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ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される  作者: とびらの
生命の分水嶺 編

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戦慄の古城①


 翌日、早朝。

 わたしが朝食を作ろうと食堂に入ったその時、ルイフォン・サンダルキア・ディルツが、うつぶせで倒れていた。

 あたりに拡がる赤い液体。わたしは叫んだ。


「し、死んでる!」

「死んでない死んでない」


 ルイフォン様は手をパタパタ振りながら起き上がる。その手には赤く塗れた布が握られていた。ああ良かった、床に零れた赤い液体――おそらく赤ワイン――を拭き掃除していただけなのね。身分が身分なだけに、暗殺者に狙われたのかと思ったわ。

 一度ホッとしてから、冷静に状況を把握して、また悲鳴をあげる。


「どうしてルイフォン様が雑巾がけなんてしてるんですか!?」

「俺もいるぞ」


 と、その横、テーブルの下からキュロス様が這い出てきた。わたしはまたまた悲鳴を上げた。

 ディルツの第三王子ルイフォン様は言うに及ばず、先日グラナド公爵家を継いだキュロス様もまたこの国で最上級の大貴族。そんな二人が早朝から、なぜ床を這うようにして掃除をしているの!?

 混乱するわたしに、親友コンビはどこ吹く風。むしろ何を驚いているのかと不思議そうに、雑巾を持って首を傾げた。


「昨日、ルイフォンがダリオにワインをぶっかけただろう? あの時、テーブルの下がそのままになってたんだよ。なので、拭いてる」

「僕はそのお手伝い」


 バケツの上で雑巾を絞りながら、ルイフォン様が続ける。お手伝いというなら、ワインをかけたのはルイフォン様なのでキュロス様が手伝っている気はするけれど。どちらにせよ、お二人に雑巾がけなんてさせられないわ。わたしは彼らに手を伸ばした。


「そ、それならわたしがやります、代わってください」

「どうして俺達じゃダメでマリーなら良いんだよ」


 どうやら完全に冗談だと思われたらしい。そのくらい当たり前に、二人は掃除をしていた。ぽかんと見つめるわたしの顔があまりにも不思議そうだったのか、気付いたキュロス様は「ああ」と思い当たったように頷いた。


「本当に気にしなくていい。学園では、自分の部屋は自分で掃除をするルールだったからな。グラナド城ではミオがやらせてくれないんだ、旦那様は大雑把すぎてメイド失格だと」


 それ、合格したら大変なことになるのでは?

 ルイフォン様も同じ学園出身で、騎士団の私室は自己管理しているとのこと。慣れた手つきで雑巾を濯ぎ、また床を拭き始めた。


「いいから僕達に任せたまえ。赤ちゃんが酒の匂いを嗅ぐのも良くないでしょ」


 そういえば、床からは木板とワインの入り混じった、なんとも渋い匂いがする。「ちょっといい匂いだなコレ」なんて言っているキュロス様を、ぼんやりと眺めながら、わたしはふと呟いた。


「……アルフレッド様も、ワインがお好きだったわね」

「ああ、誕生日や記念日には、世界中の要人から各国の名物ワインが送られてきたものだよ」


 キュロス様が受けてくれる。


「もしもまた取り寄せられるなら、ミュージアムの展示にしてみてはどうかしら。公爵の愛したワイン達、とコーナーを作って」

「それは名案。いっそ土産として販売してもいいかもな。案外、コレ目当てに来る客もいたりして――もちろん、良い保存状態をキープできる施設ならばと言う限定だが」


 キュロス様の言葉で、わたしはふと気になった。


 ……そういえば、古城って今、どんなカンジなんだろう?


 トマスに偵察に行ってもらったけど、エラとの遭遇により深掘りして聞いていなかった。結局わたしもキュロス様もまだ、現場を見たことが無いままである。

 トマスからちゃんと話を聞く前に、彼は街まで捜索隊を呼びにいってしまった。さてどうしたものかと考え込んでから、思いついたことを提案してみる。


「わたし達も直接、観に行ってみませんか? リサの気分転換も兼ねて」


 わたしが言うと、キュロス様は確かにと頷いた。


「確かに、ここからすぐ近くということだし、ちょうどいいかもな。ある程度の人数がいれば危ない森ではない」


 わたしとキュロス様は呑気にピクニックを計画したけれど、ルイフォン様は少し、真剣な顔をした。


「ちゃんと現場見て、監修しといたほうがいいよ。ダリオ任せにしておくのは危ない。アルフレッド公爵の醜聞……特に正妻ローラ夫人とリュー・リュー夫人との諍いについて、あることないこと書き立てて、キュロス君の評判を落とす手段も使ってきそうだもん」


 それはいけない。なんとしても、ミュージアムの監修に乗り出さないと。

 そうと決まれば善は急げ、同行するメンバーを募らねば。

 護衛にウォルフガングは必要不可欠として、チュニカはきっと「めんどくさいので嫌ですぅ」と言うだろうな……と思いつつ声をかけると、意外にも彼女は身を乗り出してきた。


「サンダルキア地方の古城! ぜひぜひ、私も行ってみたかったんですよぉ。初めからコレ目当てでついてきたまでありますしぃ」

「あら、チュニカは古い建築に興味があるの? 第二王子のリヒャルト様と話が合いそうね」

「ふふふん、そういうわけじゃないんですけどねえ」


 なんだろう、とっても嬉しそうなチュニカ。踊るような足取りで、出かける支度を始めた。


「古城のほうがハズレでも、楽しそうだから行きますよぉ。みんなでピクニックですねぇ。私、お弁当を作りましょうかぁ」


 その申し出は丁重にお断りした。


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