魔法使いは勘付いている
静かな森のなかに佇む、一軒の屋敷。
そんな一種の閉鎖空間で、エラと共にいることは正直不安だった。屋敷は立派ではあったけど、グラナド城とは比べ物にならない一般家屋である。一つ屋根の下で暮らしていれば、どうしても生活圏は重なってくる。
それでも案外、平和な時間が続いた。さすがに気まずかったのか、エラは出来るだけ一つの部屋にこもり、気配を消すようにしているらしい。食事もわたし達とは時間や場所をずらしているらしく、一日でエラの姿を見かけるのはせいぜい一度か二度、会話は全くしなかった。
それでいて、エラは夜のうちに家事を済ませてくれていた。頼んだわけではなかったけど、朝起きてくると食卓には朝食が並び、厨房の鍋には一日分の料理がこさえてあった。ダリオ侯爵に毒見――もとい味見として先に食べてもらい安全を確かめてから、わたし達もいただく。
エラの料理は、はっきり言って、美味しかった。わたし達に姿を視られないようにしつつ、これだけの料理を作り上げるのは本当にすごいと思う。
わたしは彼女の家事に感謝をした。そしてけなげに思う。
なんというか……彼女はやっぱり、悪い人じゃないのでは、とか。ほんの小さなすれ違いがあるだけで、仲良くなれるんじゃないかって、思ってしまう。
わたしがもっと歩み寄れば……彼女の気持ちを汲んであげられていれば……って。
夜、髪を梳ってくれるチュニカにそう話すと、チュニカは肩を竦めた。
「あまい、あまい、あまい。マリー様は甘々でいらっしゃいますわぁ」
「そ、そう?」
「そうですとも。だって嫌な感じでしたよぉ。今日の食事だって、牛肉の巻き煮込み(リンダールラーデン)だったし。やってることはイヤミな姑じゃないですか」
……あ。そう言えば以前も、わたしが作ったパエーリャを吐き出した翌日に、完璧なパエーリャを作っていたっけ。チュニカの言うようにわざとのイヤミなのか、全くの善意なのかは分からないけど。
グラナド城では、エラとチュニカはあまり接点が無かった。今、こうして一つ屋根の下で暮らしていて、なにか思うところがあるのだろうか。
「チュニカは、エラが悪い人だと思う?」
意見を求めてみたけれど、チュニカは「んー」とあいまいな声だけ漏らし、返事をくれなかった。それよりも、と明るく続ける。
「このお屋敷には、あと二、三日は滞在するんですよねえ? アルフレッド公爵様のミュージアム計画完成まで」
「ええ、そうなるでしょうね」
「だったら、黙ってまぁす」
チュニカは自分の口元に指をあて、にやりと目だけで笑って見せた。
確かにチュニカの言う通り、無事に済むならそれに越したことは無いわよね……。




