えなくなった。

 昔から、この義理姉のことが苦手だった。愛想が無くて、そのくせ怒ると怖くて、気難しい。優しいのか厳しいのかもわからないところも、彼女の母によく似ていて……。


「家族を大事にしなさい、キュロス。いつか必ず失ってしまうものなのだからこそ」


 俺は彼女が淹れてくれた紅茶を喫って、苦笑した。


「長生きしてくださいね、姉上。できることなら、面白おかしく」

「そうですわね。晴れて独身になりましたし……リュー・リュー様に頼んで、褐色肌の美男子でも紹介してもらいましょうね」


 ソフィアはそう言ってから、すぐに「ぶふっ」と紅茶を噴きだした。自分で言った冗談に、自分で受けたらしい。


 腹を抱えて、涙をこぼして大笑いするソフィアを、俺は黙って見守っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] > 腹を抱えて、涙をこぼして大笑いするソフィアを、俺は黙って見守っていた あー、渋い表現ですね。 字面だけでは見えない笑い泣きが見て取れます。 キッパリサバサバと諦められるわけではないで…
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